第66話 転生者とわんちゃん
≪ポンコダンジョン入口≫
「(よしポンコ!やってくれ!)」
俺は外にいた3人の内、一番後ろにいたごぶ助がダンジョン内へ入ったのを確認して、ポンコへと呼びかけた。すると、ダンジョンが少し揺れ始めた。
「ごぶ?揺れてるごぶ」
「(ああ、恐らく移動の予兆だろう)」
俺は状況から察せられた推察を、未だ続いている人間と魔物の戦闘の様子を見ながらごぶ助に話した。すると、ダンジョンの振動に驚いて、辺りをキョロキョロと見回していたごぶ助はこれからの話を振って来た。
「ごぶ、これで暫くはのんびりできるごぶ?」
ポンコが言うには、積極的にポンコを狙ってくるダンジョンは無いと言っていたので、のんびりしようと思えばできるのだろう。しかし俺は、今回の様にいつ何時力が必要になってくるかわからないので、なるべくならレベル上げをしたかった。
なので、そうごぶ助に言っておくことにした。
「(多分な。といってもレベル上げとかはしたいがな)」
「ごぶごぶ・・・」
俺の言葉を聞いて、ごぶ助は何やら関心しているのか頷いていた。そして何やら、やれやれといった感じで話しかけて来た。
「ごぶ、相棒、あんまり頑張りすぎてもよくないごぶ。ほどほどにやるごぶ。それと相棒・・・」
そこまで聞いた時、俺は外から何かが迫ってくるのに気づいた。しかもその何かは、このままいくとごぶ助に直撃するコースである!
俺は焦りながらごぶ助に向かって叫んだ!
「(ごぶ助ぇぇぇ!後ろだぁぁぁ!)」
そう叫んだものの、ごぶ助はそれに対して防御も回避も間に合いそうになかった。
俺はならばと思い!間に合うかは解らないが、『守護の壁』を何かの進むコース上へと展開しつつ、ごぶ助に体当たりをかまして何かの直撃コースからずらす。
何とかごぶ助を直撃コースから逃す事には成功した。だが、その代わりに俺がそれを避けれずに当たってしまう。
しかし幸いな事に、何とか『守護の壁』は間に合ったようで、何かと俺の間に障壁ができていて、何かから俺を守ってくれた。
よしっ!と喜んでいたのもつかの間、その何かはどうやら攻撃の為の物ではなかったようで、俺は障壁事ダンジョンの外へと引き寄せられてしまった。
「ごぶっ!?相ぼ・・・」
ダンジョンの外へ引き寄せられる瞬間、ごぶ助のそんな言葉だけが聞こえた。
・
・
・
「(ぐおっ!?・・・っく!)」
何かに捕まり、ダンジョンの外へと引き寄せられてしまった俺は、地面へと投げ出された。だが直ぐに起き上がり、戦場になっているであろう周囲を見回す。
「(なにっ!?人間達が押されているっ!?)」
俺達がダンジョンへ入る前に見た限りでは、人間側の強者が戦場へ出たことにより、戦況は人間側の方が有利になっていたと見たのだが、今は魔物側が有利に見えた。
一体何が起こった!?と思い更に詳しく戦況を見ようとした時・・・。
「あぁ?くそっ!迷宮が消えちまいやがった!」
「(・・・っ!?)」
そんな声がすぐ傍から聞こえて来た。
俺は声の聞こえて来た方向と逆に素早く動き、声の主へと問いかけた。
「(誰だお前・・・。もしかして俺をダンジョンの外へ引き寄せたのはお前か・・・?)」
コボルトによく似た姿をした声の主は、面倒くさそうにその凶悪な顔を俺に向けて、俺の問いには答えずに独り言を言い出した。
「かぁ~・・・、しかも狙ってたのと違うのが連れちまった・・・。いらねぇ~、黒いだけの犬とかいらねぇ~」
そいつはごぶ助を意図的に狙ってダンジョン外へと引き寄せたらしい。その後も言っていた独り言を聞く限りでは、戦場にいた魔物から派手に暴れていたごぶ助の事を聞いたらしく、それで狙ったらしいのだが・・・。
何だコイツ・・・、敵側のボス格か・・・?取りあえず鑑定かけてみるか。
名前:長谷川 良太
種族:ウォーワーウルフ
年齢:??
レベル:??
str:???
vit:???
agi:???
dex:???
int:???
luk:???
スキル:??? ??? ??? ??? ??? ??? ??? ???
・・・・・・・・
ユニークスキル:??? ???
称号:??? ??? ??? ??? ???
何だコイツっ!?スキルの数が尋常じゃない!しかもステータスが見えないという事はかなり各上だ!それに・・・。
「(長谷川良太・・・?)」
「あぁん!?俺をそう呼ぶんじゃねぇ!俺の事はヴォルフと呼べっ!」
明らかに前世の人間みたいな名前だった為、思わず口に出してしまったのだが、自称ヴォルフはそれに対して物凄い反応を返してきた。今までは俺の事を何とも思わず気にも留めてなかったのだが、名前に対して何かよっぽどの事があるのだろうか?
「ん?っていうかさっきの犬か。お前一丁前に迷宮語ペラペラだな?どれ・・・」
ヴォルフは何やら俺の事をジロジロ見てきた。俺はそれに警戒して身構えていたのだが、ヴォルフは突然笑い出し始めた。
「ぶはっ!ぶはははは!なんだよそのスキル!明らかにおかしいの混じってんじゃん!ダジャレか?それに『神突っ込み』って、お前お笑い芸人かよっ!ぶはははは!」
どうやらヴォルフは俺に鑑定をかけてステータスを覗いたみたいだった。そしてその鑑定結果を見て笑っている。
然しこいつは今「お笑い芸人」と言った、やっぱりこいつは前世の世界の事を知っている?もしかしてこいつも転生者?
「ぶははは!しかもブラックドッグって!黒い犬だからか!?ギャグじゃん!ぶははは!」
「(いつまで笑ってるんだよ長谷川)」
「あぁん!?だから俺の事はヴォルフと・・・」
「(お前も転生者か・・・?)」
ヴォルフにステータスに出ている名前を言うと、笑うのを止めて再び訂正してきた。俺はそのヴォルフの言葉に被せる様に、ヴォルフに対して転生者なのかと問いかけてみた。
するとヴォルフは軽いノリで答えて来た。
「そうだぜ?何だお前もか?」
「(あぁそうだ。転生する前は日本人だった)」
「へぇ~、俺と一緒じゃん?奇遇だなぁ?」
ヴォルフはあっさりと前世が俺と同じく日本人だったと肯定して来た。
意外と多いのか転生者?わんこ神様は「偶然目に留まってたまたま空きがあるから」とか言ってたんだが・・・。まぁそれは今はいいか。
俺は転生者の数については置いておく事にして、目の前のヴォルフを見て思う。これはチャンスだ。
ヴぉルフは恐らく敵のボス格か幹部格だろう。だがそのヴォルフは俺と同じ元日本人、という事はもしかしたら説得できるかもしれないし、ひょっとすると協力関係を結べるかも・・・。
俺はそんな考えを思いつき、ヴォルフへと提案してみた。
「(あぁ、奇遇だ。それでヴォルフ、元日本人のよしみとしてお願いがあるんだ。実はお前らが攻めていたダンジョンは俺と仲間が暮らすダンジョンなんだ。攻めるのはやめてくれないか?もしやめてくれるのなら、これからは協力関係とかも築いて行けると思うんだよな)」
どうだろう?とヴォルフに問いかけると、ヴォルフはニッコリと笑顔になった。
これはイケるのでは?と笑顔のまま近寄ってくるヴォルフに、俺も笑顔で返しながらヴォルフが近寄ってくるのを待った。
やがてヴォルフは俺の真ん前に立ち、手を差し出してきた。
「(握手・・・か?ってことは・・・?)」
「ああ」
よしっ!と心の中でガッツポーズをとり、俺はヴォルフの握手に応えようと片手を前に伸ばす。
すると・・・。
「そう、こういうことだ」
「(ぐふぉっ・・・!)」
ヴォルフはそう言い、差し出していた手を俺に振るってきた。
俺は軽々と吹き飛ばされ、木を2,3本なぎ倒したところで止まった。
「(な・・・なにを・・・。協力関係になるんじゃ・・・)」
俺はよろめきながら立ち上がりヴォルフに向けてそう言った。ヴォルフはやれやれといった感じで首を振りながら俺に近づいてくる。
「ばっかだなぁお前、そんなのなるわけないじゃん?」
「(なっ・・・!)」
「弱いお前と協力関係とか意味ねぇし。後なんだ?元日本人のよしみとか言った?そんなの関係ねぇつーの。そもそも元日本人とかすでに何人かやってるしな」
「(・・・は?すでに何人かやってる・・・?殺したって事か!?)」
ヴォルフは軽く言ったが、俺には衝撃的な事だった。何人も転生者がいるのは勿論だが、ヴォルフはすでに何人も転生者を殺しているという。
「(な・・・なんで殺したんだ!?お前と同じ元日本人だろう!?)」
「は?何言ってんのお前?元日本人とか関係ないでしょ?もしかして君、転生してから人間も魔物も殺したことがないんですかぁ~?」
「(い・・・いや、殺した事はあるが・・・)」
「えぇ~?殺したんですかぁ~?今同じ世界に生きてる者達じゃないですかぁ~?そいつらは何で殺してもいいんですかぁ~?」
「(そ・・・それは・・・)」
たしかにヴォルフの言う事にも一理あった。俺はまだ前世の事を引きずっていて、前世の事だけ特別扱いしているみたいだった。
現に、魔物へと転生してからは食べる為に殺し、強くなるために殺し、報復する為に殺した。魔物も人間も、話が通じる通じないも関係なく。
そんな俺がヴォルフに何かを言う資格など確かに無いだろう。
「(た・・・確かにそうだ。俺も生きるために他の生物を殺した・・・。だからお前にとやかく言う資格はなかったな・・・)」
「でしょぉ~?だから俺が転生者を玩具にして遊んだり、喰ったりしてもお前が文句を言う資格はありませぇ~ん」
「(・・・は?)」
だが、こんなクソ野郎にならば言う資格があるのかもしれない。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
長くなりそうなので分割、変な所で区切ってすいません。
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