第60話 虫ダンジョンとわんちゃん3
そこは白くて広大な空間だった。床は白く天井も白い、壁は空間が広すぎて確認できないが、恐らく白いのであろう。
そんな空間の中で俺は目覚めた。
「(ふぅあ~、良く寝た・・・のか?)」
俺は体を伸ばしながら欠伸をする。そして一通り体を伸ばし終えると、隣で重なり合うように寝ていた二人に声をかける。
「(ニコ、ミコ、起きろ。朝だぞ!・・・多分)」
「わう・・・」
「あう・・・」
ニコとミコは目をこすり欠伸をしながら起きる。若干寝ぼけている様で、何やらムニャムニャ言っている。そんな二人を見ながら、俺は改めてこの空間を見回す。
「(しっかしここ・・・、一面真っ白で時間の感覚が全く分からないな。休憩所には最高なのかも知れないけど、長い事いたら気が狂いそうだな・・・)」
この場所は・・・『レモンの入れもん』の中だ。
俺はこのスキルの鑑定結果に、レモンの香りで敵性体を近寄らせない休憩所になる、そう書いてあった事を昨晩の夕食前に思い出した。なので、夕食を食べた後少しだけ実験をして、確かに敵が近寄ってこない事を確認したので、スキルの中で休んでみる事にしたのだ。
だがこのスキル、確かに敵が寄ってこずに休憩所にはなるのだが、長時間いるのというのは少し難しい感じであった。それは何故かというと、このスキルの中の空間に何もなさすぎるせいである。
存在するのは白い床、天井、壁のみだ。まるで牢屋である。
「(まぁでも、敵のダンジョンで安全に休めるんだから文句は言えないか)」
そう、たとえ牢屋であっても、見張りも立てずに全員が安心して休めるので使わない手はないので、休憩する時は使っていこうと思う。
「わう、おはようわう」
「あう、おはようあう」
この空間についての考えていたら二人の目が完全に覚めたみたいで、おはようと挨拶をしてきた。
「(ああ、おはよう二人共、とりあえずご飯にしようか。ええっと・・・食材はどうしたらいいんだ・・・?)」
俺も二人に挨拶を返し、ご飯を作ろうとする。しかしご飯の準備をしようにも食材が見当たらず、どうしたらいいんだと思っていたら・・・、急に目の前に黒い穴が開いた。
「(うおっ!?びっくりしたぁ!)」
俺は急に現れた黒い穴に驚き後ろへ飛びのいた。そして飛びのいた姿勢のままでその黒い穴をじーっと観察する。
「(空中に開いているのか・・・?まさか・・・)」
食材の事を考えていたら出現した物なので、もしかしたらここから取り出せるのでは?と考え、その黒い穴に近寄り恐る恐る触ってみる。
すると触った部分に半透明の板みたいなものが現れた。どうやら入れてある物の一覧リストみたいだ。
「(なるほど・・・ええーっと、じゃあこの肉とこのキノコっと・・・)」
爪の先で板に表示されていたほしい物をつつく、すると黒い穴からその品物が出て来た。どうやら使い方はあっていたみたいだ。
無事に食材を取り出せたので、そのまま魔法を使い食材を焼くと良い匂いがしてきた。その匂いはその場にこもらずに周りへ流れていった。何処かからか空気が出入りしているのだろうか・・・?
疑問には思ったが確かめる方法もないので放って置く事にした。考えても解らないモノは解らないのだ。今はそれより出来上がったご飯である。
ニコとミコは今か今かとご飯が出来上がるのを俺の近くで待っていたので、焼きあがったご飯を渡して皆で朝食を取り始めた。
・
・
・
「(よし、それじゃあ3階層へと進むぞっ!)」
「わう!がんばるわう!」
「あう!あうあう!」
朝食を取り終わった俺達は『レモン空間』から外に出て、今は3階層へ続いている筈の、ダンジョン入口とよく似た土山の前にいた。
因みに『レモン空間』とは『レモンの入れもん』の中にあった空間の事で、俺が命名した。名前に関しての異論は認める。
それはともかく、いよいよ3階層である。2階層がこのような森になっていたので、3階層も洞窟でなく広大なフィールドになっているのだろうか?
あまり厄介な場所じゃなければいいなと思いながら、二人と一緒に土山に開いている穴へと進みだした。穴の中は通路になっており、少し歩いていると通路の感じが変わってきた。
「(通路の感じが変わって来たな。いよいよみたいだ。注意していくぞ!)」
一応二人に声をかける。二人も解っている様で一言だけ声を発して了解の意を返してきた。
やがて通路が終わり、俺達は3階層へと足を踏み入れた。
「(これがこのダンジョンの3階層か・・・。ココもまた変わった感じだな)」
3階層は2階層と同様にただの洞窟ではなく、広大なフィールドになっていた。
そこは一面茶色しかなく、見渡す限り目に映るのは土と岩だけといった様相で、2層の森とはがらりと変わっていた。
「(さしずめ荒野フィールドってか?ちなみにミコ、敵の気配はあるか?)」
見える範囲に敵の姿はないが、一応ミコに確認を取る。ミコはちょっと待ってくれと言って集中した様子を見せて索敵を開始した。
そうして2,3分程経った後、ミコはおもむろに一つの岩山を指さした。
「あう、あそこからいっぱい敵のけはいがするあう」
ミコからそう聞いた俺は、そのいっぱい敵の気配を感じたという岩山をジッとみた。
その岩山はそこそこ大きな山で、よく見るといくつか穴が開いていた。更にジーっと見ていると、穴から何かが出て来た。
「(なんだ?この距離から鑑定できるかな)」
結構距離があって出て来たものも小さくしか見えなかったが、とりあえず鑑定をかけてみる。すると問題なく鑑定出来たみたいで、鑑定結果が俺の目の前に映し出された。
名前:
種族:キラーアント・ワーカー
年齢:-
レベル:3
str:50
vit:55
agi:51
dex:68
int:8
luk:6
スキル:腕力強化・小 蟻酸 仲間呼ぶ声
ユニークスキル:
称号:
鑑定結果を見ると『キラーアント・ワーカー』となっていた。
「(蟻・・・。岩山・・・。穴・・・。もしかしてあの岩山って・・・)」
『建造物:キラーアントの巣
・岩と蟻の唾液によりつくられた巣。』
もしかしてと思い岩山を鑑定すると、思った通り蟻の巣だった。
俺はまさかと思い、他に幾つも見える岩山を鑑定してみる。すると結果は全部蟻の巣だった。
どうやらこの荒野フィールドは一面が蟻の巣という、数は力といった感じの階層になっているらしい。
「(ニコ、ミコ・・・。この階層、一面が蟻の巣だ・・・)」
「わう!?」
「あう!?あのけはいって全部ありわう!?」
俺が二人に鑑定から解った事を伝えると、とても驚いていた。ミコなんかは、自分が察知した気配の正体が全部蟻だと知ってアワアワしていた。どうやら相当な数がいるらしい。
「わう、一狼兄ちゃんどうするわう?」
「(そうだなぁ・・・)」
大量の蟻が蔓延る3階層の攻略をどうするのかとニコが聞いてきた。俺は少し待ってくれと言って考える時間をもらった。
今までの法則からするに、この階層にも階層主がいて、そいつの近くに次の階層への道があるはずだ。そして蟻型の敵がいて巣を作っているこの階層、もしも階層主が蟻だったら巣の中に次の階層への道があるのかもしれない。
俺はそういう様な色々と考えて、作戦を言ってみる。
「(またミコを頼ることになるんだが、索敵で敵を避けつつ一番強い敵の気配を探す、これが一番かなぁ?)」
ワンパターンだがミコの索敵を頼ることにした。正直この方法、有用すぎるので今度のスタンダートになる可能性がある。
「あう!ミコにおまかせあう!」
俺の出した作戦にミコは嬉しそうにそういった。
頼るこっちとしては申し訳ないが、頼られる方からしたら嬉しいのだろうか?申し訳ないがこれからもよろしく頼むという意味も込めて、俺はミコを褒めまくることにした。
「(ありがとなミコ!よーしゃよしゃよしゃよしゃ)」
ミコの頭に手を置いて肉球による高速なでなでをすると、ミコはキャッキャと喜んでくれた。それを見て、ニコもミコを褒め始めた。
「わう!ミコはいいこわう!わーぅわぅわぅわぅ」
ニコはミコの顎の下をなでなでと撫でた。ミコはそれにもキャッキャと喜んだ。
少しの間、俺とニコでミコを褒めまくったので、ミコのやる気とテンションが凄く上がり、速く出発しようと急かされてしまった。
確かにいつまでも入口で固まっている訳にもいかないので、俺達は荒野フィールドへと足を踏み出した。
ミコを先頭に、ニコ、俺と続き、ミコの索敵を頼りに荒野を進む。
偶に、そのまま進むと敵にぶつかるのか、急に「こっちあう」と方向転換などを繰り返し進み続ける。途中どうしてもかわせない敵が出て来た場合は、俺が速攻で仕留める様にして増援を呼ばれない様にした。
そんな風にしていると、急にミコが立ち止まり集中し始める。そしてぽつりと呟いた。
「あう・・・、これ・・・あう・・・?」
「(見つけたのか・・・?)」
「あう、あそこから強い敵のけはいを感じるあう」
俺がミコに問いかけると、ミコは一つの岩山を指さしてそう答えた。俺はミコが指を差した岩山を見て、本当にあれか?と思いミコにもう一度間違いないか聞いてみた。
ミコはちょっと待ってと言って、再度集中した様子になった。索敵を使い気配を探っているのだろう。そして索敵を終え、間違いないと言ってきたので、俺は再びその岩山をみた。
その岩山・蟻の巣は、周囲にある他の巣の半分くらいの大きさしかなかった。更に、他の巣の出入り口が複数見受けられたのに対し、その小さな巣には出入り口が1つしか見受けられなかった。
「(まぁ確かに、言われてみれば他と違って特別な感じにも見えるな。鑑定かけたら他のと違う表示になるのかな?)」
多分当たりだろうが、物は試しと鑑定をかけてみる。
『迷宮施設:キラーアント・クイーンの巣
・岩と蟻の唾液によりつくられた巣。迷宮により施設化がされ、強固になっている』
どうやら当たりみたいだ。
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