第61話 虫ダンジョンとわんちゃん4

『迷宮施設:キラーアント・クイーンの巣

 ・岩と蟻の唾液によりつくられた巣。迷宮により施設化がされ、強固になっている』


 どうやら当たりみたいだ。


 鑑定をすると結果は他の巣と違った表示になり、施設化がされているらしい。施設化が何なのかはわからないが、わざわざそうしてあるという事は重要な場所、つまりは階層主がいる場所で当たりなのかもしれない。


「(二人共、鑑定したらキラーアント・クイーンの巣と出た。ミコが察知した気配は恐らくコイツで、階層主かもしれない)」


 俺は二人に鑑定して解った結果を伝える。ニコはおぉーといった感じで、ミコはどやぁ!といった感じだった。

 とりあえず、かわいくどやぁ!しているミコを再び褒めて、その後にあの巣の情報を少しでも知るために、ミコにもう少し話を聞いてみた。


「(因みにだがミコ、あの中の気配なんだが数はどれくらいいるんだ?)」


「あう・・・」


 何故かそれまで満面のどや顔を決めていたミコだが、急にしょんぼり顔へと変わった。


「あうぅ・・・」


「(ど・・・どうしたんだ?)」


 様子がおかしくなったミコに、どうしたのか聞いてみたのだが、ミコによると、あの巣全体に強い気配が漂い、中にいる敵の数等は全く分からないらしいのだ。

 褒められてドヤっていたのに解った結果は微妙、ミコはそう思ってしまい落ち込んでしまったようだ。


「(いやいや、十分だよミコ。ここまでスムーズに進めてこれたのもミコのおかげだし、敵の数が解らないくらいはわけないさ)」


 そう、ダンジョンの位置をこんなに早く見つけられたのも、敵を避けながらスムーズに進めるのも、全てミコが頑張ってくれたからである。なので敵の数が解らないくらいで落ち込むことではないのだ。

 そういうことをミコに話すと、しょんぼりしていた顔は段々笑顔になっていった。多分これからもミコには頼ることになるので、自信を回復してくれたみたいで一安心した。


「(となると、ぶっつけ本番でやるしかないか・・・)」


 チラリと巣を見ながら呟く。わかった事は、キラーアント・クイーンという名前の魔物が居るという事だけだが、やってみるしかないだろう。

 俺はニコとミコを呼び寄せて、巣の中に入った後の動きを確認する。そしてそれが決まったところで、いざ作戦開始となった。


「(よし、それじゃあまずニコ、『補助魔法』を頼む!)」


「わう!わうぅぅ・・・風すごくなれわう!守りもすごくなれわう!」


 巣の中に入った後の作戦としては、『守護の壁』で守りを固めつつ、『黒風』をメインで使い敵に攻撃する、というモノにした。なのでニコにはそれを意識してもらい『補助魔法』をかけてもらう。


「(ありがとうニコ!よし・・・それじゃあ行くぞっ!)」


「わう!がんばるわう!」


「あう!がんばるあう!」


 最後に掛け声をかけて気合を入れ・・・いざキラーアント・クイーンの巣へ突入だ!


 俺を先頭にして、その後にニコとミコが横並びで巣の中に入る。一つしかない出入り口をくぐると、巣の中は1つの大きな部屋になっていた。

 そしてその部屋には複数の敵がいて、一番奥に一際大きい敵が存在した。



 名前:アン

 種族:キラーアント・クイーン

 年齢:-

 レベル:9

 str:218+100

 vit:359+100

 agi:206+100

 dex:318+100

 int:181+100

 luk:103+100

 スキル:統率 仲間呼ぶ声 眷族召喚 女王の威厳 守りの障壁

 ユニークスキル:

 称号:迷宮『バグス』の守護者



「(なっ・・・『守護者』!?)」


 一際大きい奴、こいつが『階層主』だろうと当りを付けて鑑定したのだが、キラーアント・クイーン、こいつは『階層主』ではなく『守護者』だった。

 俺が予想外の事に驚いていると、クイーンは自らの巣へと侵入して来た者達へ話しかけて来た。


「センジツヨリノシンニュウシャハアナタタチ?イマハスコシイソガシイノデス、ダカラコンカイハミノガシテサシアゲマス。ワカッタラサッサトデテイキナサイ」


 クイーンは俺達にそんな風に言ってきた。少し忙しいと言っているのは、俺達のダンジョンを攻めているからだろうが、クイーンは、まさかここにいる俺達が自分が侵略しようと攻めているダンジョン、そこから来た者だとは思わなかったらしい。

 俺は丁度イイと思い、そのクイーンの話にワザと乗っかってみた。


「(いやぁ・・・すいやせんねえ偉大なる女王様。実はここに来たのは女王様に話がありやしてねぇ・・・)」


 俺は適当に、配下にしてくれだの、女王様はお美しいだのと話をし始めた。

 そんな俺にニコとミコは、いきなり何言ってんだコイツァ!?みたいな顔で見て来たので、こっそりと口に出さない様に念話で「これは作戦だ。この間に敵の配下のステータスを鑑定する。二人も適当にニコニコしておいてくれ」と伝える。

 二人は、「か・・・かしこいわうー」みたいな表情をした後、クイーンに向けてニコニコとしだした。俺はそれを横目で確認しながら、クイーンへの話を適当に引き延ばしつつ、周りの配下へと鑑定をかけていった。



 名前:

 種族:キラーアント・ガーディアン

 年齢:-

 レベル:9

 str:48

 vit:173

 agi:58

 dex:94

 int:23

 luk:19

 スキル:物理耐性・小 硬化 

 ユニークスキル: 

 称号:


 名前:

 種族:キラーアント・ナイト

 年齢:-

 レベル:9

 str:118

 vit:85

 agi:103

 dex:91

 int:29

 luk:17

 スキル:腕力強化・小 脚力強化・小

 ユニークスキル: 

 称号:


 名前:

 種族:キラーアント・メイド

 年齢:-

 レベル:3

 str:31

 vit:38

 agi:42

 dex:75

 int:31

 luk:25

 スキル:仲間呼ぶ声 育児

 ユニークスキル: 

 称号:



 女王に話をしながら無事に鑑定をかけ終わったので、声を出さない念話でこっそりとニコとミコに能力を伝える。

 周りにいたのはこの3種類+ワーカーで、数は・・・200~300くらいはいるかもしれない。だが元より、取り巻きが多数いると踏んできたので問題はないはずだ。


「フゥ・・・ワカリマシタ。デスガコノメイキュウニアナタタチヲオクコトハデキマセン。オカエリナサイ」


 女王との話も途切れかけたので、もう十分と判断し、ニコとミコに念話を送ってから、スキル『集中』を使い感覚を研ぎ澄ませて次の行動へ備える。

 クイーンはそんな俺に何かを感じたのか、鋭く問いただしてきた。


「アナタ!ナニカシテイルノデスカ!?スグニソレヲオヤメナサイ!デナイト・・・!」


「(でないと俺達を攻撃する、か?攻めているダンジョンの住人に対してお優しい事だな!)」


「アナタタチハ・・・!ワタクシノコドモタチ!コノシンニュウシャタチヲコロスノデス!」


「(遅い!ニコ、ミコ!俺に近寄れ!)」


 クイーンは配下に対して俺達を殺すように命じたが、それよりも俺がスキルを発動させる方が早かった。


「(黒き風よっ!すべてを切り裂け!)」


 俺の周囲から黒い風が次々と溢れ出し、合わさり、ぶつかり、やがて雷光まじりの嵐となって前方のクイーンたちを飲み込んだ。

 この巣に入ってくる前にかけてもらったニコの魔法によるブーストと、直前に使った『集中』の相乗効果により、2階層の『階層主』に使った時よりも一層激しい威力になっている様で、まさに死を運ぶ黒い風といった感じだった。


『ズゥオオオゥゥウウズガガガガ』


 そんなすごい音が暫く響き、やがて治まってくる。

 すると俺の体に顔をうずめてビビッていた、ニコとミコがチラリと顔を上げてクイーンが居た方を見た。


「わう・・・やったわう?」


「あう!やったあう!」


「(んーーーーーーーー)」


 何となくやれてないんだろうなぁと思いながら、黒風によって舞い上がった砂煙の向こう側をじっと見る。

 すると案の上・・・。


「ギギギ・・・ヤリマスネ・・・」


 やれてなかった。

 しかも周りにいた配下こそ全て消滅していたが、クイーン事態はそこまで傷を負っていない様に見える。


「シカシワタクシハソノテイドデハヤラレマセン」


「(だがお前の配下は全て倒した。お前だけならどうとでもなるさ)」


『黒風』では軽く傷をつけるだけに終わったが、単体性能では勝っている筈の俺ならば、時間をかければやれるはずだ。

 そんな考えもあっての発言だったが、クイーンは笑いだした。


「クフフ!ワタクシハコノメイキュウノシュゴシャ、コンナコトモデキルノデスヨ?キィィィェェェエエエエ!!」


 クイーンは凄まじい絶叫を上げた。その声は巣内に響き、耳の良い俺達にはきつく、思わず立ち止まってしまう。その間にクイーンは手をかざし、何やら唱え始めた。


「(くっ・・・、何か知らんがやらせん!)」


 俺はクイーンの行動を阻止しようとクイーンへと飛びかかろうとした。だがそんな俺をミコが大声で引き留めて来た。


「あう!まってあう!後ろからすごい沢山のけはいがするあう!」


「(なっ・・・、あっ!まさか今さっきの絶叫・・・『仲間呼ぶ声』か!?)」


 クイーンへと飛びかかろうとしていた俺はそれをやめ、ニコとミコを連れて巣の壁側へと寄った。

 クイーンが使ったスキル『仲間呼ぶ声』、ニコパパも持っているスキルでその効果は単純で、仲間を呼ぶ、だ。

 普通に厄介なスキルなのだが、現在の状況だとさらに厄介だ。どの程度呼べるのかはわからないが、『守護者』であるクイーンが使ったので、下手をしたらダンジョンの敵全てが来るかもしれない。

 外から敵が来る前にクイーンを何とかしなくては、そう思いクイーンの方を見ると、唱えていた詠唱が完成してしまった。


「クフフ、ゼツボウスルガヨイ『ケンゾクショウカン』!」


 クイーンがそういうと、クイーンの周りの空間に黒い穴が開き、そこからガーディアンとナイトがわらわらと出て来た。


「(なっ・・・!最初にいた数よりも多い!?)」


「クフフ、マダコレデゼンブデハアリマセンヨ?イズレコノカイソウスベテノコドモタチガココニクルデショウ。ドウデス?コノヨウナジョウキョウデモ、ワタクシテイドナラドウニデモナリマスカ?クフフフフ」


「(クソッ・・・)」



 状況は振りだし、いやそれよりも悪い状況になってしまった・・・。

 敵の配下単体の強さはそうでも無いが、あれだけの数になるとそうも言えなく、しかもまだここにいるのは一部だけ、やがて3階層の全ての敵が来ると言う。

 いきなり訪れたピンチに思考が鈍り、考えがまとまらない。如何する如何すると焦り思考が空回りする俺だったが、ふと体を誰かに突っつかれているのに気づいた。

 何だ!?と思ってそちらを見ると、あまり焦った様子でもないニコとミコが俺に軽く言ってきた。


「わう、クロカゼで倒しまくるわう」


「あう、ボスのクロカゼは最強あう!」


 そんなこと言ったってしょうがな・・・!いや・・・?意外といけるかも?

 よくよく考えてみれば、先程敵の集団に使った時はクイーン以外『黒風』に対して全くの無力だった。

 その内この階層全ての敵が集まると言っていたが、無限沸きとかでないならばいけるかもしれない。要は敵が枯れるのが先か、俺の魔力が枯れるかの根競べだ。

 これは・・・このヤバいと思っていた世間も渡っていけるな!


「(ニコ、『補助魔法』でこう・・・スキルが長続きするみたいな感じで出来ないか?)」


「わう?したことないけどやってみるわう」


 俺はニコに魔法で補助を頼んだ。

 これぞ本当に補助魔法ってな?いかんいかん、無理だと思ったところに、意外とそうでも無いと言う落差で頭のネジが緩み気味だ。本当に行けた時までは気を抜いてはだめだ!

 俺達は早速この状況を打破する為に動き出した。そんな諦めた様子を見せない俺達を見てクイーンは不思議に思ったみたいで、俺達に語りかけて来た。


「ドウシタノデス?アットウテキナセンリョクサノマエニゼツボウシテ、アキラメナイノデスカ?シッポヲマイテニゲダシテモイイノデスヨ?アナタダケナラニゲダセルカモシレマセンヨ?クフフフ!」


 絶望して諦め、逃げる?


「(・・・はんっ!黙れよ!確かに数は力、圧倒的な数を持つお前の戦力は凄いだろうよ!だけどなぁ・・・それがどうしたぁ!)」


 ついカッとなって言い返してしまった。


 俺は・・・ただただ絶望して逃げ出す事はしない。


 ごぶ助が蘇った日にそう誓ったんだ。


「(こんなもん前哨戦だ)」


 そう、前哨戦だ。これから先も何度も来るであろう困難への。


「(乗り切ってやる!だから・・・)」


 時には逃げる事もある。だがいずれ立ち向かう!だから・・・。



「(かかって来いよ!)」



「ホザケ!ナニガゼンショウセンダ!コレハオマエタチニトッテノシュウセンダ!!」



 前哨戦になるか終戦になるか、それを決める戦いの幕が上がる。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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