第57話 黒い犬のわんちゃん

 それは朝食前、ポンコと話をしていた時の事である。


「(なるほど、候補地はその3つか)」


(ハイ、更ニ龍脈を使イ、情報を収集シておキマすので、それをもって移動先の決定をお願イイタシマす)


「(了解だ。帰ってきたら聞かせてもらうわ)」


 この様に、俺とポンコはダンジョン移動に向けての話し合いをしていた。その時、そういえば・・・とポンコが俺に言ってきた。


(一狼様、ポンコハポンコへと正規登録シてアる一狼様の情報を一部参照でキるのですガ、現在一狼様ハ進化ガ出来るのニサれてイナイのハ、何カお考えガおアリナのですカ?)


「(え?俺って今進化できる状態なの?)」


 全然気づいていなかったのだが、ポンコにそう言われたのでステータスの確認をしてみる事にした。



 名前:一狼

 種族:狛犬

 年齢:0

 レベル:20(2↑)≪進化可能≫

 str:280(16↑)

 vit:385(25↑)

 agi:333(24↑)

 dex:227(14↑)

 int:273(18↑)

 luk:148(10↑)

 スキル:雄たけび 咬みつき ひっかき 鑑定 氷魔法 念話 守護の壁

     火魔法 集中 魔力操作 調理 統率 教練 

 ユニークスキル:ワンチャン 

 称号:元最弱犬 転生者 ダンジョン1階層突破 特殊進化体 群れの長



 確かにポンコの言った通り、進化が可能になっていた!


「(おお!本当だ、気づいていなかったわ!教えてくれてありがとなポンコ!)」


(ハイ、どうイタシマシて)


 本格的にダンジョン探索をすると決めた矢先にこれだ、幸先がいいと嬉しくなりつつ、早速≪進化可能≫の項目を見てみる。


 ≪進化可能≫

 ・現在の進化可能先は 2つ です。

 『人面犬』『ブラックドッグ』


 人面犬ェ・・・。また出おったな・・・。だがお前を選ぶことはない!

 俺は再び出て来たネタ進化先に早々に見切りをつけて、もう1つの進化先を見た。


「(ブラックドッグか・・・)」


(進化先ですカ?ポンコの持つ情報ニハ無イ魔物ですね)


「(そうなのか?俺は前世の世界で悪魔か妖精だって聞いたことがあるな。)」


(そうナのですカ。それハ一体どの様ナものナのですカ?)


「(えーっと・・・確か・・・)」


 俺は前世で聞いたことのある、この名前に対する記憶を思い出す・・・。

 確か、外国の悪魔だったか妖精だったかで、夜中に十字路に出て来て魔女に仕えている猟犬とかだったかな。姿は、燃えるような赤い目に黒い体の大きな犬の姿をしている、そんな風にネットには書いてあったかな。

 俺は、自分が中二真っ盛りの時代に調べて覚えていたこれらの情報をポンコに話した。

 ポンコは、なるほど・・・と何やら解った様な雰囲気を出していたが、それはブラックドッグについて解ったのであって、俺が中二だった事を解った、ではないんだよな?・・・そうだよな?

 俺は何か言い表せない様な感情になってきたので、それを誤魔化すように進化を進めてみる。


「(じゃ・・・じゃー早速進化しちゃおうかな!あははは!)」


(ハイ、ワカリマシタ)


 俺の脳にはポンコの言葉が慈しみを帯びているような気がしたが、これは俺の妄想なのだろう。・・・だよな?

 俺は進化先のブラックドッグの項目を選び、進化を決定する。

 すると、カッと一瞬ポンコルーム内に光が溢れる。しかもこの光、光なのだが黒く感じると言う何とも言い表せない光で、忘れていた俺の中二マインドを刺激して来た。

 やがて光は治まり、俺の中には力が溢れている感じがした。

 だからついつい次の様なセリフが出たのも致し方ないのだろう。そうに決まっている!!!


「(フハ、フハハハ!我は冥界より来たりし魔界の猟犬なり!フハハ!我を呼んだのは汝か!!)」


「ごぶ?そうごぶ。ご飯ごぶ」


「(っふぁあああああああああああああ!?)」


 ついつい口に出してしまった中二台詞をごぶ助に聞かれ、更に、乗りに乗った台詞を言っている時に中二な息子をご飯に呼びに来たお母さんだが息子が何を言っているのかよくわからなかった、みたいな対応をされたあぁぁぁ!


「(クッ・・・殺せぇぇぇえええ!)」


「ごぶ?とにかくご飯ごぶ。皆待ってるごぶ。早く来るごぶよ?」


 更にクッコロ女騎士みたいな言葉を言ってしまったが、それも、ハイハイどうでもいいからご飯よ?みたいな対応をされた俺は打ちひしがれた。

 そして打ちひしがれて顔を俯けていた俺にポンコが話しかけて来た。


(朝食の様ですね。進化シタお姿を確認シタイカと思ワれマシタので、鏡を生成シておイタのですガ、そチラハ後でもよろシイカもですね。でハ一狼様、朝食イってラっシャイマせ)


 何故か無駄に気を利かせたポンコにそう言われた。コアを1つ取り込んだので精神的にも成長したのだろうか。

 ポンコに声をかけられたので、俯けていた顔を上げるとそこには鏡があった。

 そこには情けない顔をした一匹の黒犬の姿が映っていた。


 その黒犬はやがてこう言った。



「(・・・ハイ、・・・ゴハンイッテキマス)」



 ・

 ・

 ・


 というような一幕が朝食前に起こっていた。

 朝食時にコボルト達から進化を祝われ、更に進化した後の姿を褒められたので、何とか朝食後には俺のテンションは回復し、出発時にはいつも通りに戻っていた。


 そして現在、森の中で俺は体の上にニコとミコを乗せて、ミコに索敵を使ってもらいながら敵が多そうな地点を順々に回っている最中である。


「わう!一狼兄ちゃん本当に速くなったわう!前も速かったけど、今は風の様わう!」


「あう!それに黒くてピカピカしてカッコイイあう!」


「(そうか!ありがとな二人共!)」


 二人に褒められた俺はテンションが上がり、さらにやる気を滾らせる。今回は対策と速度を求めた結果、ごぶ助を抜いた少数精鋭で挑むことになったので、俺のやる気や気力が上がるのはとても良い事である。


「(あう、ボスあそこで一回とまってあう)」


「(わかった、あのちょっと高くなって開けてるところだな?)」


 ミコが止まってくれと言ってきたので、森の少し高くなっているところで一度走るのを止めて立ち止まる。恐らく集中して索敵をするのだろう。案の上ミコは黙り込み、集中しているような感じになった。

 そんな気配を背中に感じつつ、立ち止まった俺はチラリと自分の腕を見た。その腕は黒い毛に覆われて、まるで輝いている様につやつやしていた。

 そんな輝く黒い毛を見て、朝食後に改めて見た鏡の中の自分を思い返す。

 前世のネットで調べた通り、目はまさに燃えているかのような赤で、体は黒い毛で覆われた大きい犬であった。しかし、目と毛の色が変わっていただけで、基本的には『狛犬』、いや、『魔シベリアン・ハスキー』のままだった。

 俺は頭の片隅で、ブラックドッグってそういう事?と思ってしまうが、シベリアン・ハスキーの見た目は好きなのでまぁいいだろう。それに大事なのは見た目より中身、つまりステータスである。



 名前:一狼

 種族:ブラックドッグ

 年齢:0

 レベル:1

 str:376(96↑)

 vit:452(67↑)

 agi:443(110↑)

 dex:298(71↑)

 int:364(91↑)

 luk:213(65↑)

 スキル:雄たけび 咬みつき ひっかき 鑑定 氷魔法 念話 守護の壁

     火魔法 集中 魔力操作 調理 統率 教練 黒風 レモンの入れもん

 ユニークスキル:ワンチャン 神つっこみ

 称号:元最弱犬 転生者 ダンジョン1階層突破 特殊進化体 群れの長



 これがその素晴らしい中身、ステータスである。因みに、今回ごぶ助抜きでダンジョン攻略となったのはこの成長があったからでもある。

 スキルも名前からしてカッコイイ黒風というスキルを覚えていた。これは黒い風を操り、それを体に纏わせ動きの補助をしたり、そのまま敵に使いズタズタに引き裂くといったことが出来るスキルらしい。


 いやあ、やっぱり進化は凄まじく、良いモノだなぁ!


 え?進化特典のスキル?


 ・・・


 そうだよ!明らかにネタ臭がする『レモンの入れもん』だよ!


 最初何が取れるか見るまではウキウキだったんだが、選択画面を見てガックリとしたものだ。

 前回は『火魔法』『収納』『突っ込み』で、『火魔法』をとった。そして今までのパターンだと、『収納』と『突っ込み』が残り、そこに新しいモノが足される感じだったのだが、今回は何故か『レモンの入れもん』一択だった。ガッデムッ!

 まぁこのスキル、性能がネタではなかったのだけは救いだった。このスキルは名前こそネタ、所謂ダジャレなのだが、性能としてはおそらく収納と一緒だ。いや、収納よりも断然すごい。



『スキル:レモンの入れもん

 ・人や物をレモン型の入れものに次元収納出来る。

 自分も入ることが出来、その間はレモンの香りで敵性体を近寄らせない

 休憩所代わりにもなる。                      』



 この様に、性能は凄い。名前は凄くないが。

 そしてもう一つ名前が凄くないスキルを何故か習得していた。何とこちらはユニークスキルでもあるのだが、こちらは性能もネタかもしれない。



『ユニークスキル:神突っ込み

 ・その突っ込みは正真正銘神。(使用条件:???)』



 なんやねんコレェ!ふざけとるんかシステムゥ!

 と、こういう風に突っ込みを入れても発動もしないというネタスキルである。その名の通り、もっとすごい切れ味の突っ込みが必要なのか?

 まぁこのスキルの検証は、周りが落ち着いたら追々していく事にしよう。

 と、そんな事を考えていた時である。


「あう!向こうの方からたくさん敵の反応がするあう!しかも次々に反応がふえてる気がするあう!」


 俺が自分の進化について考えふけっていたら、いつもより集中して索敵したミコが索敵結果を報告して来た。


「(報告ありがとうなミコ!反応が増えてるってことだけど、それは多分ダンジョンから出てきているんだろう!つまりダンジョンを発見した確率が高いってことだ。お手柄だぞミコ!)」


 俺がそういうと、ミコは背中の上で喜んでいた。ニコもミコを褒めている様で、背中の上が騒がしい。


「(ニコ、ミコを褒めるのはそれくらいにしといてくれ。そろそろ移動を再開させる。ダンジョンらしき場所へ進むぞ!)」


 俺がそういうと、ニコとミコは一度返事をしてから俺の背中にがっしりとしがみ付く。俺はそれを確認してから、黒風を周囲に展開して風圧の軽減、更に足に纏わせ移動スピードの増強をして、ミコの教えてくれた方向に走り出す。

 その方向へと進むと、ミコの教えてくれた通り敵が大量にいた。しかしそれは相手にせず、一先ず先へ先へと進む。

 やがて敵が一層群れている場所へとたどり着いた。


「(すごい数が群れてるな・・・。どんどん増えている様な気もするし、ココがダンジョン入口か?)」


 恐らく当たりだと見当をつけ、一度敵の掃除をすることにする。


「(幸い雑魚ばっかりみたいだから試してみるか。黒風っ!)」


 俺は新スキルの『黒風』を発動させる。自分には使ってみたが、敵に対しては使った事がなかったので、雑魚ばかりいる今回は絶好の試し打ちの機会だと思い使ってみた。


「(うわぁ・・・ぱねぇ・・・)」


「わ・・・わうぅ・・・」


「あうぅ・・・」


 黒風を敵に向けて使った結果、凄まじい虐殺になってしまった。対雑魚の効果が凄まじく、黒風に触れたムカデやバッタこの時初めて見た蟻などが、黒い風に触れた先から宙に舞い上げられ、風と風にすり潰されてバラバラになっていった。

 黒風は俺を中心に展開され、俺が無視して置いてきた敵が後ろから来たのだが、それらの魔物も黒風にすり潰されていた。

 暫くすると、大量に群れていた虫型の魔物は全て消え失せ、その場には2つのモノが残った。

 それは敵の落としたドロップアイテムと・・・。


「(やっぱりあったか!)」



 ダンジョンの入口である。



 ------------------------------------

 作者より:読んでいただきありがとうございます。

 皆様の応援のおかげで頑張れております。ありがとうございます。

 これからも最強ワンチャン物語をよろしくお願いします。

「面白い」「続きが気になる」「でたなダジャレスキル!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ふとんが、ふっとびます。

 ※カクヨムコンテストに応募中です。ぜひ応援をよろしくお願いします。

 ↓こちらもコンテストに応募して見ました。よろしければお願いします。

 『女の子になったと思ったら霊が見えるようになった話』 ※一応ホラーです。

 https://kakuyomu.jp/works/16816927859115427347

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る