第54話 ダンジョン捜索のわんちゃん2
外へ出ていた俺とニコパパチームは、日が完全に落ちる前にダンジョンへと帰り着いた。
今日も今日とてダンジョン入口にて陣取っていたごぶ助に帰還の挨拶をして、そのままダンジョン入口で晩御飯の用意を始める事にした。
勿論の事ながら俺一人では厳しいので、誰かに手伝ってもらう事にはなるのだが。
「(今日は、新しく出会った敵のドロップ物でも使ってみるか。おーいニコパパ、背負ってる籠をこっちに持ってきてくれ。それと『コック』はこっちに来てくれー)」
「がる、持ってきたがる。ここに置いておくがる」
「がぅ、私をよんだがぅ?」
「(ニコパパありがとう。ああ、呼んだよ『コック』。そろそろ晩御飯の時間だから料理を手伝ってくれないか?)」
「がぅ、まかせるがぅ」
料理の手伝いを頼んだのはコボルトの料理担当『コック』だ。コボルト達が料理をする時は彼女がいつもメインで料理をしている。
ちなみに『コック』は名前だ。クッキングコボルト、そのまま読んだらクッコになるのだが、何か響きが微妙なので逆から読んでコックだ。なんかそのまんまな名前になったが結果オーライだろう。
「(今日はその籠に入ってる物を使おうと思う)」
「がぅ?・・・バッタの足がぅ?」
俺が料理に使おうと思ったのはズバリ、バッタの足である。今世では虫なども普通に食べているので、俺は何ら嫌悪感もなくこれを材料に選んだ。
「(ああ、バッタの足だ。今日はバッタの魔物が出て、そいつが落としたんだ。見た感じだと肉がけっこうついてるからいけるかなって)」
「がぅ、確かにけっこう肉ついてるがぅ。塩草振って焼くがぅ?」
「(そうしよう。俺は火の準備するから塩草の方はまかせる)」
俺は薄くて平べったく大きな岩で作った鉄板ならぬ岩板、それを使って組んだ竈に火を入れて、物を焼く準備を整える。
俺達の料理方法は、塩の代わりになる『塩草』を振るか、もしくはハーブを振りかけて、後は焼くという簡単なものだ。 転生するときにわんこ神様が料理が発達していると言っていたので、その内何処かで習いたいものである。
「がぅ、塩草かけたがぅ」
「(お、こっちもいい感じに岩板が温まってきたから乗せて行ってくれ)」
「がぅがぅ」
俺が岩板を温めている間に手早く塩草を振り終わったコックは、次々に岩板の上にバッタの足を乗せていく。
やがてバッタの足に火が通り色が変わってきたので、コックに器へと移してもらう。
「(ニコとミコ、食事を配るのを手伝ってくれないか?)」
「わう!」
「あう!」
近くで涎を垂らしながら今か今かと待っていた二人、ニコとミコに声をかけて器に盛ったものを配膳してもらう。二人は焼きあがったバッタの足の匂いを嗅ぎながら皆にそれを配っていった。
コボルト達は食事が配られた者から先に食べ始め、食べ終わるとダンジョンの中へ入っていき入口付近で寝始める。
やがて最後の方に食べ始めた俺も食べ終え、ダンジョンから少し離れた位置に魔法で細工だけしてダンジョンの入口へ入っていく。ダンジョンの中に入ろうとすると、ダンジョンと外の境界に一人のコボルトが座っていたので声をかけていく。
「(今日は『ジョー』が見張りか、ご苦労さん)」
「がう、今夜はまかせるがう。だからしっかり寝てくれがう」
「(ありがとな、そんじゃおやすみー)」
「がうがう、おやすみがう」
声をかけたコボルトの名前は『ジョー』、名前の由来は秘密である。
見張りがジョー一人で大丈夫なのか?そう思うかもしれないが、大丈夫である。
基本的には俺の仕掛けた魔法の罠があるので、何かしらが罠にかかると大音量で音が鳴って異常を知らせる仕組みになっている。なので一応見張りは付けているが、保険の様な物なので大丈夫なはずだ。
それでも念の為と、入口にかなり近い位置に寝床を定め、なるべく体の正面が入口方向へ向くようにして眠りについた。
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「(うぅん・・・。そろそろ朝か・・・)」
朝日が昇るか昇らないかといった時刻に目が覚めた。欠伸を出しつつ体を伸ばすと、ポキポキっと骨が鳴る音がして気持ちが良かった。何回か体勢を変えつつ体の各所を伸ばしていると、段々目がしゃっきりしてきたのでダンジョンの外へ向かう。
「(おはようジョー、ちょっと顔洗ってくる)」
「がう、おはようがうボス」
入口にいたジョーに挨拶をすると、若干眠そうにしていたがジョーはしっかりと挨拶を返してくれた。ジョーの挨拶を受けながらダンジョンの外へ出ると、魔法を使い空中へ水の球を浮かべてそこに顔を突っ込む。
10秒くらい水の中で顔を振ったり、目を開閉させたりしてから顔を抜き、水の球を遠くへ飛ばす。その後更に魔法で顔に着いた水分を飛ばして洗顔完了だ。
「(ふぃー、さっぱりした。よし、とりあえず罠の解除と水入れに水の補充しとくか)」
洗顔を終わらせたので、夜に張った侵入者用の罠を解除して、その後皆の為に入れ物へと水を補充しておく事にした。
「(はぁ~・・・。本当に魔法は便利だなぁ。進化特典様様だぜ。次も良いスキルがあるといいなぁ)」
俺はしみじみと魔法の便利さを噛みしめていた。正直言って便利すぎるのだ。
戦闘で使えるのは勿論の事、先の様に顔を洗ったり飲み水を補充したりと出来ることが多すぎる。恐らくこの世界は、魔法が前世の機械みたいな役割を占めているのだろう。
「(そういやよく読んでいたラノベとかでもそうだったか。魔法が発達するから機械が発達していかないみたいな。)」
異世界に良くありがちな設定を思い出したが、この感じだと間違いないだろう。しかしそうなると1つの懸念点が浮かんできた。
「(敵対する者が魔法を使ってきた時は厄介だな・・・。未だ使ってきた奴を見た事はないが・・・、もしかするとごぶ助が石化させられてたのがそうだったのか?)」
あの事件の時、ごぶ助は石化させられて村に放置されていた。そういうアイテムや薬を使われたのかもしれないが、もしかしたらあれも魔法によって引き起こされた現象なのかもしれない。
改めて思うと、魔法というものは見方が使う分には頼もしいが、相手に使われるとものすごく厄介な物だということを認識してしまった。有るのならば対抗策などを見つけるべきなのかもしれない。
「(いつそんな事態になるかわからないしな・・・。あの時もあんなことが起こるだなんて考えてもいなかったし・・・)」
思い出さないようにしていたが、ついゴブリン村の惨劇の事を思い出してしまう。思い出したら悲しい気持ちが溢れてきて目が潤んでしまう。そしてその悲しい気持ちが引いて行くと今度は怒りが溢れてくる。
「(ダメだ、冷静に冷静に・・・。怒りは出すべき時まで取っておくべきだ・・・)」
頭がカッカしたのと、目元が濡れてしまったので再び水の球を創り出し顔を突っ込む。そして再び洗顔からの乾燥を終えると気持ちが少しスッキリとした。
そして完全に気持ちを切り替える為に2,3度深呼吸を行う。
「(す~は~す~は~。・・・ふぅ。)」
気持ちが完全に落ち着いたのでダンジョンの入口に顔を向けると、皆がパラパラと起きだしてきているのが見えた。
「(皆起きだしたし朝ご飯の準備だな)」
そろそろ日も昇り活動する時間帯になってきたので、活力補充の為に朝ご飯づくりにいそしむことにしよう。
調理場へ行くとコックがすでにいたので一緒に料理を行い朝ご飯を作っていく事にした。
今日の朝食は以前大量に入手した蛇の肉と木の実とキノコだ。コックが肉とキノコに味付けをしているので、その間に俺は火の準備を行う。そして焼きあがった物から器に盛ってもらい配膳だ。
「(ニコとミコはまだ起きてないか。お、『ワン』と『ニー』ご飯を配るの手伝ってくれ)」
たまたま近くを通った二人のコボルト『ワン』と『ニー』に食事の配膳を頼んだ。二人は俺の要請にポージングを決めながら「わかった」と配膳を請け負ってくれた。とりあえず軽く褒めて器を渡していく。
やがて全員が起きて食事が行き渡り、料理をしていた俺とコックも食事にありつく。俺はコックと軽く喋りながら食事をとっていた。
「(コックは今日外出組だったよな。もうすぐ進化が出来そうだし頑張ろうぜ)」
「がぅ、頑張るがぅ。そして私は料理が上手くなれるように進化したいがぅ」
「(ははは、そりゃいいな。慣れたらなってほしいわ)」
コックはそんな風に進化の希望を言ったのだが、果たしてそんな進化先ってあるのだろうか・・・?
ふと、こんな時こそ『ワンチャン』かと思い、ユニークスキルを発動させておく。何もなさそうな日は朝一で発動させているのだが、今日も多分大丈夫だろうとタカをくくり発動させておいた。
これでもしもコックが希望通りの進化を出来たら俺もうれしいしな。
この後もたわいない話を続けて朝ご飯が終了し、いよいよ本日のダンジョン探索&狩りの時間が始まりとなる。
まずは恒例となってきた朝礼スタイルをとるために皆に集まってもらう。
「(えー、それでは本日の朝礼を始めます。今日の役割分担は外回りがニコママチーム、内勤がニコパパチームとなります。それではごぶ助さん、今日の目標をお願いします)」
「ご・・・ごぶ?ご飯を一杯たべるごぶ?」
「(わかりました。それではみなさん、今日も頑張っていきましょう。よろしくお願いします)」
「「「「がう?よろしくお願いしますがう?」」」」
前世の朝礼での上役の真似をしてみたのだが、やはり通じなかった。いや、もしかしたらまだ俺の上司力が足りないだけなのかもしれない。頑張っていこう。
「ごぶ・・・。相棒、疲れたなら今日は休んでもいいごぶよ?」
「(・・・大丈夫だ、問題ない)」
頑張っていこう。
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その後ややテンションが下がった俺だが問題なく捜索&狩りは進んだ。
本日は今の所、コボルト&ウルフの集団を3回、ムカデ&バッタの集団を5回殲滅させた。
「(ニコママの指揮もニコパパに負けず劣らずになってきたな。その調子でたのむな!)」
「がう、ありがとうがうボス。私もダーリ・・・いや、パパに負けていられないがう」
「(そ、そうだな。あ、次の集団をやったら今日は終わりにしよう。そろそろ良い時間だ)」
ニコママの指揮を褒めたら嬉しくなってつい気が緩んだのか、いつぞや話に聞いたことのある『ダーリン』呼びを聞いてしまったでござる。恥ずかしかったのかニコママの表情が不思議な事になっているでござる。武士の情けで聞かなかったことにするでござる。
「あう!あっちに敵あう!」
「わう、ママとパパは仲良しわう」
「(あっちでござるか、ありがとうでござるミコ)」
ニコが追撃をかけたせいで、ニコママは動きもモニョモニョしだした。
ニコよ・・・、人には家族以外に聞かれると恥ずかしい事もあるのだよ・・・。
「(さぁー、見えてきたでござるよー。次の敵はなんでござ・・・皆止まれっ!)」
ミコが指示した方角に進むと直ぐに敵は発見できた。
その場にいたのは1体の見たことがない犬型の魔物だった。決して大きくもなく見た目もヤバそうには見えない一体の魔物。
しかし何故か俺の本能が告げていた、逃げろと。
「(皆動くな。『鑑定』)」
名前:???
種族:竜犬
年齢:??
レベル:??
str:???
vit:???
agi:???
dex:???
int:???
luk:???
スキル:??? ??? ???
ユニークスキル:???
称号:???
絶望は唐突に現れた。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
皆様の応援のおかげで頑張れております。ありがとうございます。
これからも最強ワンチャン物語をよろしくお願いします。
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『女の子になったと思ったら霊が見えるようになった話』 ※一応ホラーです。
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