第32話 生存のワンチャン

 俺たちは長い間出られなかったダンジョンを脱出し、故郷のゴブリン村へ帰る途中だった。だがその途中で異変を感じ取り、今は村を遠目に見下ろせる崖の上にいる。

 俺たちはその崖の上から村を確認して話し合っていた。


「(ごぶ助、気づいたか?)」


「ごぶ・・・、あれは多分ヒューマンごぶ・・・」


 村を遠目で確認したところ、おそらく人間であろう姿をとらえた。

 しかし何故ゴブリンの村に人間が?それと・・・今まで聞いたことはなかったが、人間からしたらゴブリンはどんな存在なんだろう?

 よくある設定だとゴブリンは人間を攫ってきて犯し、苗床にして繁殖したりする。だが俺が見てきたゴブリン達はそんなことはなく、ゴブリン同士で番になり子を産んでいた。

 それにゴブリン達の考えは緩く、他の生き物は無条件に殺すといった考えを持った魔物というわけでもない。服を着て家に住み狩りで生計を立てる、そんな文化的?な生き物だった。

 俺は、そんなゴブリンと人間が友好的な存在であってくれ!そう願いながらごぶ助に質問した。


「(なあごぶ助・・・、人間とゴブリンってどんな関係なんだ・・・?)」


「ごぶ・・・」


 俺の質問にごぶ助は直ぐに答えを返さなかった。ごぶ助が次の答えを返してくるまで経った時間は実際には短かったのだろう。だけどその時間が俺にはものすごく長く感じられ、俺が緊張でゴクリと唾をのみこんだ時にごぶ助から答えが返ってきた。


「ごぶ・・・、人間達は我らゴブリンを見ると襲ってくるごぶ・・・。理由はよくわからないごぶ。ヒューマンは言葉もわからないし見たら襲ってくるからどうしようもないごぶ」


 俺は絶望感に襲われ目の前がクラクラした。そんな人間がゴブリンの村にいる意味を考えると、悪い事しか考えられないからだ。最悪の事態ばかりが頭に浮かび、少しの間意識が茫然として何も考えられなかった。

 俺がそうやって呆けている横で、ごぶ助は村の方に視線を向けて様子を観察していたようだ。


「ごぶ・・・、家とかはまだ焼けてないごぶ・・・?人間が来たのは最近ごぶ?」


 俺はごぶ助が呟いたその言葉が聞こえて、一筋の希望を見出した。そのおかげで、茫然としていた意識が現実へと戻ってきた。


「(だ・・・だったら!ごぶ助!今ならまだ間に合うんじゃないか!?皆を助けに行こう!?)」


 俺は一筋の希望にすがりたくて、ごぶ助にそう提案した。


「ごぶ・・・、わかったごぶ。まずは様子見に近寄ってみるごぶ?」


「(あぁ!そうしよう!)」


 ごぶ助は俺の提案に乗ってくれて、様子見をしようと言ってくれた。様子見をするとなって、俺はふと気になったことをごぶ助に聞いてみた。


「(ちなみにだがごぶ助、人間達って強いのか・・・?)」


「ごぶごぶ、村の狩人達に聞いたことがあるごぶ。偶に見る武器を持っていない奴らは弱いらしいごぶ。でも、もっと偶に見る武器を持った奴らは強いらしいごぶ」


 俺は人間がどれくらい強いか気になって聞いてみたが、ごぶ助も実際どれくらいの強さか知らないらしく、村の狩人に聞いた話を教えてくれた。

 俺は武器を持っていない奴と持っている奴と聞いて少し考える。すると1つ思い当たったのは、近隣の村か町の住人とそこを守る警備団とか冒険者って感じかな、そう考えた。


「ごぶごぶ、今の我達なら強い奴らも倒せるはずごぶ」


 俺が少し考えている間に、ごぶ助が今の俺たちなら倒せると言った。その言葉に、俺はふと考えてしまった。


「ごぶ、じゃあまずは様子見で村に近づいてみるごぶ」


「(あ・・・ああ、行こう・・・)」


 を決める前にごぶ助が行こうと促してきた。俺はを決めぬまま返事をしてしまい、村に着くまでにはなんとか覚悟を決めようと思いながら、先に進みだしたごぶ助の後を追いかける。ごぶ助に追いつくと、そのまま追い越し前を進むことにした。


「(俺の方が感覚が鋭い・・・、だから任せろ)」


「ごぶ、まかせるごぶ」


 まずは様子見と決めた俺たちは、索敵など感覚に優れた俺を先頭にして、人間達に見つからない様に村へと近づくことにした。

 そして人間達に見つからぬまま、村と森の境目付近まで近づいた。そこで俺たちは村の中の様子を見ることにした。


「(・・・人間ばっかりでゴブリンの姿が見えないな)」


「ごぶ・・・」


 まずわかったことは、人間の姿が見えるばっかりでゴブリンの姿が見えないという事だった。

 もしかすると人間の襲撃に気付いて皆逃げたのでは?

 そういう考えが浮かび、気配を探れないかなと少し集中して気配を探ってみる。


「(皆の気配は見つからないか・・・だけど・・・)」


 村の外に皆の気配は感じ取れなかったが、村の中の気配はなんとなくわかった。村の中におおよそ50~70程の気配があり、その気配は村の一部に集中しているみたいだった。


「(ごぶ助、村の中の気配はある一部に集中しているみたいだ。しかもその方向は俺たちの家から離れている。だから家の様子を見に行こう!)」


「ごぶごぶ・・・、そうしてみようごぶ」


 俺が次の行動として家の様子を見に行こうと提案すると、やっぱり家族の様子が心配だったのか少し体を硬くした。しかし一度フッと息を吐き、それで体がほぐれたのか動きが戻ったようだ。

 俺たちは村の様子を見ていた場所から移動した。ぐるりと村を回るように森の中を進み家に近づこうと思ったのだ。

 森の中を進んでいる途中で村の中にあまり見たくないものが見えた。血の跡だ。その血は緑っぽい色をしていて、ゴブリンの血の色は赤じゃなくて緑色なのかぁ青汁ならぬゴブ汁だなぁ、と少し現実逃避しながら考えていた。しかしブンブンと頭を振り直ぐに現実をみる。血の跡があったという事はやはり・・・。

 嫌な現実を妄想してしまい、俺は一つの行動をひっそりと行った。ワンチャン家族だけでも無事であれと願い、ユニークスキルの発動を念じる。

 念じた後で、追加で村の皆も無事であれと祈っておいたが、これらの願いがどこまで通じるのだろうか・・・そんなことをゴチャゴチャ考えていた。


「ごぶ、家の近くについたごぶ」


 ごぶ助の言葉にハッとして、ゴチャゴチャと考えていたことを一度すべて忘れることにした。今はやれることをやるしかない!そう自分に言い聞かせた。

 俺たちは見つからない様に気を付けながら、森の中から辺りの気配を探った。


「(よし・・・、辺りに人間の気配はない。)」


 辺りは大丈夫そうだったので、家の中の気配を探ってみる。すると複数の気配があり、物音もかすかに聞こえた。


「(・・・っ!ごぶ助、家の中に気配がおそらく3つある)」


「ごぶ、ヒューマンに見つからないうちに連れて逃げるごぶ」


 俺は嬉しくて大声になりそうなのを我慢し、ごぶ助に囁くように念話した。ごぶ助も嬉しそうにしていたが、静かに言葉を返してきた。


「(よし、それじゃあゆっくりと中に入って皆を連れ出そう)」


「ごぶ、急ぐごぶ」


 俺たちはドアの前まで移動して、顔を見合わせて無言で頷く。そしてドアを開けた。



 ×

 ×

 ×



 そこにあった光景に俺の脳は理解を拒んだ。だが俺の目からその情報が脳に送り込まれる。


 3人の革鎧を付けた人間がいた。


 そいつらの内2人はをボールのように蹴ってニヤニヤしていた。

 そのはいつも狩りに出かける俺たちに「いってらっしゃいごぶー」と言ってくれた・・・。


 もう一人の人間は壁に貼り付けられたに向けてナイフを投げていた。

 そのは狩りに出かけて帰ってきた俺たちに「おかえり、ごはんにしよう」「きょうもいっぱいおにくとってきてくれたわね」と言ってくれた・・・。


 3人の革鎧を付けた○○は俺たちに気付いたのか、指を差し何かを言ってニヤニヤしていた。




「ごぶうううううううううう!!!」


 その声に俺は、ハッと正気に戻る。

 その声を上げた主『ごぶ助』は『弟ゴブ』を蹴っていた2体の○○に向かって飛びかかり、棒を2体の○○の頭に振るった。全力で『パワーアタック』を使ったのか、2体の○○の頭は何時かの突撃ウサギみたいにはじけ飛んだ。

 その光景をみて残った一体の○○、いや、一体の人間ゴミは何かを叫んでいた。


「(ゴミなら掃除しても構わんよなぁぁぁぁ!?火魔法ぅぅ!汚物は消毒だぁぁぁああああ!!!)」


 俺は何かを叫び喚いていた人間ゴミに向かって火魔法を全力でぶっ放した。すると人間ゴミは面白いように燃えて、炭となった。


「ごぶううううう!!!ごぶううううう!!!」


「(ごぶ助・・・)」


 声の聞こえた方を見ると、グチャグチャになった弟ゴブの遺体を抱いて泣き叫んでいた。その声を聞いているうちに俺も涙が出てきた。

 暫くそうやって二人で泣いていると辺りが騒がしくなってきた。


「(うぅ・・・ぐすっ・・・ごぶ助ぇ・・・外ぉ・・・)」


 俺が泣きながらそう言うと、ごぶ助は泣き叫んでいたのをピタッと止めた。そのまま無言で立ち上がり外へ出て行こうとする。

 俺は慌ててごぶ助に声をかける。


「(うぅ・・・ごぶ助。俺もいくぜぇ・・・。ゴミ共を掃除しなきゃな・・・)」


「・・・」


 ごぶ助は無言でこっちも見なかったが頷いた気がした。そうして俺たちは家の外にでた。


「sdoiiewanゴブリン!ioewaewn:a@@」


「ゴブリン@0e9a093wnn lsidamoiewam」


 俺たちが外に出ると人間ゴミ共が何かを言っていた。先ほどの人間ゴミ共と同じような装備の者と全身鎧で覆った人間ゴミ共がいるようだった。


「・・・」


 そんな人間ゴミ共にごぶ助は無言で近寄っていった。すると革鎧を付けた方の人間ゴミ共が近寄ってきた。全身鎧の方の人間ゴミ共は何故か遠巻きに見ているだけで近寄ってこなかった。


「たke@anゴブリンiawenisk 」


「oiwethtn:dpゴブリンめ」


 革鎧の人間ゴミ共は顔をニヤニヤさせていた。おそらく馬鹿にでもしているんだろう。そしてごぶ助との距離が縮まり、互いの武器が当たる距離に来たときに革鎧の人間ゴミの一人が武器を振り上げた。


「wei,grei:a死ksjiゴブリン」


 その人間ゴミはニヤニヤしながら武器を振り下ろそうとした。だがそれが、その人間ゴミの最後の顔だった。

 ごぶ助は無造作に手に持っていた武器を振るった。その人間ゴミはごぶ助の攻撃に全く反応できず、首に攻撃を受けた。

 その人間ゴミの首は攻撃の威力に全く抵抗できずにはじけ飛び、体と頭が分離した。分離した頭の表情は死んだことを理解できていないのか、未だにニヤニヤしていた。


「ごぶぅぅううあああああぁぁああ!!!」


 そこからはごぶ助の一方的な虐殺だった。

 その時のごぶ助の表情は、まるで鬼だった。

 その時のごぶ助の気配は、目に見えるような強烈な圧を放っていた。


「ごぶうううううあぁぁぁぁあああ!!!」


 俺は見たことのないごぶ助の姿に目と意識を取られ、ごぶ助のサポート等を一切忘れ、見入ってしまっていた。

 そんな戦場の『覇王』といったごぶ助が、革鎧の人間ゴミを15体ほど倒したところで、後ろで遠巻きに見ていた全身鎧の人間ゴミ共が動き出した。


「aweionゴブリンはbnnrfehosgue」


「iewanjgirjenhjgnfrljsa,」


 全身鎧の人間ゴミ共が何かを言うと、革鎧の人間ゴミ共は後ろに下がっていった。そして全身鎧の人間ゴミ共はごぶ助一人に隊列を組み、戦術的に集団で戦いだした。

 俺はそれを見て、呆けている場合じゃない!ごぶ助のサポートをせねば!そう思いごぶ助に加勢するために先頭に加わる。


「(ごぶ助!俺がサポートに回る!一緒にこのゴミ共を片付けるぞっ!)」


「ごぶぁぁぁ!」


 俺はごぶ助に声をかける。だが返事という返事でない応答が帰ってきた。

 しかしやることは変わらない。そう思いごぶ助のサポートに回り戦闘を開始した。


 俺が戦闘に加わり、5人ほど全身鎧の人間ゴミを倒したころ、人間ゴミ共側から一人の人間ゴミが出てきた。

 その人間ゴミの鎧は他の人間ゴミと少し違い、装飾が豪華になっていた。その派手装飾鎧の人間ゴミは周りに何かを言った。

 そうすると今までも戦術的に戦っていた全身鎧の人間ゴミ共の動きが更によくなった。おまけにその派手装飾鎧の人間ゴミもごぶ助に攻撃しだした。


「hwejnureskp@ゴブリンjiwengd:fmr」


「ごぶっ!?」


 派手装飾鎧を着た人間ゴミの攻撃は周りの全身鎧の人間ゴミの攻撃よりも凄かった。その攻撃を受けたごぶ助は少しふっ飛ばされた。しかしうまく攻撃を受けたみたいで、ごぶ助にダメージはないみたいだった。


「ごぶ・・・、あいつ強いごぶ・・・」


 吹き飛ばされたごぶ助は、それで少し冷静になれたのかそう呟いた。俺は相手の強さを図るため鑑定をかけることにした。


 名前:iewnifgadi ije fnkslai

 種族:ヒューマン

 年齢:??

 レベル:??

 str:???

 vit:???

 agi:???

 dex:???

 int:???

 luk:???

 スキル:??? ??? ???

 ユニークスキル:

 称号:???


「(まずいごぶ助、あいつステータスが見えない・・・。つまり俺たちより大分各上だ・・・)」


 俺は相手のステータスを確認して、情報が見えない事からわかる実力差をごぶ助に伝えた。ごぶ助もそれを聞いて顔を顰めた。

 俺はどうするべきか考える。確かにあの人間ゴミ共は憎い、絶対に許さず報いを受けさせてやる、そんな風に腸が煮えくり返っている。しかし明らかな実力差があると分かっている相手にわざわざ向かっていくのも躊躇ためらわれる。どうするべきか迷い、ごぶ助の方をちらりと見る。

 ごぶ助の表情は複雑に見えた。絶対に許さないというような表情をしていたが、俺の方を見るとこいつを守るために逃げるべきか?といった表情もしていた。

 俺はそんなごぶ助を見て思う。

 そうだよな、家族があんなことになったんだ。自分がどうなってもあの人間ゴミ共をぶっ殺したいよな。けど俺というまだ守るものがいるから迷っているんだよな?なら俺は言おう、俺も人間ゴミ共をぶっ殺したいんだ!俺の事は気にするな!

 俺はごぶ助にそう言おうとした。

 その時。


『ズグンッ』


 そんななんとも言えない妙な感覚が何処からかした。

 そして何か「ガチガチガチガチ」という音がどこかから聞こえてきた。その音は近くから聞こえてきた。

 何処から聞こえてくるんだ?俺は可笑しいなぁ?と思ったが、直ぐに分かった。

 音の出どころは俺の口だった。俺の口が無意識に震え、歯同士が当たりガチガチと音を立てていた。

 なんだこれ?と思ったら、俺は他にも自分が可笑しいことに気が付いた。足が震え、尻尾が丸まり後ろ足の間に入っていた。

 一体何だ?俺は何かに怯えているのか?

 体は反応しているのに心は認めていない、まるで心が認めることを拒否しているかのようだった。

 俺はそんな不思議な心持ちのまま、辺りを見回した。

 俺たちを囲んでいる人間ゴミ共も何かに恐怖しているかのように固まっていた。

 そして隣のごぶ助の方を見ると、俺ほどではないが少し恐怖感が見て取れた。

 そうやって俺がごぶ助を見ていると、ごぶ助も俺を見てきた。

 俺を見たごぶ助は、一瞬何かを考えたように見えたが、すぐに頷き何かを決めたようで口を開いた。


「ごぶ、相棒は逃げるごぶ。我が時間を稼ぐごぶ」


「(ふぁ・・・?ふぇ・・・?)」


 俺は返事をしたつもりだったが、出てきたのはそんな情けない言葉だった。


「ごぶ、大丈夫ごぶ。我はこいつで敵を蹴散らして後から追いつくごぶ」


 ごぶ助はそう言って『ごぶ助カリバー』を俺に突き出してアピールする。

 なんでそんな死亡フラグのようなセリフを言いまくるんだと俺は思っていた。


「(あぅ・・・あ・・・)」


 しかしやはり口から出るのはそんな言葉ばかりだった。そうしているとごぶ助は一瞬フッと笑った。

 そして急に鬼のような顔で圧を乗せた声で叫んだ。


「イケごぶ!!!」


「(・・・・・ッ!!)」


 俺はごぶ助のその一声で、今まで恐怖が許容量を超えていたことで麻痺していた心が正常になり・・・。





 何もわからなくなり、一人で逃げた。


 気が付くと俺は一人でダンジョンの最奥、ポンコがいる石造りの部屋にいた。


 俺は辺りを見回し、ごぶ助がいないことに気付き茫然とした。


 ポンコが何か話しかけていた気がしたが、茫然としていた俺には聞こえていなかった。


 俺は心の中で、ごぶ助を助けにいかなきゃ、助けに行かなきゃと繰り返し考えていた。


 だがそれは本当に考えるのみで、俺の体は動いてくれなかった。


 何故動かない?ごぶ助の所へいかなくちゃ!何回も何回もそんなことを考えた。


 だが妙な気配に恐怖し、一人で逃げ出してきた罪悪感、そのことにより体は動かず、口から「アゥアゥ」といった情けない言葉が出るのみであった。



 そんな俺の意識はいつの間にか闇に落ちて行った。



 ・

 ・

 ・



 ≪一狼が逃げた後のゴブリン村・人間Side≫


 一狼がいなくなりしばらくした後、そんな戦場にいるのが似つかわしくない、そんな服装の男が現れた。男の名前はカマエル。ゴブリン村を襲撃した殲魔部隊を率いる指揮官であった。


「あらぁ?私がお楽しみの間にこっちもお楽しみだったようねぇ?」


 カマエルはそんな風に声をかけたが、その戦場は決して楽しいと言った要素は見当たらなかった。

 その場所は、近くにあった建物は壊れ、辺りには生物の残骸といったものが散らばる、まさに戦場と言った血生臭い場所であった。


「ハッ、カマエル殿。少々特殊なゴブリンがいましてな。そちらの殲魔部隊は約半数ほど、こちらの騎士団も数名がやられました。今被害の確認をしております」


 カマエルに声をかけられたパンタナ騎士団の騎士団長はそう言葉を返した。するとカマエルは興味深そうにある一点をみた。


「特殊なゴブリンってあれかしらぁ?面白い死に方してるわねぇ」


 カマエルはそう言って、特殊なゴブリンと呼ばれた物に近づいて行く。

 その特殊なゴブリンとは、ヒューマン達は知らないが、名前を『ごぶ助』というホブゴブリンの覇種であった。その遺体は手に持った棒を地面に突き刺し、意地でも倒れてやらないといった凄まじい死にざまであった。

 そんな死にざまのゴブリンを見てカマエルは、何か良い事を思いついたようにニコリと笑顔を見せた。


「あんまりにも面白いから、このゴブリンこのまま固めちゃおうかしら」


「ハッ!・・・ハッ?」


 カマエルが言った言葉に、騎士団長は理解ができないみたいで不思議な声をだした。


「こういうことよ?『石化の呪い』」


 理解ができない騎士団長にわかるように、行動でわからせようとしたカマエルはある魔法を使った。・・・それは魔法というより呪いの部類ではあったが。


「ナッ・・・!これはっ!」


「オホホ!いいオブジェでしょぉ?」


 そのゴブリンはカマエルのかけた呪いによって石となっていた。見たことがない魔法に騎士団長は驚きの声を上げた。だがよくあることなのか、カマエルは気にせず騎士団長に話を振った。


「それで騎士団長様?この巣の状況はどうなのかしら?」


「ハッ、殲滅完了です。そういえば一匹ウルフが逃げ出したのですが、探しますか?」


 状況を聞いたカマエルは頷き、逃げたウルフについて聞かれるとこう返した。


「ウルフちゃんねぇ?一杯遊んだからもういいわ」


 カマエルはニヤァ~とした笑顔をする。その顔を見て騎士団長は、ゴクリと唾を飲みこみ話を返した。


「ハッ!ずいぶんお楽しみであったようですね。途中でその気配が漏れてきたのか、少し驚きました」


 騎士団長は声に出してから、「まずいっ!少し皮肉に聞こえたかっ!?」と心の中で思ったが、カマエルは気にせず上機嫌で返した。


「あらぁ、ごめんなさいね?ちょ~っとテンションあがっちゃったわ」


「ハハハ、そうですか・・・」


 騎士団長はホッと息を吐きそう言った。そして少し表情を引き締め、続けてこの後の予定を話だした。


「カマエル殿、予定していたより被害が出ているため、今回の訓練はここまででよろしいですかな?」


「そうねぇ、話を聞くとこっちのひよっ子ちゃん達にも大分被害が出たみたいだし、今回はここまでねぇ」


「ハッ!わかりました。では双方にそのように伝え撤収準備をさせます」


「よろしくね~」


 2つの集団の指揮官達は、そう話を閉めくくり自分のするべき作業に入った。そうして幾ばくもしないうちに、両集団は今回の目標地点から去っていった。



 その場にはゴブリン達の死体、そして石になったごぶ助のみが残っていた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。今回は少し長くなりました、すいません。とりあえずここで第1章終了となります。

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 ※カクヨムコンテストに応募しました。ぜひ応援をよろしくお願いします。

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