第31話 ゴブリン村と人間達

 ≪ゴブリン村・一狼とごぶ助がダンジョン10階層に飛ばされた日≫


 その日、狩りに出かけた1組の狩人が帰ってこなかった。

 その狩人の家族の住む家ではそのことについて話がされていた。


「ごぶぶ、あいつらかえってこなかったごぶぶ」


「ご~ぶ、そうねえご~ぶ。いっぱいえものがとれたから、はこぶのにてこずっているのかもねご~ぶ」


「あしたになったらおにくいっぱいごぶー?」


「ご~ぶ、そうかもしれないわねご~ぶ」


 狩人の家族はそんな風にあまり深刻にとらえずに話していた。


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 そして日が明けて夜になっても、仮に出かけた1組の狩人は帰ってこなかった。


「ごぶぶ、きょうもかえってこなかったごぶぶ?」


「ご~ぶ、さむくなってきたから、とおくまでえものをとりにいってるのかしらご~ぶ?」


「そのうちかえってくるごぶー」


 狩人の家族はそんな風に会話をしていた。


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 そしてまた日が明けたその日の昼間の事だ。戻らない1組の狩人の家族に、村にいる他の狩人達が2日程姿を見ない1組の狩人について話を聞いていた。


「ゴブ!オ前ノ所ノ子供ト小サキウルフ、最近見ナイガドウシタゴブ?」


「ごぶぶ、いえにかえってきてないごぶぶ」


「ご~ぶ、えものをさがしにとおくにいってるのかもしれないわご~ぶ」


「ごっぶ!そうかもしれないごっぶ。サイキンサムくなってきたからエモノがスクないごっぶ」


「ゴブ!アイツラハ最近ヨク獲物ヲ取ッテキテイタゴブ。キット頑張ッテイルゴブ」


「ごっぶ!アタタかくなるまでガンバってカエってこないかもしれないごっぶ」


「ゴブ!ソウカモシレナイゴブ。良イ事ニ最近アイツラガ頑張ッテクレテタカラ食料ノ蓄エハ一杯アルゴブ!ダカラ暖カクナルマデハ、アイツラガイナクテモ大丈夫ゴブ!」


「ごぶぶ、そうなんだなごぶぶ」


「ご~ぶ、あったかくなったらそのうちかえってきそうねご~ぶ」


「ゴブ!話シハワカッタゴブ。アリガトゴブ。ソレジャア俺ラハ狩リニ出カケルゴブ」


 話が聞けて納得したと言った表情の狩人ゴブリン達は、そう言って狩りに出かけて行った。パートナーのウルフ達も狩人達と一緒に話を聞いていたのだが、大丈夫そうだと聞いたので、足取り軽やかに狩人達と出かけて行った。

 狩人ゴブリン達と別れた、帰らぬ狩人家族ゴブリン達も自分たちができる仕事をするためにその場を離れていった。


 あまり帰らぬ者達を心配しているそぶりがないゴブリン達だったが、それには色々な要因があった。

 1つ目は総じてゴブリンという種族は難しく物事を考えない、そんな楽天的な種族であるということ。

 2つ目は同じような事は偶にあったからだ。去年にも1組の狩人が遠くまで狩りに出かけた後に雪が降り立往生。その時は他のゴブリン村に避難して一冬を超し、暖かくなったら戻ってきたことがあった。

 3つ目、これが一番重要な要因なのだが、ゴブリン達がいなくなるのは珍しくないからだ。

 話題には上がらなかったが、話をしていた大人のゴブリン達は頭の片隅で、帰ってこないあいつらはもしかしたら死んでいる、そうも思っていたからだ。

 ゴブリンという種族はあまり強い種族ではない。更にこのゴブリン達が住んでいる魔の森と言う場所では、ゴブリン達の強さは最底辺辺りにある。なので死因は様々だが、死ぬことはそう珍しくない。だから楽天的でもあり、魔物ならではの死生観を持つゴブリン達は口には出さなかったが、心の中でそう思っていたのだ。

 ゴブリンとは、楽天的だが死は身近にあるものと知っている、そして悲観的な事は確かに表に出さないが、悲しくならないというわけでは決してない。ゴブリンはそんな種族だった。


 その日以降、ゴブリン達は帰らぬ1組の狩人の事を話題に出すことをやめて、寒くなる日々をすごしていった。


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 寒くなる日々は過ぎ、暖かい日差しが雪を完全に溶かした頃、帰ってこない一組の狩人の家族はそのことについて話題を上げていた。


「ごぶぶ、さいきんあたたかくなってきたごぶぶ」


「ご~ぶ、そうねえご~ぶ。そろそろあのこたちもかえってくるかしらご~ぶ」


「きっとかえってくるごぶー。おみやげたくさんもらうごぶー!」


 家族達はそんな風に明るく話し、帰ってくるはずの狩人達をまっていた。


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 ≪ゼルエス帝国辺境・魔の森近くの村近く≫


 季節は暖かい日差しが雪を完全に溶かした頃だ。そんな春の日、ハルゴニア大陸にある大国『ゼルエス帝国』の辺境に接する、ハルゴニア大陸の3分の1程も広さがある魔の森、その近くの村にある開けた地に作られたキャンプ地で、2つの集団が隊列を組み整列していた。


「ゼルエス帝国パンタナ領騎士団っ!姿勢を正し拝聴っ!」


 号令をかけられた20名ほどの全身鎧を着た騎士達が『ザッ』と姿勢を正す。


「アリエス聖王国殲魔部隊ぃ!姿勢ヨクお話を聞きなさいぃ!」


 声をかけられた50名ほどの革の部分鎧をきた教徒達は『サッ』と姿勢を正す。

 2つの集団が姿勢を正した後、凝った装飾の全身鎧を着た騎士が声を出す。


「それではまずっ!殲魔部隊を率いるカマエル殿の話を拝聴せよっ!」


 騎士を率いる騎士団長はそう声をだし、話を隣にいた男にふる。

 騎士団長の隣にいた男は、今回殲魔部隊を指揮することになった男でカマエルといった。


「私は今回殲魔部隊を率いるカマエルよっ!今回率いてきたのは殲魔部隊とは言ってもまだひよっ子ちゃん達、まっ要するに見習いちゃん達ね。パンタナ騎士団の方達はうちのひよっ子ちゃん達が危なくなったら助けてあげてほしいわっ!でもそれに安心してはいけないわよっ!ひよっ子ちゃん達わかったかしらっ!?」


 このカマエルという男、話方も少し妙だが出で立ちも妙だった。男だが化粧をしており顔は派手やか、服装もそれに負けないように装飾が多く目立つ服装だった。

 そんな森へ入るというのに似つかわしくない出で立ちの男だったが、その男の手には一つの武器が握られていた。


「もしも魔の森の奥に出てくる化け物が出てきた時には私も手を出すわっ!でもそれ以外、私は見守るだけしかしないわっ!今回はダンジョン外における実地訓練よっ!それをよく頭に入れて訓練しなさいっ!」


 カマエルはそう声を上げ、持っていた武器の石突きの部分を地面に『ドンッ』と打ち付ける。

 その武器はこの派手な出で立ちの男が持つには異質なものだった。その武器は言ってしまえば地味で大きな鎌。この派手な男が持つには似つかわしくない物だった。

 そんな武器を持った男だが、今度は話を騎士団長の方にふる。


「私からは以上よっ!では続いてパンタナ騎士団の団長様よりのお話よっ!よーくお聞きっ!!」


「ハッ!パンタナ騎士団っ!我々はあくまでサポートであるっ!危ないときだけ手を出すようにっ!アリエス聖王国の諸君は自分の手に負えないと思ったら申し出てくれっ!申し出てくれたらこちらが積極的に手を出すっ!自分からは以上であるっ!」


 話を振られた騎士団長が話を終えると、2つの集団はいよいよ出発の時だと体に力を入れ出発の合図を待つ。


「それじゃあ出発するわよっ!殲魔部隊のひよっ子ちゃん達っ!先頭を進みなさいっ!」


「「「はいっ」」」


「パンタナ騎士団っ!殲魔部隊に続けっ!」


「「「ハッ」」」


 両指揮官からそう合図が出され、2つの部隊は魔の森へ出発した。


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 魔の森へと進む殲魔部隊の後に続くパンタナ騎士団、その道中で騎士団長と今回その補佐役を務める一人の騎士がひそひそと会話をしていた。


「しかし団長、なんで今回は我々騎士団がこんな任務を?」


「色々と断ると厄介な筋からの話があってな。それで一応監視を兼ねて聖王国の部隊へ同行だ」


「なるほど?しかし聖王国の部隊を率いてる男、変な男ですね?鎌を持ったカマっぽい男って・・・ハハッ」


「馬鹿者っ!聞こえたら如何するっ!黙れっ!」


 補佐役がぽろっと漏らした言葉に騎士団長は小声で怒鳴るという器用な真似をする。その怒鳴られた補佐役はビクッとして騎士団長に聞き返した。


「ど・・・どうしたんですか?聞こえたらまずいんで?」


 そう聞かれた騎士団長は知らず知らずの内に冷や汗を流しながら答えた。


「あの男は聖王国にいる6人の超越者のうちの一人だ・・・」


 そう言われた補佐役の騎士は聞いたことがなかったのか、不思議そうに首を傾げていた。それに対し騎士団長は続けて話す。


「知らんか・・・。聖王国には6人の超越者達『6聖者』と呼ばれる者達がいる。その『6聖者』は一人一人が一騎当千の化け物だという噂だ。クソッ何であんな化け物が今回来るんだ・・・」


 殲魔部隊の指揮官について話していた騎士団長だが、最後の方はブツブツと愚痴を小声でこぼしていた。そんな中、急に騎士団長と補佐役の傍で声がした。


「おやぁ?私について何か話してらしたぁ?」


 いつの間にかカマエルが騎士団長たちの傍におり、ニコニコしながらそう言ってきた。

 不意にかけられた声に騎士団長はビクッと体を跳ね上げ、何でもないふりをしながら話を返した。


「ハッ!カマエル殿の装いは華やかだなと部下と喋っていただけです!」


「あらぁそう?ありがとねぇ?」


 カマエルはそう応えて笑顔を返す。騎士団長達は笑顔を向けられているだけのはずなのに、その瞳や気配に本能的な恐怖を感じ体が硬くなった。どれだけの時間カマエルに見られていたのかは分からなかったが、気が付くと騎士団長達の近くからカマエルはいなくなっていた。

 それが理解できた騎士団長達は、気づかぬうちに止まっていた呼吸を再開し、深いため息を吐き出し固まっていた体から力を抜いた。

 血の気の引いた顔で、騎士団長は補佐役の騎士に静かに声をかけた。


「ふぅ・・・。解ったか?あれが化け物『6聖者』だ。劣等民の聖王国人だが、中には奴みたいな化け物もいる。奴の様な化け物だけは絶対怒らせるな」


「わ・・・わかりました・・・」


 その後、騎士団長と補佐役は事務会話のみしか口にせずに進んだ。パンタナ騎士団の騎士達も、近くで一瞬感じた得体の知れない気配に口数は少なくなり、殲魔部隊の後を静かについて行った。

 そうしてパンタナ騎士団と殲魔部隊の2つの集団は、行軍を粛々とこなし進んで行った。



 今回の目標となるゴブリン村へと。



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