第13話 絶体絶命のわんちゃん

 俺とごぶ助は非常にまずい事態に陥っていた。どう考えてもやばそうな相手と出会ってしまったのだ!


 だが相手はこちらの様子を見ているのか、直ぐに攻撃を仕掛けてはこなかった。

 そして、いつもならとりあえず攻撃と敵に飛びかかるごぶ助なのだが、さすがにやばい相手だと感じているのか体をこわばらせて様子をみている。

 この様な二つの要素によって、俺達はまだどうにか大丈夫だったのだが・・・。


 どうすればいいんだ・・・!?と考えていた時、ついに打開策が出ないまま時間切れを迎えてしまった。


「ヴオオオオオ!」


 ミノタウロスが様子見をやめたのだ!

 

 奴はドスドスと重そうな音を響かせながら歩いて俺達に近寄り、俺より近くにいたごぶ助に向かって、その筋骨隆々とした太い腕でパンチを繰りだしてきた。

 小手調べだと思っているのか、奴にとっては様子見程度のパンチだろう、ごぶ助に軽く拳を突き出してくる。


 ・・・だがそれでも恐ろしく早かった。


「ごぶ!?」


「ばう!?ばうばう!」

(ごぶ助!?大丈夫か!)


 ごぶ助は咄嗟にミノタウロスのパンチと自分の間に棒を差し込み、何とか棒でパンチを受けたらしいのだが、そのまま吹き飛ばされ激しく壁に叩きつけられた。


「ばうっ!」

(ごぶ助っ!)


 俺は吹き飛ばされたごぶ助に向かって走っていく。


「ご・・ごぶ・・・」


「ばう!ばうばう!」

(よかった、生きてはいる!)


 あまりに激しい吹き飛ばされ方をしたので、もしかしたら・・・と思ったのだが、壁には背中からぶつかり、その際背負っていた籠が若干のクッションとなったみたいで一命はとりとめたようだった。

 だが片腕はグシャグシャになり、口からは血が出ていた。しかしそれでも戦意は失っていないのか、無事な方の腕で木の棒を握りしめていた。


 や・・・やばい、どう見ても瀕死状態だ。そうだ!ポーション!


 ボススライムからポーションをゲットしたことを思い出し、周囲を見る。幸いにも背負い籠の中身はごぶ助の近くに全部落ちていた。そしてその中のある物が目に入り、ふと思い出したことがあった。

 

 ・・・それはダンジョン初日にボススライムと戦った時の事だ。ボススライムに同じように吹き飛ばされて、その時に・・・。


「ヴオオオオオオ!」


 その時のことを思い出していたが、ミノタウロスがこっちに来ようとしている。


 だめだ、考える暇がない。もうこれに賭けるしかねえ!


 そして俺は賭けに出た。俺は落ちていた魔晶石を咥えてミノタウロスの方に放り投げる。すると、うまい具合にミノタウロスの目の前に落ちてくれた。


 そしてミノタウロスはそれに気付いた。


「ヴオオ?」


 ミノタウロスはいつでも殺せると思ったのか、弱そうな獲物である俺たちよりも落ちた魔石の方を優先した様で、地面に落ちている魔晶石を拾おうとする。

 

 ・・・よし!賭けに勝った!そしてこの隙に全力でイメージ!・・・今だっ氷魔法発動!


 屈んで魔晶石を拾おうとしたミノタウロスの手と地面を起点に、全身が氷つくようにイメージする。

 おそらくすぐに氷を壊して出てくるだろうが、逃げるまでの時間稼ぎができればいい。そう思いながら魔力が切れそうになるまで全力で魔力を振り絞り、魔法を使った。


「ヴオオオ!?ヴオオォォ・・・」


 んぐ・・・!魔力切れにはならなかったが、微妙にふらふらする・・・。だが今は気合で動くしかない!

 俺はごぶ助に近づいてごぶ助の足を咥え、上に放り投げて背中でキャッチして背負う。


「ご・・ごぶぁ!」


「ばう!ばうわう!」

(すまん!だが今は耐えろ!)


 背中でキャッチした衝撃で気を失ったみたいだが、今はそんな事を考えている暇がなかった。俺はごぶ助を背負った後、落ちているポーションを咥えて全力で走り出す。


 ・・・できるだけ奴から離れなければ!そう思い通路を駆ける。


 新たに敵が前から来たら終わりだが・・・、それはもう祈るしかない。頼んだぜ、わんこ神様!


 祈りながら少し進んだところで氷の砕ける音と共に奴の声がした。


「ヴオオオオオオオオオ!」


 やばい!もう出てきた!もう少し持つと思ったんだが・・・

 ドスドスとこちらへ走ってくる音が聞こえるが、振り返らずに走るしかない。走りながら隠れられる場所や逃げ込める場所を探してみるが見当たらず、とりあえずと思い、分かれ道をまっすぐではなく適当に曲がる。


 だが足音は鳴りやまず徐々に近づいているみたいだった。

 

 クソッ!万事休すか!?なんだよユニークスキル!クソスキルなんじゃないか!?全然好機が引き寄せられたと思えねえぞ!クソックソックソオオオ!

 どうにもならない事態を心の中で罵倒しながらも走る!走るしかないのだ!


 ・・・だがそれも終わりを迎える。


「ブオオオオオオ!」


 ミノタウロスがすぐ後ろにきた。奴は怒り心頭みたいですごく興奮していて、大振りで腕を振り下ろすパンチを放ってきた。大振りで察知しやすかったので何とか当たらなかったが、パンチの衝撃で前方へ吹き飛ばされた。


 クソ・・・もうだめか。でも最後を迎えるには多少ましな場所にでたな・・・。


 吹き飛ばされた先の部屋は先ほどまでの不気味な赤い通路とは違い、壁に光苔でも生えているのか優しい緑色で光を発しており、床は整えられた芝生みたいな草が生えて優しい感触だった。おまけに気のせいかもしれないが、空気がこもった感じがしない爽やかな感じだ。


「ヴオオオオオ!」


 すまん・・・ごぶ助、逃げきれなかった。


 ミノタウロスの叫び声がすぐ近くからする。ごぶ助に心の中で謝りながら、もう終わりだとあきらめた。


「ヴオオオオオ!」


 あきらめて目を瞑っていたが、なかなか最後の時が訪れない。


 クソッ!じっくりと恐怖を与えて嬲り殺す気か!この牛野郎!


 そう思い最後の抵抗にもならないが、睨み付けるために叫び声の方を見た。すると何故か不思議なことが起きていた。


「ヴオオオオオオ!」


 相変わらず奴は興奮して叫んでいた。だが部屋の中に踏み入ってこようとせずに、その場で地団駄を踏んでいた。まるで部屋に見えないバリアでも貼ってあるみたいに。


 なんだか知らないが助かったのか・・・?


 そう思い、ミノタウロスの方に向けていた顔を戻すと、転がっているごぶ助が目に入った。

 ごぶ助は気を失っても戦意を失わなかったのだろう、片腕に木の棒を握りしめたままだった。

 しかし、もう片方の腕はグシャグシャになり、口から血を流してヒューヒューと変な呼吸をしていた。


 やばい!早くポーションを!


 ふらふらしながらごぶ助に近づき、ポーションが入っている容器の蓋を開ける。

 使い方がよくわからんが、取りあえず飲ませればいいのか?すまんが無理やり飲ますぞごぶ助!

 頼む飲んでくれと祈りながら、ポーションの容器を無理やりごぶ助の口に押し込んだ。するとごぶ助は無意識ながらも、なんとかポーションを飲んでくれた。

 すると、苦しそうだった表情が微妙に和らぐ。だが腕はグシャグシャのまま、呼吸もまだヒューヒュー言っている。

 なんとかもう一本でましになってくれと、祈りながら追加でポーションを飲ます。するとグシャグシャだった腕が、見た感じ正常に戻る。


「ごぶ・・・ごぶ・・・」


 ヒューヒュー言っていた息も正常になり、うなされてはいるがいつも通りにゴブゴブ言うようになった。


「ヴオオオオオ!」


 ミノタウロスは相変わらずに部屋のすぐ外で叫んでいた。


 しかし俺は魔力をほぼ空まで使い、さらに直撃しなかったとはいえ攻撃の余波を受けて体も傷つきボロボロだった。



 このまま気を失うわけにはいかない!そう思っていたのだが・・・、気が付くと意識を失っていた。



 -------------------------------------

 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白かった」「続きが読みたい」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると、より一層励みになるのでよろしくお願いします。


 お詫び:誤字や言い回しを修正 2022・1・9

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る