心のアルバム

オダ 暁

心のアルバム

ある文化人類学者がコンゴの雨林をピグミー族と旅することになった

学者はピグミーの族長にお伺いをたてた


「ポラロイドカメラを持っていってもいいか?」


族長はカメラを見たことがなかったので、実際に写真を撮って説明することにした


「そこに立って、そして笑ってください」


族長は怒った

私は命令されて笑うような真似はしない

学者は謝り、なんとか写真を撮ることに成功した


「これは、あなたです」


写真を見せられ、またも族長は怒った

こんな白い縁取りの化学物質の臭いがする紙が、なぜ私だというのだ


「あなたには鼻の穴がふたつある、これも鼻の穴がふたつある。あなたには眼がふたつある、これも眼がふたつある」


とうとう族長は理解した、その写真が自分を示していることを


族長は微み、そして訊ねた

これは何の役に立つのか

学者はそれが何の役に立つのか思い出せない

ようやく彼は返答した


「写真は愛する人を思い出すのに役立つ」


族長は即座に言い返した

私は愛する人を、ひとりたりとも忘れることはない

学者はそれ以上何も言えず、旅にカメラを持ってくのをやめた


ピグミーにカメラは存在しない

人は肉体から分離した存在ではないから

思い出は網膜に焼き付き、いつでも再現できるもの

命ある限り、色褪せたり紛失したりはしない

彼らのアルバムはいつも心のなか

たとえ幸福な映像ばかりでなくても

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心のアルバム オダ 暁 @odaakatuki

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