第10話「ハゲ来る」

 長い長い歴史の中で、その名すら忘れられた英雄がいた。


 今よりも1万年以上太古の昔、まだ異世界の民と人間達が共に暮らしていた時代。

 世界は破滅の危機に瀕していた。


 聖魔戦争、今日ではそう呼ばれている人間、魔族、神族の3種族間で巻き起こった戦争は数多の犠牲者を出し。

 全ての生命の死滅でしか終わりの無い戦争、そう誰もが絶望し世界の滅亡は直ぐそこまで迫っていた。

 そんな中人間の中に現れた一人の英雄が、自身の命を犠牲にする事によって戦争を集結させた。


 聖魔戦争終結後、再び3種族の争いが起こる事を危惧した当時の魔族の王と神族の王は人間達と違う次元で暮らす事を選び。

 ゲートと呼ばれる異次元へ続く門を作り、異世界へと其々の種族を連れて移り住んだ。


 魔族と神族が暮らす異次元へと続くゲートは年々縮小し続け。

 今より2000年程前に、最後の一つを残し全て完全に閉じられる事になる。


 当時、ゲートを利用して使われていた召喚魔術は、ゲート消失と共に当然のように使用出来なくなり。

 今日使用されている属性魔術が台頭した。


 長い、長い歳月の中で人間達は魔族、神族の存在を忘れ。

 そして、自分達を救った筈の英雄の名すら忘れ平穏に暮らしている。


 ただ、大恩ある英雄の名は忘れたと言うのに。その英雄が葬られた地は語り継がれていた。


 自身の命を犠牲にし、この世界に今日まで続く平和をもたらせた名も無き英雄。

 彼は今誰も邪魔の出来ない地で安らかに眠っている。

 愛する者と婚姻を誓い、終には果たされず想い人のみを残し葬られた場所。


 彼の眠りが誰にも邪魔されぬように。

 彼の想いが何時か果たされるように。


 彼が眠る地を約束の地と定め、彼の眠る地をカナンと呼び。

 約束の地に建造され、使用される事も無く目的を失った彼と恋人の婚姻を祝福する鐘がそびえる地。


 カナン=ベルに彼は眠り、カナン=ベルは今も彼の帰りを待っている。


 何時か必ず彼等の愛が成就する事を願い。

 何時か必ず命の輪廻の果に二人が再び巡り会えるように。


 約束の地は今も待ち続けている。

 英雄の帰りを、約束が果たされる日を。

 この世の何処かに存在し、永劫の時の中ずっと待ち続けている……。


 と言うのが今日語られる約束の地の伝説であり。

 実際そんな架空の地が存在しない事はこの世のありと汎ゆる場所が開拓され尽くされ実証されてしまった。


 だが、もし約束の地が特殊な結界で覆われていたなら?

 もし約束の地が他者の介在を拒むように存在していたなら?

 もし約束の地が実在するなら……。


 それはこの世の歴史を根底から覆すような事実となるだろう。






「久しぶりだなゼーゲン、最後に会ってからもう5年にはなるか?」



 場所は王都ギルドのギルド長室、その男は室内の丁度中央。来客の為に置かれていたソファーに座り、対面に座るゼーゲンにそう語り掛けた。

 肌は褐色、気持ちの良いくらい日焼けをし。体付きは筋骨隆々、180センチを優に越える身長に似つかわしい鍛え上げられた肉体の男だった。



「そうだなアレハ、それくらいにはなると思うよ……」



 年の頃は50代中盤、頭はハゲ上がり。側面にはすがるように毛が生えてはいるが、頭頂部は褐色の地肌が陽光を反射する見事なツルッパゲの男だ。

 キラーン――。何て効果音が聴こえてきそうな程陽光を反射させながら、男の問にゼーゲンは答えた。


 今ゼーゲンの目の前に居る男はアレハ、ルドの町のギルド長アレハ・ダレイだ。

 ゼーゲンはアレハを対面で見据えながら苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


 コレハが行方を眩ませて今日で5日目になる。

 予測ではコレハがルドの町に戻るのに一週間、そこからアレハを連れ王都にやって来るのがもう一週間くらいは掛かると踏んでいたのだが。

 正か僅か5日足らずで来てしまうとは……。


 可能か不可能かと問われれば可能なのだろう。何せ本人が目の前に居るのだから。

 ゼーゲンからすれば驚愕に値する行動の早さなのだが、この男の実力とベッケンシュタイン家への執着を加味すれば当然だとすら思えた。



「それにしても人が悪いなゼーゲン……、どうして教えてくれなかった?」


「カイツくんの事か? 私も彼に会って初めてザインの息子だと知ったのだから仕方ないだろう。それよりもお前の方が何故気付かなかったのかが疑問でしか無いのだが……」



 アレハはゼーゲンに苦言を呈した。

 ずっとずっと、ルドの町の人間はベッケンシュタイン家の人間を探していた。

 それはゼーゲンも周知の事実だ。


 ベッケンシュタイン家の人間を見付けたなら連絡の一つも欲しかった。

 アレハからすればその事実を隠していたゼーゲンを責めるつもりで放った言葉だったのだが。

 ゼーゲンはそんなアレハに呆れに似た感情を抱いた。



「気付く? あの子は姓を名乗ってくれなかったんだ。気付ける筈が無いだろう?」


「嫌……、それ以前にあの子はザインに似ているだろう?」


「似てる? そうか……? 聡明で、才気溢れる所は確かにザイン様似だが。その他は似ているとは思わぬのだが……」



 お前の目は節穴か!


 アレハの答えを聞いてゼーゲンは思わずそんな突っ込みを入れてやりたくなったが。

 一応これでもゼーゲンよりも年長、若い頃は随分世話になった……。

 と言うよりも、余計な横槍を入れると話がややこしくなる可能性が極めて高かった為野暮な突っ込みはグッと胸の内にしまい込んだ。



「やれやれ……、ザインの敬称に様を付けるか?」


「当たり前だろう。我々ルドの民がベッケンシュタイン家に受けた大恩。それを考えれば様を付けて当然、嫌我々にとっては神にすら等しい一族なのだぞ?」



 鬱陶しい……。大仰過ぎて本当にイラッとする。

 これだから頭の固い年寄は困る。


 とうのザインにすら、余りにも傅くものだから煙たがられていたな。

 煙たがられ過ぎて息子には絶対に姓を名乗るなと念を押す程だったのだから、その事実に気付けないこの男が哀れとすら思えた。



「ルドの町は一度滅びた……。名家ベッケンシュタイン家の初代当主を除き、当時あの町に暮らしていた者は皆虐殺されてしまった……」



 ああ、知っているとも。ルドの虐殺、今日でそう呼ばれている200年前に起きた悲劇はこの国の者なら誰だって知っている。



「我々は忘れてはならぬのだ、あの凄惨な出来事を。だからまだ旧市街地は当時のまま保存されている。あそこを見ればお前も俺達が何故ベッケンシュタイン家の人間を特別視するのかが分かる」



 知らんよ……。

 ルドの旧市街地と言えば町の者しか立ち入る事が出来ない禁止区域だろ?

 幾らお前でも見せる事は出来ない、そう言って知り合って20年近く頑なに見せて貰えないんだ。

 そんな場所を引き合いに出されても何の説得力も無い。



「あそこを作った……、嫌葬ってくれたのがまだ十代前半だったベッケンシュタイン家の初代当主だと言うのだから信じられん。一体あのお方はどんなお気持ちであの場に居たのだろうか……」



 だから知らんて……。

 あたかもこちらが旧市街地の光景を知っている前提で話を進める為、自分の話に陶酔するアレハとの温度差がヤバい事ヤバい事……。


 目に涙を浮かべ、ベッケンシュタイン家への感謝に浸っているアレハとは対象的に。

 ゼーゲンは溜息を溢したい衝動を必死に抑え適当に相槌を打つしか無かった。


 本当に鬱陶しい事この上無い。

 若かりし頃に世話になってなかったら「黙れ!」と一括して閉口させてやると言うのに。

 何でこんな男に世話になってしまったのか。若輩だった過去の自分をゼーゲンは呪う事しか出来なかった。



「所でゼーゲン、件のカイツ様は今は何処に行かれているのだ?」



 カイツにまで様を付けるのかこのおっさんは……。

 姓を知った途端手の平を返し過ぎでは無いか?

 息子のような存在と書かれた紹介状が今のお前を嘲笑ってるぞ……。



「カイツくんなら今は所用でギルド……、嫌王都には居ない」


「王都には居ない? 何故だ、正か別の地に行かれたのか?」



 そのまま彼が帰って来なかったらこのおっさんは何れ程落胆するだろうか。

 折角王都まで急ぎやって来たと言うのに、それが徒労に終わった時のこの男の悲しむ顔を見てみたいが。

 残念な事にカイツは王都の直ぐ側に居た。


 どうせならそのまま逃げるように命じておけば良かった……。



「王都には居ないがそう遠くない場所に居るさ。このギルドに登録してからと言うもの、ある生物について熱心に調べているようだから。バウルの一件の礼も兼ねて調査を依頼した所だ」


「バウル……? 驚いたな、久しく聞かなかった名だ。バウルも今王都に居るのか?」



 ゼーゲンの返答を聞くとアレハは目を丸くした。

 昔はバウルもこのおっさんに世話になったものだ。

 根が単純な者同士、ザインやゼーゲン何かよりもバウルの方が遥かにこの男と親しかった。



「ああ、二週間程前に戻って来た。初めはアルコールに蝕まれ酷い状態だったが。今ではリズと一緒に修行の日々を送っている」


「そうか……、ずっとバウルの事は気に病んでいた。あいつに酒を教えたのは俺だからな……。あいつをあそこまで追い詰めたのは俺なのでは無いか? そんな罪の意識に苛まれていた。何か助けが要るようなら気兼ねなく言ってくれ、あいつも俺の息子のような男だ。あいつが立ち直る手助けが出来るなら助力は惜しまない」



 ゼーゲンの言葉を聞くとアレハは悔恨を吐露した。

 仲が良かった分バウルがこの男から受けた影響は計り知れない。


 今アレハが語った通り酒だってそうだ。アレハさえ居なければバウルも身を窶すまでアルコールに依存する事は無かっただろう……。

 だが、アレハを責める事は出来ない。

 結局の所酒に溺れてしまったのは全てバウルの自己責任だ。

 それを止められなかった悔いはゼーゲンにもあった。



「お前一人の責任じゃ無いさ、私達だって側に居ながら救ってやる事が出来なかった……」


「全てはザイン様の死が狂わせた……か。あのお方が遺した影響は多大だな。今ご存命なら何れ程偉大な魔法使いになっていた事か……」



 何もかも8年前のあの日に壊れてしまった。

 ザインが死んだ日に誰しもの心に暗い影を落とし、固く結ばれていた筈の絆に亀裂が入ってしまった。


 もう二度と戻る事は無い、修復される日は来ない。

 そう諦めていたと言うのに、唐突に現れた一人の少年によって又新たに止まっていた時が動き始めた。



「カイツくんには頭が上がらないよ。バウルを立ち直らせ、我々との絆を又繋げてくれたのだから。あの子は本当に凄い、幼き頃のザイン以上に才覚にも溢れている」


「確かに……、ルドの町に居る頃からカイツ様の才能は突出していた。上級ハイエストどころか、この私ですら町を出る頃には敵わなくなったくらいだ。末恐ろしい方だ」



 嫌、動き始めたどころか、急加速しているくらいだ。

 約束の地の存在、失われた筈の魔術を仄めかす。カイツの口からは驚くべき事しか告げられていないと言うのに、目の前の男はまだ驚くべき事を平然と口にするでは無いか。



「お、お前でも勝てないのか?」


「聞いていないのか? カイツ様が王都に旅立つ日別れが惜しくてな。力ずくでも止めようとしたのだが。情け無い事に返り討ちにあってしまった……。いやはや、子供に負けるとは私も耄碌したものだと嘆いたのだが。ザイン様の御子息と分かれば当然の結界だったと受け入れられる」



 確かにアレハは年だ。50を回り肉体にも魔力にも衰えが来ている。

 だが、それは全盛期を鑑みればと言う前提があるからであり。

 今持ってそこいらの上級ハイエストクラスの魔術士では歯が立たぬ程の実力は有している。


 そんな男を打ち負かす程の力を既に有している……。

 13の子供が、俄には信じられない話だった。



「召喚魔術とはそこまで強力なのか……?」


「召喚魔術? 何の話だ、カイツ様は雷属性だろう?」



 気づいていない?

 嫌、巧妙に隠しているのだろう……。


 実際ゼーゲンもカイツが魔術を使用した所を見た訳では無い。

 それに召喚魔術が本来どうやって使用されるのか、その術も既に失われ情報は皆無だ。

 一見すれば通常の魔術を使っているのと大差が無いのかも知れない。


 目の前の男も年老いた上に少し頭が残念ではあるが、元はこの世界トップクラスの魔法使いだ。

 どちらにしろこの男の目を欺きながら通常魔術を使っているように見せ掛けているのだとしたら素晴らしい偽装とも思えた。



「雷属性か……、その時点で驚愕に価するのだがな」


「確かに、私も初めて見た時は言葉を失った。閃光……。まるで夜の闇を切り裂く雷の如く鮮烈な衝撃だった」



 鮮烈な衝撃か……。

 雷にそれ程相応しい表現も無いだろう。


 見てみたい……。

 彼が魔術を使用している所を見てみたい……。


 嫌、見るだけでは足らない。実際に手合わせして何れ程の実力を有しているのか確認したい。

 約束の地についてももっと詳しく話を聞きたい。

 彼の相棒のフィルにだって興味がある。あの小猿が本当にフィルバウルなのだとしたら調べたい。


 ああ、ダメだ……。

 深入りしてはダメだと本人に念を押されたと言うのに。

 このおっさんが余計な情報を口にするものだから探究心が擽られっぱなしだ。


 今までこの世界に残された文献や遺跡を回り、それでも得られなかった情報を、歴史を知っている少年が直ぐ近くに居る。

 だと言うのに全てを知る為には家族も、人生も捨てなければならないと来ている……。

 これ程むず痒い思い今までした事が無い。


 妻を愛している。娘を愛している。


 だから我慢だゼーゲン!

 お前には今の地位より、称号よりも大切な家族が居るのだ。

 だから我慢するんだゼーゲン・バーンスタッド!


 ドーン!――。悶々とした感情に一人苦悶するゼーゲンだったが。

 そんな彼を叱責するかのように、突然けたたましい爆発音が鳴り響いた。



「な、何だ! 正か、叔母とやらがもう来たのか!」



 普段の彼なら決して取り乱す事は無いのだが。

 不謹慎な探究心に揺れていたジャストなタイミングで予想もしない爆発音が鳴り響いたものだから、流石のゼーゲンも見当違いの発言を口にしてしまった。


 叔母……?

 突然何を言っているのだコイツは……。


 何時もなら蔑む事はあっても蔑まれる事は絶対に無いアレハですら、唐突なゼーゲンの言葉に彼を白い目で見る始末だった。



「ブォーーーーッッッ」


「これは……、エフィオンの咆哮か!」



 だが、その直後に響き渡った獣のような咆哮を聞くと直ぐ様何が起きているのか察し。ゼーゲンとアレハは窓を開け咆哮の聞こえた方角を凝視した。


 そこは丁度爆発音が鳴った方角だったのだろう。

 距離で言えば500メートル程離れた場所。王都の住宅街の中、真っ先に二人の目に飛び込んだのは立ち上る黒煙だった。



「あれは……、正かバウルか!」



 そして、次に二人の目に写ったのは豆粒程の小さな人間が黒煙の回りを舞っている姿だった。

 それを見た瞬間アレハが驚愕しながらそう呟いたのだが。


 アレハが「あれは」と言った。

 その事実に、本人は真剣だと理解しながらも。

 真剣であるからこそ咄嗟に「あれは」と駄洒落た事を言った為にゼーゲンは吹き出しそうになってしまった。


 うーむ……。本当に難儀な名だ。

 本人には失礼だが、コレハ君と言いアレハと言い凄い名前だ。

 もしコレハ君が「これは」と言ったら次は笑いを堪える自信は無いぞ……。




「ブォーーーーッッッ」



 そんな不謹慎な事を考えてしまったゼーゲンだったが。

 空を舞うバウルを追って姿を現した魔獣を視認すると全ての状況を把握し青ざめた。



「あのバカ! エフィオンにだけは絶対に近付くなときつく言っていた筈なのに!」


「温厚なエフィオンが我を忘れている……。無駄話をしている暇は無いようだ、行くぞゼーゲン!」



 アレハの言葉通り悠長な事をしている暇は無かった。

 もしあの魔獣……、エフィオンが本気になれば王都など跡形も無く消し去る事など造作もない。


 もし全盛期のバウルなら勝てはしないまでも、エフィオンの攻撃を無効化する事くらいは出来ただろうが。

 今のバウルはポンコツだ。長い酒浸りの生活で完全に錆び切ったガラクタ同然の魔法使いだ。


 そんな男がエフィオンと対峙すればどうなるか……。

 死、そんな短くも悲しい結末しか待ってはいない事は明白だ。



「アレハ、お前は地上から頼む! 私は空から応戦する!」


「ハハハッ、地と空両方からの挟撃か! 戦場を駆けていた頃を思い出すな!」


「お、お前と戦場を駆けた記憶は無いんだがな……。まぁ良い、誰と勘違いしているのかは全てが終わってから聞く」



 記憶の方は確かに耄碌しているらしい。

 ゼーゲンの記憶にない思い出話を快活に笑いながら口にするアレハにゼーゲンは呆れながら、無駄な話をしている猶予など今は無く。

 後でたっぷり突っ込みを入れる事にして彼との会話を終わらせた。



「風よ、それを司る精霊よ! 我が命に従いその力を此処に示せ! ストーム・ブリーズ!」



 そして、詠唱を経て魔術を唱えるとゼーゲンの体は緩やかな風に包まれ宙に浮いた。



「ストーム・ブリーズ……、嵐のそよ風か。相変わらず意味の分からない魔術名を好むなお前は」



 ゼーゲンの魔術を聞くとアレハは余計な横槍を入れる。

 魔術名も詠唱もはほぼ任意に近い。好きな名称で呼んで問題は無い。

 だからこそ、最も術者のセンスが問われる所であり。

 詠唱一つで身分を下げる魔法使いまで居るくらいなのだ。


 それを、魔法使いとして最大とも言える見せ場を一笑に伏された事に一瞬苛立ちを覚えながらも。

 先にも記した通り余計な会話で貴重な時間を浪費する猶予は無い訳で。

 今抱いた苛立ちは後でたっぷり発散してやる事にして。ゼーゲンはアレハの余計な突っ込みを無視してギルド長室から飛び立って行った。


 そう、アレハのバカに無駄な時間を費やしている場合では無い。

 この王都を救う、それが一番の前提ではあったが。

 今のゼーゲンの頭には、目的にはそれ以上の思惑があった。


 もしかしたらカイツの召喚魔術が見れるかも知れない……。

 全力で放たれる失われた魔術。

 今の世の人間誰もが目にした事も無い最高にして最強の魔術が見れるかも知れない。


 そんな邪な好奇心に突き動かされゼーゲンはエフィオンと交戦するカイツ達の下へ向かった。


 そこで目にした物が自分の想像を遥かに越える事になるのだから、アレハに無駄な時間を費やさなくて良かった。

 そう胸を撫で下ろす結果となった。



「さて、私も行くか!」



 邪険にされているとも知らず、ゼーゲンが飛び立った姿を確認すると。アレハもカイツ達の下へ急ぎ向かった訳なのだが。

 慣れ親しんだ筈の王都の入くねった道を迷いに迷い、彼が現場に辿り着いた頃には全てが終わっていた……。


 全てが終わってから漸く到着したアレハをその場に居た全員が白い目で見る事になるのだが。

 それは又別のお話であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る