第6話 「カレー作り」

 日差しが照りつける、しかし雲が少しだけ広がりはじめていた。雨は降る様子はない。少しだけ涼しくなって良しかもしれない。

 15時30を回る頃、いよいよ本日のメインイベント、カレー作りに入る。公園に隣接したキャンプ場には「吹きっさらし」の調理スペースがあった。スタッフが大忙しにバタバタしていた。材料を班ごとにスタッフのいる場所に取りに行く。


  みんなで必要な材料を調理スペースに運ぶ。5人と僕が調理スペースに集まる。まだ正直は腹は空いてはいないのだが作り始めるのだ。


 「みんなはさ、料理ってしたことあるかなあ?リーダーはね、うちでは良く作るんだよ。」

 「あるけどぉー?つーか、それでぇ〜?」杉町タオだ。なんかこの子の言葉にはイチイチ、ドキドキさせられる。

 「タオちゃんね、カレー作るんだから、包丁くらい触ったことあるかなって思って聞いてんだよ。タオちゃんはあるんだよね。タオちゃんはそれで、料理は、何を作ったことあるの?」

 「お湯をいれて3分。」

 「はい、はい、はい、はい、はい、リーダー!!俺もある!ある!ある!」

 菊池君が騒ぎ出した。

 鴨下くんも「僕も作った〜。」と間延びした声でいう。

 「カップ麺は料理じゃないと思います。」

 2年生の山田慧君が冷静にいった。

 「そ、そうだよな。や、山田くんが言うように、カップラーメンは料理とはいわないの。お湯沸かしていれるだけなんだからね。料理じゃないの、ね。」

 「うっそぴょ〜ん。カレー作ったことあるよ〜ん。」

 タオちゃんがすましていう。

 (舐めてんなあ、この子は。)

 「そ、そっか。タオちゃんはあるのかあ。じゃあ良かったな…。」

 「他のみんなは?」

 「僕はお母さんとハンバーグ作ったことあります。」

 「えっ山田君は、ハンバーグなんて2年生で作ったのか?すごいねえ。じゃあカレーなんて余裕だよ。」

 「けいさあハンバーグなんて作れんのかよ。あ、何分ハンバーグって焼いたら、食べれるの?言ってみろよ。」

 (いきなりハンバーグの焼き時間がなぜ気になったのだ菊池翔太。)

 「えっ。何分?!何分かなあ。」

 「嘘つき!ほらみろ。ハンバーグ作ってないんじゃん。」

 「作ったよ。ハンバーグの型にしたよ!」

冷静な慧君が鼻息が荒くなる。 

 「いつ作った?何時何分何十秒?!」


 「翔太しょうたうるさいなあ。慧が可愛そうでしょうがぁ!!」

 男勝りにタオちゃんが立ち上がる。

 「ねっ、さっちゃん、ハンバーグは焼くのなんて何分でもいいよね。」

 添田さんが急に振られて困った顔になる。      

 「え。ああ。うん。」

(何分でもよくはない。焦げるよ。でも今は  

 そんなことはどうでもいいよ。)


 僕が声をかける。

 「ちょっと待って、落ち着いて。菊池くんは、人に嘘つきとかすぐにいわないの。嘘はいけないけどね。でも山田君はハンバーグを作ったんだよ。何分で焼いたかなんて知らなくても焼いたの。そうだよね。慧くん。」

 「うん。」山田くんが涙を浮かべていた。


 「だからあ。」

 僕は困ってしまう。なんで泣くのか。泣かすのか。

 「菊池くんほら、山田くん可愛そうでしょう。人が嫌に思うことはしないの。ね。」

 「菊池くんが嘘つきって言われたらどうすんの?どう思う?」

 「………。」無言


 「翔太バーカ!」タオちゃんが追い打ちする。

 「だから、タオちゃんも馬鹿とか人に言わないのね。馬鹿って自分が言われたら嫌でしょう、いま話したよね。」

 「バカにバカって言って何が悪いんでしょーかあ??は〜?せんせいの言ってることぜんぜんわかりませんけどぉ。」


 「うむむ。。。」


 「バカって言ったやつが1番バカ!」菊池君がタオちゃんに突如としていい放った。


 「はあ??じゃ、バカって言ったやつが1番バカって言ったやつが1番バカ!」タオちゃんが応酬する。


 「じゃーさあーバカって言ったやつが1番バカって言ったやつが1番バカって言ったやつが1番バカバカバカ!」


 「おーい。うるさいなあ。仲良くやろうよ。頼む。カレー作ってくれ。」


 なかなかカレーづくりが始まらないが、僕らはその後に、美味しくカレーを食べたのではある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る