第5話 「森の楽園で高い高い」
活動拠点となるキャンブ場は、ホテルから、バスで15分の場所にあった。
昼食をてんやわんやに班ごとにホテルで済ました僕らは、昼過ぎにキャンプ場、公園に向かう。13時30分からのスケジュールは「公園で元気に遊ぶ」である。
自由に伸び伸び自然を満喫する時間である。ゆっくりしよう。だいたいアルバイトを過密にこき使わないでほしい。
公園にある木造のアトラクションは、なかなかだった。滑り台、ターザンロープあり、網を張ったようなアスレチックあり。
青々と実る芝生、木々と茂みと森。日差しが照りつける中、みんな汗水流して存分に動き回っている。わたしは見守るように言われていたから、怪我がないように、見回っていた。
都会の子供達は自然がない。まさに地上の楽園かもしれない。草の匂いがする。何とも言えない、あたたかな草の匂い。田舎生まれの私には当たり前だが、彼らには存分の環境だろう。
菊池翔太が走り回っている。山田慧君は逃げ回っていた。
「けい〜!!まあて、まてまてい〜〜!!」
「追いかけて来ないでよお!!」
菊池君は3年生、山田君は2年生。菊池君はお兄さんだが山田君のほうが落ち着いていた。
周りの子供たちと同じく、小学校は、みんなバラバラだった。
ただ、杉町タオと添田幸子は同じ桜小学校だった。一緒に申し込んだらしい。添田さんはタオちゃんが居るから来れたのだろう。
鴨下君は芝生に飛ぶ「ショウリョウバッタ」をおいかけていた。「よいしょ。」「ほい。」ショウリョウバッタは、追いかけても、追いかけてもジャンプして跳ねて逃げる。
なんか僕もだいぶ見守りに飽きて、声をかけた。
「かも君は、高い高いってしてもらったことある?」
「うん!お父さんにやってもらったことある。」
「でもあんまやってくれないよ。お母さんは危ないからやめなさいって言うし…。」
「そっかあ。確かに危ないかなあ…。」
「リーダーやってよ。高い高い…。」
よくわからないが僕の呼び名は「リーダー」もしくは、「せんせい」だった。意外とタオちゃんあたりが先生と真面目に呼ぶ。俺、先生じゃないから。
「鴨君、危ないからさあ、少しだけだよ。2回しかしないよ。」
鴨下君を、僕は思いきって、ひょいと脇の下から両手で、宙づりにする。
「高い、高い!」ぴょーん。
「たかい、たか~い」ぴょーん。
鴨下君は軽い。簡単にふわりと宙に浮かぶ。
「ケタケタケタケタケタケタ。」
鴨下くんが奇声をあげる。
「もう一回!もう一回!」
「高い、高い!」ぴょーん。
「ケタケタケタケタケタケタ。。」
「たかい、たか~い」ぴょーん。
「ケタケタケタケタケタケタ。。」
鴨下君が変な楽器みたいな奇声を上げる。
「せぇんせぇ〜いいいい。ひろきばっかりずるいいい〜〜!」
杉町タオが近づいてきて、僕の身体にベッタリしがみついた。
「あ、おい。危ないなあ。」
ぼくは鴨下君を落としそうになり「高い、高い」をやめた。
「タオちゃん3年生でしょ。やりたいの?」
「3年生も1年生も関係な〜い〜!!だからさあぁ〜。大人って、ずるいんだからさあ〜〜。」
「あのなあ。僕のどこが大人なんだよ。」
「じゃあ、やってよ!」
「はいはい。」
「高い、高い!」
「ひゃーっああ!」
ちょっとやはり3年生は重いのだ。腕が痺れてきた。
「たかい、たか~い。」
「あひゃひゃひゃひゃゃゃあああ!!」
杉町タオは面白いぐらいに奇声を上げて、喜んだ。ませていても子供だ。添田さんが羨ましげに見ていた。
「リーダーずりぃぃ〜よ〜〜!!」
菊池翔太も追いかけっこをやめて近寄ってきた。「菊池くんもやりたいの?リーダーもう腕が痛いんだよ。」
「あたしぃが〜。あたしぃ〜。もっと〜もっと〜。や・り・たい〜。」杉町タオが地団駄を踏む。
「俺の番だよおお〜〜!!」
菊池君が騒ぐ。
「せんせい。僕もやりたい。」
山田君まできた。
「はあ。あのねえ。。。」
「たかいたか~い。たかいたか~い。」
僕はしばらく、高い高いをやり続けた。
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