魏を知る
我が魏という国の存在を知って興味を持ち始めるようになった頃、我の持っていた水晶が何も発信しなくなってしまったのじゃった。それまで、水晶は、何故か我らを正しい方向に導いてくれるものと考えていたため、急に働くなった原因はわからなかった。もっとも、その頃の生活は比較的安定していたため、水晶に頼ることなく生活しておったのであった。
我は、それから頻繁に王の周りで話されている会話を盗み聞きするようになっていた。城の側には、大きな草むらがあったため、身を隠すのは簡単であった。当時の王であったムサラカは、気性の荒い王であったが、その側近であるミノマタがとても学に秀でた者のようで、度々魏のことをムサラカ王に報告することがあったのであった。ミチカナは、ミノマタに可愛がってもらっていたようで、魏の情報を手に入れたようであった。
「ムサラカ様、近いうちに魏から使者がやってきて、倭の様子について調査するようです。ここで、我が邪馬台国が、倭の中心であることを知らしめれば、邪馬台国は再び栄光を取り戻すことでしょう」
「ミノマタはおかしなことを言うのう。魏なんて国から認められたところで何にもならぬ。我らが必要なのは武力である」
王は、ミノマタを気に入っているものの、聞く耳を持ってはいなかった。ミノマタが必死に王を説得しようと、丁寧に魏について説明をするおかげで、我は事細かに知ることができたのであった。
「そもそも、例え魏の国が我らのことを知ったところで、長い年月が経てば我らのことは何も残らぬではないか。我らが、
この日も、ミノマタは王を丁寧に説得していた。同じ内容を繰り返すことが増えていたため、我も少し飽きてしまっていたところであったが、この日は少しだけ王がいらだっているようであった。すると、ミノマタが我にとって新しいことを述べたのであった。
「魏の国には、文字なるものが存在します。文字として残してしまえば、それが書かれたものが失われぬ限り生涯記録は残ります」
「ミノマタよ、何をおかしなことを言うか。本日はこれでもう一杯じゃ。引き下がれ」
王は大声をあげて会話を切り上げてしまった。ミノマタも、こうなってしまっては何もできず、大人しく城から外に出ていったのであった。
「文字なるものか・・・」
我は、その言葉に何故か知らぬが妙に惹かれたのであった。その当時我らは口頭でのやり取りでしか、言葉を伝えることはできなかった。そのため、我は先祖の名前や活躍ぶりを知ることもなかった。生まれながらにして下戸という身分であった我は、その
それが、文字なるものを使えば後世までいろいろな情報を残せるということではないか。我にとって、それはとても大きなことのように思えた。邪馬台国が、もし後世の民どもも知ることとなれば、我の生きる国は、その形が無くなった後も、記憶として残り続けるのではないか・・・。我はいろいろなことを考えた。
「我は魏なる国に行っていろいろ習いたい」
文字なるものを知ってから七日ほど経ったある日、我はそうスジナオに告げたのであった。
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