住処を求めて

 無事に邪馬台国に戻ってきた我らではあったが、その後の生活は困難を極めていた。邪馬台国出身の我らではあるが、集落の者どもからしたら、見知らぬ者が急に入ってきたと思われることであろう。我らが狗奴国に行ったときは、まだ幼かったため、受け入れてもらえたが、我もスジナオも大人として扱われる年齢になっていたため、到底集落の者に交わることはできなかった。


 そこで、我らは大きな決断をした。集落の者どもとは一緒に暮らさないことにしたのだ。邪馬台国の誰にも気づかれぬように、邪馬台国で暮らす決心をした。


 そのためには、まず大きな問題があった。それは住処すみかである。

 住処(教授注釈:竪穴住居)を作ってしまっては、明らかに集落の者どもに我らの存在を気づかれてしまうことになる。かといって、ずっとほら穴など、建物のない状況でずっと暮らしを続けるのはとても危険である。我らも最初の二日は、仕方なく洞穴の中で過ごしたが、あと一歩で、集落の者に我らの存在を気づかれてしまうところであった。


 そこで水晶に我らは尋ねた。すると、水晶は城の内郭ないかく(教授注釈:環濠集落内にあった王の住処)に行くよう告げたのであった。正直、我らはとても無謀なことだと思っていた。城の内郭は、一番厳重な警戒がされているはずであって、我らが見つかってしまう危険性が一番高いはずであると。さらには、もし見つかってしまった場合、即座に命を奪われる可能性が高いとも思われた。


「姉上、さすがに今回は水晶は誤ったことを告げたのではないですか」

 もともと疑り深いスジナオは、このお告げには反対であった。我自身も、半信半疑といったところであった。しかし、これまで何度もこの水晶に助けられたことを鑑みると、今回も信ずべきではないのかとも思われた。

「スジナオよ、疑わしいとは思うが、まずは実際に内郭の方に行ってみぬか。水晶のお告げを信ずべきか否かは、それから判断しても遅くはなかろう」

 そう告げて、人気ひとけも少ない夜中に、我らはまずは内郭のほうに向かっていたのである。


 内郭の周りは、案の定多くの見張りの者どもがついていた。しかし、よく見ると見張りの者どもの中には、寝ている者がいるではないか。


 当時の邪馬台国は、狗奴国を始め、いくつかの国々と戦いを続けてはいたが、あまり統治がうまくいっていなかったため、敵国から少し見放されていた。我らが生まれる前に、狗奴国の者どもを大量にあやめてしまったことから、狗奴国からは憎まれていたが、戦う価値無しともされていた。

 邪馬台国が優れていたところと言えば、生薬を持っていたことくらいであった。そう、あのメナの命を救えたかもしれない生薬である。

 そのため、他国から急に襲われる危険性が低くなっており、見張りの者どもは建前上ついているだけであった。この当時、倭の中で一番栄えていたのは、狗奴国の王を襲撃した伊都国であった。


 我らは、寝ている見張りの者どもを起こさぬよう、息を殺しながら内郭の方へと進んでいった。彼らは油断しているとはいえ、武器を持っているので、起こしてしまったら、我らの命はなくなってしまう。できるだけ、眠りの深そうな者を見つけて、その者の側を通り抜けたのであった。


 内郭に入ると、とても広々とした空間が現れた。この中で、当時の王どもは暮らしておったのじゃ。邪馬台国自体は豊かではなかったから、あまり綺麗に整備はされてはなかったが、庶民よりははるかに裕福な暮らしをしていたであろうことが、すぐに我らにはわかった。


 しばらく歩くと、似たような形をした建物が二つ現れた。一つは、定期的に掃除をされていそうであったが、もう一方は、十年ほどは使われていないのではと思われるほど、汚くなっていたのじゃ。

「姉上、これほど建物が汚いということは、もう長き間誰も使っていないのではないですか」

 スジナオがそう我に語り掛けたが、我も同じ意見であった。そして、我らはこそが、水晶が導いた場所なのだと悟った。


 中に入ると、我らは衝撃を受けた。酷い腐敗臭がしたのだ。

「これは・・・何の臭いであるか・・・」

 思わず叫びそうになったが、見つかるのを恐れて、小声でスジナオと話し合う。すると、血の跡と腐った何か物体のようなものが見つかったのである。

「亡くなった人々じゃ・・・」


 我らは、この建物が何に使われていたのか、それらを見てわかってしまったのであった。

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