邪馬台国帰還
夜が明けたので、我はスジナオを慌てて起こして狗奴国を去ることを伝えた。
「これは水晶のお告げであるぞ。我らは今すぐ狗奴国を去らねばならぬ」
我が必死に説得したので、初めは不満そうなスジナオもしぶしぶ付いてきてくれることになった。我らは、こっそりと蓄えていた木の実と米を布に包んで運んだ。もちろん、モノリからもらった水晶も持っていくことにした。
「スジナオ、急ぐぞ」
そういって、我らは集落のものを起こさないように気を付けながらも、慌てて外へと出ていった。
それから二つほど刻が過ぎたころであろうか(教授注釈:おそらく20~30分ほど)。狗奴国の中心から離れたところに来た時、後ろを振り返ると、辺りは火の海となっていたのであった。我とスジナオは驚きのあまり言葉を失ってしまった。我らがもし、この日の早朝に狗奴国を出ていなければ、おそらく、あの火の海の中で生涯を終えていたに違いないからである。
後から知ったことであるが、あの時
悲しいことに、モノリはその火の中で息を引き取ったそうであった。我らがいた集落の者どもがどうなったのかは知る由もないが、おそらく残念なことになったのであろう。狗奴国は、この後新しい王を見つける必要があり、しばらく混乱が続いていたのであった。我は、モノリが亡くなったことを知った後、モノリの子のことを案じた。生きているのであれば、モノリの跡継ぎとして王になってもおかしくないのに、そのような便りは来なかった。我は、あの頃は、モノリの子も亡くなってしまったものだと思っていたが、その実際については後にすべて知らされることになったのである。
さて、話を戻そう。
当時は、狗奴国で大変なことが起きていることはわかったものの、実際に何が起きているのかは知る由もなかった。あの時、我らはもう後戻りはできなかったので、すべきことはひたすら邪馬台国に戻るだけである。
とは言え、邪馬台国がどこにあるのかを正確に把握しているわけではなかった。そもそも、狗奴国にたどり着いたのは偶然であったし、来た時の頃の記憶もかなり薄れてきていた。女王になった今こそ、倭国の地理には詳しいけれど、あの頃の庶民は、国の位置関係など知っているものはいなかった。
「姉上、そういう時こそ水晶なのではありませぬか」
我らが行き先がわからなくなって途方に暮れていたある日、スジナオがそう申したのじゃ。我は、呪術の可能性を感じていたのにもかかわらず、軽い飢えもあって、その発想ができていなかったのである。今思うと恥ずかしい。
「水晶よ、邪馬台国に行くにはどうすれば良いのか」
我が尋ねると、水晶は明確に行き先を教えてくれた。邪馬台国は、狗奴国の・・・。
おっと、我は我自身の人生について振り返るつもりではあるが、邪馬台国の位置についてお主らに教えるわけにはいかない。それには訳があるが、後で述べることにしよう。
とにかく、水晶の言うとおりに進むことで、特別危ない目にあうこともなく、二十日ほどで邪馬台国に戻ってくることができたのであった。
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