卑弥呼自伝 プロローグ

はじめに

 この自伝を読んでいるということは、我が時代のことが世に明るみになったのこと、心から嬉しく思う。

 我が名前は、卑弥呼ひみこ邪馬やま台国たいこくの女王である。

 もっとも、卑弥呼という名前も邪馬台国という漢字も、(教授注釈:現在の中国)が勝手に名づけたものである。自分の名前に「いやしい」なんて文字が使われているのは正直遺憾であることよ。


 さて、この書を読んでいるものは、そもそも我が文字を書いていることに驚かれていることであろう。の国(教授注釈:日本のこと)では、もちろん文字を使うものはいない。しかし、我は魏と交友を深めているうちに、実は文字を覚えてしまったのじゃ。文字というのは非常に便利なものであって、それによって構成に我が想いを伝えることができる。逆に言うと、今の倭には文字が書けるものがおらぬから、魏がどのように倭を伝えるのかが、後世のものに大きく影響するかと思うと恐ろしいのう。


 この書を記そうと思ったのはいくつか理由がある。

 まず、私の人生は残り、そう長くはないであろうから。我が年齢は数えで七十八である。後世のものから見たらどうか知らぬが、多くの民が二十代で亡くなっている現実を考えると相当な長生きと言えるであろう。とはいえ、日に日に体調が悪くなり、さらに魔力も弱まってきておる。


 次に、今邪馬台国は大きな危機に面しているから。我によって邪馬台国は安泰となっていたが、また近年世は乱れつつある。邪馬台国、もとい倭の国は魏と比べるとまだまだ成長していかねばならぬことが多いのに、内部で揉めているようでは先行きが心配である。倭の国が、魏だけでなく、その先にあるであろう未知の国々に負けぬ存在となるためには、このままではいかぬのじゃ。


 最後に、我の経験はきっと後世のものにも生きるのではと思ったから。邪馬台国はもともと男によって武力的におさめられようとしていたが、からきしじゃった。そこを、である我がおさめることで安寧の世を気づけたのじゃ。昔から男が世を治めようとする構図があるように思うが、我はも重要じゃと思う。皆の世界はどうであるかのう。



 前書きが長くなってしまったが、最初に言いたかったことは以上じゃ。次の章から、我の生い立ちを記したいと思う。最後まで読んでもらえれば幸甚である。



 正始八年(教授注釈:西暦247年)二月

 邪馬台国女王 卑弥呼

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