第4話テオルの国②(大昔の伝説と呪い)

「特務士団リド・バルム、只今任務を終えて戻りました!引き続き、ご報告申し上げます!」


リドはテオドラール式の敬礼とともに、大きな張りのある声で言った。


「ご苦労。イスに座ってからでよい。」

5人のうち1番若々しく、神々しい装飾品を身に纏う男が頷いて言った。

この男性こそが王子であるとハルキ達は悟った。


リドは

「は!ありがとうございます!」

と言い、3人をテーブルの方に促し着席した。


リドは必要な事のみを簡潔に報告した。

5人は終始深刻な顔で黙ってリドの報告を聞いていた。


「リドよ、ご苦労だった。

カーズが動く事は予期していた事。まさか先手を打たれることになるとは。改めて今後の事も考え直せねばならんな。

しかしそれよりも、、、、日記の呪いが想定よりも遥かに早いな。」


ひと通り報告を聞き終え、1番右に座る初老の男性がため息混じりに言った。


その言葉でマルコの白銀の髪が少しだけ揺れるのをリョウは見逃さなかった。


初老の男性はハルキ達を見て続けて言った。


「まずは君達には色々と説明をしなければならないね。

その前に自己紹介だ。今君達の目の前に座っている御方(真ん中の席)がテオドラール国の王子、ゼルモフ・テオドラール16世様だ。」


ハルキ達の予想は当たり、この若々しい、、、多分20前後の男性が王子様だった。


「そして、私がこの国の政務大臣、ミコム・フォーだ。先に言っておくが私はあまり君達に関与することは無いだろうな。

まぁ、何かあれば協力も出来るが、、、。」


「そして私の隣に座っている(右から2番目の席)のが、この国の参謀長、セイウチ・ヤマ殿だ。」


「よろしく。」

ミコム政務大臣に紹介され、セイウチ参謀長は軽く会釈し短く答えた。


「そしてゼルモフ様の左どなりに座っているのがテオドラール特務士団長のフォン・シオン殿だ。

君達の今後の総責任者と言っても過言じゃないな。」


「よろしく。そして、ようこそテオドラールへ。」

ゴツイ見た目、鋭い目つきのフォンは柔らかくニコリと笑う。


「そして、最後に、、、。もうリドから聞いているだろうがね。君達の世界にも同行していた、マルコだ。リョウ殿、、マルコは君のサポート役となるので、何卒よろしく頼むぞ。」


突然リョウは名前を出されてビックリした。マルコは微笑みを浮かべ、少しも表情を変えずに静かに会釈をした。



「リド!」

フォンがリドの名を呼ぶと、リドは「は!」と姿勢を正して答えた。


「我々はこれより今後の方針を会議する。

現状計画は主軸は変わらないだろう。

西棟の軍議室の使用を許可する。そこでマルコと共に彼らに予定通りに進めてくれ。」


「了解!」

そう言うと、皆一同に起立した。ハルキ達も慌ててみんなにあわせて立ち上がった。


「ハルキ、ナオ、リョウ、、、案内するから着いてきてくれ。」


「予定通りって?どういう事ですか?」

不安になったナオが聞いた。



答えたのはマルコだった。

「平たく言えば、予定通りあなた達のサポートをしていきます。」



マルコは柔らかい笑顔から少しだけ険しい顔になって話続けた。

「もう分かっていると思うけど、あなた達はカーズというグループに狙われているの。

しばらくは私達があなた達を守ってあげらるけど、、、私達にも限界がるし、それだと問題解決にはならない。

結論から言うと、あなた達を鍛えてカーズや呪いから自衛できるようにします。」


「カーズとか呪いとか、、、よく分からないよ。」

リョウが言うと、マルコは再び柔らかい笑顔で答えた。


「大丈夫。まずはそれを説明するから。リド。」

「ん?ああ、、、じゃあ行くか。キミ、急いでリックとスケイルを呼んでくれ。」


リドは近くの衛兵に言うと、衛兵は「は!」と敬礼して部屋を出ていった。



西棟の軍議室につき、マルコが説明を始めた。

「この世界の事は後々、、、。まずはリョウが持っている本と筆についてお話をしましょう。」


「リョウ、、あなたが封印を解いた本の名前は【差長原半兵衛の日記】と呼ばれる物。

差長原半兵衛という今から1500年ほど前に実在した人物。半兵衛はあなた方の世界の人で、異世界を巡り回った人なの。半兵衛は異世界の見聞録を記していました。

その見聞録を私達は【差長原半兵衛の日記】と呼んでいます。」


「日記?見聞録??、、、でも、中身見たけど変な記号しかなかったよ?」

リョウは不思議そうに言った。


「見えない様に隠れているだけで、文字は書いてあるのよ。」


少しだけ間を置いてマルコは声のトーンを下げた。

「でも、、、今は1ページだけ文字が浮き出ているはず。」


「え!?」


声を上げてリョウはカバンから本を取り出した。

すると、本の1ページ目、記号の隣に確かに文章が書いてある。


「ホントだ!!」


リョウが声を上げて、それに反応するようにハルキとナオが本を覗き見た。


【テオルの国のテオドラール王と約束を結ぶ。

獣王討伐の故。

今より遥かに未来、この地に集いし時は1つの時代の終わりの危機。我々は再び手を取り合おう。】


昔の文字なのに、読める。何故かは分からないけど3人は読めていた。だが、意味はまるで分からなかった。


「あなた達がテオドラールに来た事で、半兵衛のテオドラールで書いた事が見れる様になったのよ。」


「つまり、、もしかして、、、いや、でも他のページもまさか。」

ナオとリョウが分からないでいる中、ハルキは事の輪郭がぼんやりと見えてきていた。


「そう。半兵衛が歩き渡った異世界、、、あなた達がそこに行く毎に日誌の内容が見えるようなります。」


「半兵衛は、、、自分と同じように異世界を旅する者だけが、この日誌を読めるように魔法で細工をしたのです、、、。」


「どうして?」

ナオが意味が分からないというように聞いた。


「諸説、、、というか、理由は色々あるんだけどよ。それについては、この後話すよ。」

リドが割って入ってきた。

マルコは頷いて説明を続けた。


「先に記号について。この記号は異世界に行くための魔法陣なの。

例えば、テオドラールのページの記号、、、これは地球とテオドラールを移動できる為の魔法陣なのです。」


「すっげー!!」

リョウは驚いて思わず年相応の反応を見せた。


「リョウ君、僕達魔法なんて使えないよ。魔法が使えなきゃ魔法陣を使ってワープは出来ないのでは?」

ハルキが冷静に言う。マルコも淡々と答えを返した。


「訓練次第で地球の人でも魔法は使える人もいますよ。

でも、もし使えない人が異世界を旅する事になった場合に備えて、もう1つ残した物があります。」


リョウはピンときたようで、またもやカバンをまさぐった。そして筆をだした。


「そう、、今リョウが取り出した筆を使えば、例え魔法が使えなくても、その筆で記号をなぞるだけで異世界に行けます。」


「でも、僕、なぞったけどなんも起きなかったよ。」


「それには2つ理由があります。1つは筆を使うには条件があるからです。

この条件をクリアすれば、異世界に行く前に記号をなぞって、その異世界に行く事も可能です。」


「つまり、条件をクリアしていれば、リドさんとマルコさんが来てなかったとしても、私達だけでもテオドラールに来れてたってことですか?」


「そうです。本来なら、、、。半兵衛は、私達異世界の人間が干渉して日記を使うのでは無く、、あなた達が試行錯誤して、その条件をクリアして各異世界に行って欲しかったのだと思います。」


「そしてもう1つの理由は、、、」


マルコが少しだけ言うのをためらう。ここでリドが少しだけ険しい顔になった。


「もう1つは、、呪いの影響です。」


リョウも真面目な顔つき、、、いや、顔が強ばった。呪い、、、。

ずっと呪いというワードが飛び交っていたが、意味が分からなかったから。

リョウ自身は呪いの影響がまるで分からない。現実味も実感も無い。それが帰って不安を煽った。


「実はこの日記、、、ある伝説の魔物の魂が封印されていたのです。

箱の中から日記を出した者、、リョウあなたですね?

あなたが箱から日記を出した事で、リョウの心の中に封印されていた魔物が入り込んでしまったのです。」


「え、、、。」

リョウは言葉が出ない。入り込んだ感覚なんてなかった。


「今はまだ影響は少ないでしょう。多分、なんの変化も無いと思います。

ですか、その魔物は恐ろしい魔力と妖術を持っています。そして狡猾です。

リョウの憎悪や悲哀等の負の感情を糧にして徐々に力を取り戻して行くでしょう。

やがてリョウは、、、その魔物に乗っ取られてしまいます。」


ハルキはリョウの事を案じていた。だからこそ、きっと関係があると思い、ハルキは話を戻した。


「その呪いと、筆でなぞっても異世界に行けなかった事になんの繋がりがあるんですか?」


ハルキは考察する力、、、頭の回転がはやい。

ハルキ自身はそんな事は全く気づいていないが、それでもハルキの中には今の話を聞いて1つ考えがあった。


半兵衛は【何らかの理由】で異世界を旅して欲しいはず。なのに、日記を取り出したら【化け物の呪い】が取り付いて、筆を使って異世界に行けない。


違う。

【何らかの理由】イコール【化け物呪い】で、この化け物をどうにかする為に異世界を旅して欲しいはず。

つまり、呪いで筆が使えないハズがない。何か意味があるのだろう。

と、ハルキは推測した。


マルコは頷いた。ハルキが状況を良く理解している事をマルコは察して、それに対して頷いて答えたのだ。

「半兵衛が魔物をどうにかしたい。それもこの日記で異世界を旅して欲しい理由の1つです。

では何故、呪い、、いや、魔物のせいで筆を使えないのか?

魔物のせいでは無く、正確には魔物の魔力のせい。なのです。」


ナオとリョウは意味が分からなかった。

ハルキはピンときて答えた。

「筆は魔法が使えない人用。魔力がない人じゃ無いと使えないって事ですか?」


「その通りです。

例えばですが、、、この日記の封印を解いた人が悪意に満ちていれば、その魔物は悪意を糧にすぐにでも力をつけます。そんな人が好き勝手に筆を使って異世界に行けてしまったらどうなるでしょう?


筆の本来の使い方は、魔物が力をつけてしまい、その人を乗っ取ってしまった時、第三者が代わりに筆を使って異世界に行き、その魔物を抑え込める術を見つけるための、いわば保険なのです。」


ナオとリョウはぼんやりと理解したのに対してハルキはしっかりと理解をする事ができた。

「、、、つまり。」

理解したからこそハルキには次の推測が出てきた。


「そうです。魔物の力を利用しようとしている者と、この日記を悪用しようという者達をどうにか退けつつ、あなた達は魔物を討伐しなければ元の生活は送れないのです。」



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僕が闇に堕ちるまで 昼下がりの囚人 @tonton5656

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