第2話 起②

ハルキ達が湖に到着する30分程前。


リョウは駆け足で湖に向かっていた。

遅れていたから急いでいた訳では無く、嫌な予感に襲われ、いてもたっても居られず、湖まで急いだのだ。

(こんなに胸騒ぎがするのは久しぶりだ、、。)


いつもは元気で笑顔が絶えないリョウもこの時は険しい顔つきになっていた。


踏切が見えてきた。踏切を渡り、その先のコンビニのある信号を右に行けば後は一本道で湖に着く。


踏切が鳴る前にとリョウは更に速度を早めた。

しかし、踏切を目の前にリョウの足は止まった。


踏切が鳴った訳ではない。

リョウが足を止めた理由は踏切の向こうに奇妙な人影があったからだ。


踏切の向こうには光を反射しないほどの漆黒のフードを身にまとった、「2メートル程の身長の人の形をしたナニカ」が5体ほどいた。


リョウはそれを目にした時、このナニカが自分を狙っている事を瞬時に確信した。

すぐさま来た道を全力で引き返そうとするが既に遅く、数十メートル先には踏切の先にいるナニカと同じ、漆黒のフードを被ったナニカか4体いた。


(囲まれた!!)


リョウは全身から変な汗がでて、血の気が引いていた。明らかに今、生命の危機だと分かったからだった。


リョウが次にどう行動をしたらいいのかを考える間もなく、そのナニカ達はリョウに襲いかかった。


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「クソッ!ここにもいない!!」

男が苛立ちを見せて言った。

ハルキとナオは得体のしれない男にリョウが行きそうな所を案内していたが、どこにもリョウの姿は無かった。


この男が言うには、「日記と持ち主を狙っている輩がいて、リョウが襲われた可能性がある」との事だった。


ハルキもナオもこの男を味方だと信じた訳では無い。

だが、リョウが湖に来ていない事は余りにも異様な事だった。

リョウは今まで約束を破ったり、待ち合わせに遅れた事がなかった。

そのリョウが湖に来ていない事は、何かあったのだという事を示す。ハルキとナオは男と行動をともにしてリョウを探すことにした。


しかし、探し始めて30分ほど経つが一向に見つからない。

「仕方ない、、、。これを使うか。」

男はおもむろにポケットに手を入れた。


「ちょっと待って!!!それはマズイわ!!」

男の背後から急に光の玉のような物が出てきて、甲高い声で喋りだした。

ハルキとナオは初めて見るよく分からない喋る発光体に驚き、言葉を失った。


男は当たり前のように発光体に言葉を返した。

「いや、取り返しのつかない事態になってからでは遅い!大丈夫だ、、この世界に影響が無いように微量で留める。」


「ダメよ!リド!!影響云々の前に、こっちの世界でコレを使うのは違法、、、下手したら牢獄に入れられてしまうわ!!」


リドと呼ばれた男は、発光体の言葉を意に介さず、ポケットから腕輪の様な物を取り出した。


そしてその腕輪を自らの腕にはめると、腕輪はひかり、輝きだした。


「ならこの腕輪は何故持たされた!?

こういう時、、不測の事態に備えての物だろう!」


リドはハルキとナオの方を振り向き、

「キミたち、時間が無い!俺は本の持ち主を知らないから、キミたちが念じてくれ!!

本の持ち主の事を!心で強くイメージして念じるんだ!!さあ、早く!!!!」


ナオは戸惑っていたが、ハルキは判断が早かった。

ハルキは言われるがままにリョウの顔や声、姿を可能な限り思い出し、強くイメージした。


それに呼応する様に腕輪は光を強くし、目が眩むほどの光を放った。


次の瞬間、ハルキとナオ、リドは森の中にワープしていた。


「え??」

「ここって、、、」


ハルキとナオはにわかに信じられないこの現象に戸惑いつつも、受け入れなければならなかった。


木々の合間、、やや開けたはらっぱに、静かに佇む後ろ姿のリョウがいた。


ハルキが声を出す前に、リョウが気づいて振り向いた。

「ハルキ?ナオ姉ちゃん?、、、あれ?ここは、、、?」


リョウの元に駆け出そうとするナオを、リドが無言で腕をだして制止する。


「マルコ、、、どうだ?」


「大丈夫。今は収まってる。でも、次いつ暴走するか分からない程不安定ではあるわ。」


リドの問いに発光体は答えた。発光体はマルコと言う名を持つようだ。


マルコの言葉を聞いて、リドは少しだけため息をついた。


「ハルキ、、」


リョウの問いかけにハッと我に帰ったハルキはリョウの目をみた。

「ハルキ、何がどうなってるの?そちらのおじさん達はだれ?」


「ぼ、僕にも分からない。えっと、、リド、さん。」


「リドでいいよ。1から説明するにはここだと難しいな、、。」


リドはマルコの方をチラリと見た。それに応えるように、マルコは喋りだした。


「そうね。予定通り私達の国に行きましょう。そうすればキミの呪いも暴走を抑えられる。」


「呪い?」

ナオがマルコに聞き返す。

その言葉に思い出したように、リョウは「あ!!」っと声をだした。


「全身真っ黒の人達に追いかけられたんだ!!

長い剣みたいなのを振りかざして、、僕死ぬかもって思ったんだけど、、、あの人達は?」


ハルキとナオが驚いている中、リドはさも当たり前のように答えた。


「それはカーズの手下だな。大丈夫、、、彼らは消えたよ。いや、キミが消したのさ。」


「、、僕が?」


「とにかく、説明はあとだ。カーズはキミを暴走させるためにあの手この手を使ってくる。

急がないとまた追手を放つだろう。」


「あの、、、」

ナオがおそるおそるリドに話しかける。

リドは出会った時から終始冷たい目をしている。


「貴方達を信じてもいいんですか?その、、本当に味方なのかなって、、」


「それは、、、キミたちが決めればいい。とりあえず説明がしたい、その説明を聞いてから判断してくれ。今はそれしか言えない。」


ナオはハルキを、、そしてリョウを見た。ハルキもリョウを見た。


リョウは少しだけ間を置いて笑顔で答えた。

「うん。分かった。ハルキ!ナオ姉ちゃん!多分大丈夫だと思う。この人達に悪意はないと思うよ。」


ハルキはリョウの勘を信じる事にした。ナオも同じだ。ハルキとナオは顔を見合わせ、お互いに深く頷いた。


「分かった。リドさん、、ついて行きます。」


「OK。じゃあ決まりだな。んじゃさっきと同じようにまたトブから俺の周りに来てくれ。」


「トブ?」


「リョウ君、、、信じられないかもしれないけど、僕達、湖からここまでワープしてきたんだよ。」


リョウはビックリした様子でリドの方に駆け寄った。


「良し、準備はいいな?それじゃ行くぞ!」

リドはそう言うと、目を閉じた。そしてまた先程のように、腕輪が光出した。さっきワープした時と違うのは光り方だった。さっきは輝くように光を放っていたのに対して、今度は赤く、炎のようにユラユラと光を放っていた。


そして次の瞬間には、その場所からハルキ、ナオ、リョウ、リド、マルコは姿を消した。


その様子を密かに見つめる人影が、静かにその場を立ち去った。






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