第13話 秘策

ユキとシャオの睨み合いは、刹那にも無限にも見える様相であった。




強者同士に流れる時間は、推し量ることは強者にしかできないのは言うまでもなく、お互いの一挙手一投足が静寂に響く。




「ま、やる事は変わらないか…!」




そう、絶影が強いのはそれだけじゃない。




ただひたすらに、速い。




いくら相手が俺を捕らえられても、その速さの攻撃がずっと続いたら?




反応には限界がある。




いくら見えていても、防ぐ手数は底を尽きる。




そこを狙う。




「くっ…あはっ、やるじゃないの。想像以上よ?」




「なら嬉しいよ。ついでに結果でも俺が勝つさ。」




圧倒的な俺の攻勢状態。しかし彼女の余裕の笑みは未だに消えない。




何故だ…次の2手目は防げないはず、完璧な詰み。




「これで俺の勝、?!」




ガクンと力が抜ける。左手の肩から先が言う事を聞かない。




握力のない左手は、勢いのままクナイを放り投げてしまう。




「さて、おしまいはどっちかしら!」




彼女が懐目掛けて剣を振り下ろす。




「くそっ、間に合え!」




無理矢理予備のクナイを右手で取り出す、なんとか防ぐものの、無理な姿勢での防御は甘く、右肩を深く切られる。




「よく止めたわね。本当に期待以上よ。」




「言ってくれるね…。」




右手はかなり厳しいが、左手の感覚が戻ってきている。




一時的な麻痺を起こされたと言っていい。




「想像した通りよ。貴方の攻撃を防ぎながら、私は貴方に毒を刺したの徐々に徐々に、筋肉の様子をみてあげながらね。」




まるで語尾にハートでもついてるんじゃないかと思うような機嫌でシャオは続ける。




「これが私の天禄。目を凝らして意識するだけで使える、神箭しんせん。貴方の筋肉から骨格の動きまで、手に取るように見えちゃうの。」




「俺の攻撃を見て防ぎながら的確に神経に攻撃していたという事…。」




「それが出来るから天才って呼ばれてるのよね〜私。」




「でも俺も、天才って呼ばれてるんだよね!」




それでも攻勢の姿勢は崩さない。




「同じ攻撃?もう諦めたの……つまんないわね。」




「やってみなきゃ分からないさ!」




ひたすら左手のクナイに絶影を組み合わせる。




とにかく速く、ひたすらに速く。




彼女の顔から余裕が消えた。




攻撃の手は止まらない。彼女の反応を追い越す。




左手が彼女の死角に潜り込んだ。




「俺の勝ち!」




「!いえ、私の勝ちよ。」




左手が力を失う。決めに行った体は止まらず彼女に向かい続けてしまう。




「よく私をここまで追い込んだわ。褒めてあげる。」




彼女は無防備な俺の体を横薙ぎに切りつけようとしたその瞬間、俺は状態を横に下げる。




「いや、俺の勝ちっていったでしょ?」




俺の体はくの字の状態で、片足を彼女の首元に突き付けていた。




「仕込み…刀…」




俺の足先から伸びる短い刃を見て、彼女は唸る。




「へへ、よく見えても足の裏の刀までは見えてなかったね。」




「……うあー!!あんた卑怯よ!!こんなのナシよ!」




「えぇーお互い殺し以外何でもアリがルールでしょ、何にも卑怯じゃないよ。」




「うぐぐぐ…」




彼女は口をきつく結んで怒りを噛み締めている。




負けて悔しいが、一流の武人として飲み込もうと葛藤しているのだろう。




「ふぅー…殺して頂戴。下僕になるくらいなら、短い人生にする事を選ぶわ。」




「ええっ!?いきなり何いってるのさ!」




「別に何もないわよ。あたしは人生を賭けてあんたに負けた。その先に下僕として生きるよりは死を選ぶ。せめてもの情けでそれくらいは許してくれない?」




「…え?」




「だから!!あんたに負けた!!それだけよ!!」




「いやそれは分かるんだけど、何で下僕なのさ?」




「勝負の前にそう言ったでしょ!忘れたの!?」




「いやそれは君が勝手にそう言っただけで、俺はお嫁さんになって貰おうって言ったはずだよ?」




「はぁ?!あんた本気で言ってたの!?」




「可愛い子を嫁にしたいって冗談で言う奴はいないと思うな?」




「ななっ…!」




彼女の驚いた顔が今度はボンッと真っ赤に染まった。




「というわけで、改めて。シャオさん。下僕とか命捨てるとか余計な事は忘れて、俺のお嫁さんになってくれませんか?」




「なななぁっ…!」




彼女の顔から湯気が出て来た。




そんな彼女の返事を待って、じっと見つめ続ける。




言葉に偽りがない事を伝える為に。




何千回口をパクパクさせていたのかと言う頃、ようやくシャオは自分を取り戻した。




「しっ、しょしょ、しょーがないわねー!まぁあたし美少女だし??あんたがあたしを嫁にしたい気持ちも分かるわ!そしてあんたがその為に努力して来た事も伝わった!」




「うん。」




「だから…!……末長くよろしくしなさいよね。」




「うんっ!よろしくね!」




「いい?!浮気とかしたら殺すからね!」




「えっ?」




「はぁ?当たり前でしょ?まぁあたしが嫁ならそもそも浮気したくなるとは思わないけど。」




「いやー……あはは。」




「何よ急に変なの。え?もしかしてもう浮気相手がいるって言うの?」




「浮気とかではないんですが…奥さんになる予定の子が2人ほど…」




「……はぁーーー!!??」




彼女の鋭い声が空を切り裂く勢いで響き渡った。

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