第11話 その日の姉妹
「ユキさん…はぁ」
何度目か分からないため息をつく。
今日助けてくれた男のひと。
お姉ちゃんが依頼で呼ばれたから、今日は一人の時間だった。お母さんからも今日はゆっくりしたら?なんて珍しく言われてしまったが、焦る気持ちは止まらなかった。
優しい両親は私たちに優劣なんてつけなかったし、それぞれを慮って応援してくれていた。
ただ、近くの存在が周りの期待を買っているという事実は、自ら突きつけてしまう。
そんな事を考えてたら家でのんびりなんて出来るはずもなく、言いつけも忘れて成果を求めて森に飛び込んでしまっていた。
甘かった。天禄の制御がまだ困難な自分では不意の熊に対処も出来ず、固まってしまった。
ただただ脅えることしかできなったときに、彼から声がした。
初めて聞く声。けれどとてもやさしい響きで、不思議と信じられる誠実な響きに従っていた。
助けてくれた人はユキという人で、初めて見た歳の近い男のひと。
他に見たことないからわからないけど、たぶんかっこいいひと。鋭いけど、笑うと優しい顔のひと。
「一歩踏み出すだけの勇気が君にはあるんだ!あとは俺がついてるから怖くないよ!」
初めて男のひとと手を繋いだ。すこし硬くて、自分と全然違うなぁなんてドキドキしてたら、戦いの恐怖なんていつの間にか吹っ飛んでいた。
かけ続けてくれた言葉が私の背中を押してくれた。怖がりだった自分なんていなかったんじゃないかと思うほど自信が溢れてくる。そう思った時には、修行の時のように集中できた。
後から気付いたけど、あの人は男と人なのに天禄を持っていた。猪の攻撃してきたときに援護できるようにわたしよりも遠くにいたのに、いつの間にか瞬間移動して支えてくれていた。
「全然だめじゃなかったじゃない、君は立派な強い女の子だったよ!」
そういって微笑んでくれた彼を見て、こみあげる涙が止まらなかった。
褒めてくれた。自分で自分を責めてばっかりだった自分には暖かすぎるくらいの温度の優しさで。
泣き止む頃には、彼の体温をずっと感じていたいと思うようになってしまった。
見上げる彼の顔はなんだかとってもドキドキしてしまう。でもずっと見ていたいような感じ。
そう思ってつい引き止めたくなってしまったが、自分にも覚悟ができた。
梁山泊に入る事。それで自分に自信をもっとつける。それができたら伝えたい。
このドキドキしている気持ちを。
「はぁ…かっこよかったなぁ…」
「サーナってば!!」
「きゃぁっ!お姉ちゃん?!」
不意にかかった聞きなれた声で意識が戻る。
「やーっと返事してくれた。お姉ちゃん頑張ってきたのにサビシイ。」
天邪鬼な猫のような顔で、姉、シズカが拗ねていた。
「ご、ごめんね、考え事しちゃってて。」
「ユキさん、って人の事?」
「!?!?な、なんで知ってるの…?」
「そりゃぁ私がなーんど話しかけても「ユキさん…ユキさん…」って返事しかしないだもん。とゆーかサナ、外出ちゃったの?」
「ううう…ごめんなさい。」
恥ずかしさと申し訳なさで一杯になる。
「はぁ、まぁ無事だったからよかったけどね。でも、何がどーなったのよ。」
姉に事情をかいつまんで説明する。
「ふーん…それでそのレイ君って子にイチコロになっちゃんだ?」
全てを悟ったようなからかう表情でシズカはサナを見た。
「えええ!その…うん…。でも、わたし、今日で本当に強くなれたと思ったの。あのね、お姉ちゃん。わたしも梁山泊に入れるよう、もっと頑張ってみたい。」
「サナ…。あは!よーしお姉ちゃんと二人で梁山泊姉妹を目指そうか!これからのお姉ちゃんは厳しいぞ?」
「お姉ちゃん…!うん!よろしくお願いします!」
「ねね、それで、ユキ君てそんなにかっこいいの?私とサナの間の年の子よね?」
「うん、すっごくかっこよかったよ。」
「いーなぁ!この集落男の人なんてお父さんぐらいの年の人しかいないもんねー!わたしも見てみたーい!そしたら私もサナみたいにイチコロかも…?ふふ。」
「ううう…お姉ちゃんの意地悪…」
新たな妹の決意を胸に、仲良し姉妹の夜は更けていく。
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