第9話 新たな出会い
より一層気合が入った俺たちはメキメキと力をつけていった。
そんなとある日。最近は集落での修業は減ってきた。
いわゆる武者修行の時期で、他の集落同士でお互い稽古しましょうという、暗黙の了解の時期だからである。
「今日は四の集落裏の山にいこう!あそこはまだ知らないしな!」
初めての武者修行の前に、森を探検したい欲が止まらない。
おそらく俺の知ってるこのゲームの世界なら、生態系もかなり違うはず。
道中で出る敵にも鬼とかいたし。
「きゃぁーーー!!!」
そんな平和ボケを切り裂くような美少女の悲鳴!俺の耳が美少女だと深く訴えてくる!
慌てて声の方に駆け付けると、美少女が森の熊さんに追い込まれている。
歳は同じくらいだろうか。ピンクの髪がふわふわと長く伸びている、犬のように愛らしい顔が今は恐怖で凍り付いている。
というよりそもそも俺の知ってる熊と全然違うや。色は赤いし、サイズが2倍くらいある。
とはいえ、今の俺なら問題なく勝てるはず。
「まってて!怖いかもしれないだろうけど動かないでね!」
「え…」
俺は意識を落とすように『標的』と定めた熊の心臓を見つめる。
両足の指に力を籠める。足で地面ごと引っ張れそうなこの感覚が合図。
後は、そのまま蹴り出した勢いで刺せばいい。
速度の乗った今の俺の力なら、急所など狙わずとも心臓を突き刺すのは容易かった。
熊は威嚇に夢中で俺の気配に気付くこともないまま、力ない雄叫びとともに沈んだ。
「ふう、ごめんね我慢させちゃって!あれが一番早い方法だったんだ!」
出来る限り明るい声と表情で話しかけた。
「ふえ、え…」
少女はそのまま腰を抜かし、静かに泣き崩れてしまった。
「うわー!本当にごめんよー!美少女に怖い思いをさせてしまったぁー!!」
しばらくして。
ようやく泣き止んだ彼女は、たどたどしくも話をしてくれた。
「あの、本当にありがとうございました。わたし、今日初めて一人で森に入っていきなり後ろから大きな声でとびかかられて。」
「こちらこそごめん!助けに来たのに怖い思いをさせてしまった!」
「あの、謝らないでください、わたし、本当に助かりました。あのままじゃ死んじゃってたかもしれないし、何より私が無茶したからですし。」
「いやーでも!むむむ…」
「ふふふ、とっても優しい人なんですね。あの、わたし、サナって言います。」
「いやーそれほどでも!あ、俺はユキね!でも、あんなに凶暴な奴がいる所に何で一人で?」
「ユキさん………っは!あの、わたしのお姉ちゃん、梁山泊確実って言われるくらい強くて。わたしも一緒に修行してたんですけど、わたし、怖がりで、このままじゃいけないなぁって思って。ほんとはこの森も10歳になるまでは一人で入るなってお姉ちゃんにも言われてたんですけど。」
「でも、結局お姉ちゃんの言う通り、私にはまだ早かったみたいです…はぁ。」
「いや、まだ諦めるには早いよ!」
「え…?」
「なら俺と一緒に狩りをしてみよう!稽古はしてたんでしょ?これでも俺、狩りは得意なんだ!」
「確かにさっきのはとっても凄かったですけど…でも私…」
「一歩踏み出すだけの勇気が君にはあるんだ!あとは俺がついてるから怖くないよ!」
そう言って彼女の手を引いた。
「あ…」
もちろん森の奥には行かずに、麓付近にはなってしまうのがなんとも情けないが。
ここまで手前だと熊なんかはいないなーなんて思いながら見ると、食い荒らされたキノコの跡が。
「これは近いね…大丈夫?」
「は、はい、その、でもまだ手はつないで手もいいですか…?」
彼女が頬を真っ赤に染めて上目がちに伝えてきた。
あ、繋ぎっぱなしだ。我ながら危機感が薄いな。
しかし!美少女の頼みならば答えるのが英雄!
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