第2話 赤ちゃんなのに自我あるのはしんどいって事

どれくらいたったのだろう?


とりあえず自我があるなら生きているという事だろうか。意識が戻ると共に、身体に異変を感じる。




自分の喚き声が聞こえる。涙が止まらない。




戻りつつある意識の中視界に移ったのは、ともに顔をクシャクシャにした鋭い顔の男性と全てを許 すような母性のある顔立ちの女性だ。




お互いに泣いてるんだか笑ってるんだか分からないが、二人の瞳に移った幼い赤ん坊をみて気づく。




あ、転生してるわこれ。




「本当に『天禄』を持った男の子じゃないか…!」




「『神託の子』…この子はこの梁山泊を背負う力を持っているぞ!」




そんなこんなで最初の赤ん坊時代は終わった。




正直家族や西園寺さん、あの時見たユキちゃんの事など、思う事は多いが、これ自体は早い段階で割り切れた。




結果として前世の俺は死んだ事は間違いないだろうし、この身体では戻ることもできないし、そもそも自分の現状も把握できていない。


ただ、何がどうなのか、言語は当時の俺とほぼ同じ。カタカナ語まで通じる。




ならば、新たな自分として生き直す決意をするのは、難しいことではなかった。




もちろん簡単なことではなかった。




発達しきっていない未成熟な身体に対して、16年間で培った自我が存在する。




そもそも未発達の脳に過度とも言える知識は、赤子の自分には大きな負担といえる。




喋ろうにも喋れず、歩こうにも歩けないもどかしさは、2年ほど続く抑圧であった。




まず現状でわかった事はいくつかある。




俺の両親はおそらく偉い。




まず家は豪勢。外も出てないので何も判断はつかないが、家は広く、多くの世話係がいる。




定期的に食料が送られてくる。




どうやら俺の父さんも偉いが、母さんがかなり影響力を持っているっぽい。




そして何故だか、定期的に物騒な人たちが『依頼』をしに我が家に来る。




そんな感じで、とにかく体と頭が追い付かない日々であった。




しかし、ご褒美はあった。




授乳である。




母とはいえ、美女からの授乳。




(うへへ。うへ。)




「なぁ、こいつはスケベじゃないか?」




「あなた、何を言うんです?こんなに貴方に似たカッコイイ顔をしてるのに。」




「俺に似て…お、おう…」




「ふふ、変な人」




母さんは強いなぁ。




そんな新たな我が両親、ゲンジとミカのやりとりを授乳しながら思う。




てか、スケベて。




事実としては否定しないが、流石に我が両親の愛は深く受けている。これ以上の邪な考えなんてないぞ!




とはいえ、自分自身が息子としての自覚が甘いのかも知れないな。






その一年後、ようやく言語が追いついてきた。




まだ舌足らずだし、辿々しいが、ようやく自分の意思を言葉に出来るようになってきたのは喜ばしい。




そんな折、真剣な表情の両親が食事中に話を切り出した。




「とう様、かあ様、お話とはなんでしょう?」




「うん、そうだな。その事なんだが、まず父さん達が暮らすこの場所の話をしようと思う。」




そう、そこが気になっていた。




「この家とその周りは父さん達が貰った場所なんだ」




「もらった?誰からですか?」




「梁山泊という、母さん達が働いていた組織みたいな所からよ。そこの棟梁様から頂いたのよ。」




組織と来たか、随分物騒な響きだ。




「答えだけ言うと、そこで父さん達は人を殺す仕事をしていた。夜ご飯の兎や猪と同じように。」




「え?」




理解が追いつかない。この柔和な両親が人殺し?




ゲンジは止まらず話を進める。




「お前はまだ森の中しか知らないかも知れないが、俺たちの住むこの世界は人の死に溢れている。自らがより良い暮らしをする為に、人を殺している。生きるために動物を殺して肉を食べる事と同じ様に。」




それをしないで住む世界、国というものを作ろうとしている人達が今沢山いる。その人達も殺しという手段しか取れていない。」




「そう…なんですか…」




「父さん達は、その中でも人から頼まれて殺しをしていた。言い訳がましいが、自分達で吟味してはいるけどな。」




「今は引退したんだけどね。ユキ、貴方にははっきりと伝えなきゃいけない事。母さん達は、その事に罪を感じていない。強い人が得をする世界なの。」




(母さんまでもか…いよいよ俺の住んでた時の倫理観では生きていけないな。)




「そうなんですね…でも、とう様もかあ様も僕の憧れです。強い2人はとってもかっこいいです」




嘘偽りの無い感情。




驚くことはあっても、強いというのはそれだけで憧れてしまうのが男の性。




(強いことが至上なら、強いならモテるに違いない!カムバック中学生の青春!)




「「ユキ…」」




「そうか…ならばお前を梁山泊として育てていこうと思う。お前は『天禄』という特別な力を持っている、女性しか持てないという特別な力を。」




「天禄…ですか?」




「梁山泊の強者と呼ばれる人は、『天禄』という、特別な力をそれぞれ持っているの。それは女性が圧倒的で、男性は持っている事自体が奇跡の様な物なのよ。本人が望んだ力を得られる。それは生まれたときには身についていたり、後から身に着けたり。」






なんと比率にして1:1万。さらに天禄自体が梁山泊の外では超レア物と考えると、男が持てることなんてほぼありないのではないか?




俺、めちゃくちゃラッキーじゃん。






「そして女性は生まれながらに『加護』という、鍛え抜いた体を女性らしいまま男性よりも育める力を持っているの。天禄はその影響だと考えられているから、もしかしたらユキにも加護がついているかもしれないですね。」




 なんだそのゲーム丸出しの能力は…




「でも、とにかく僕は強くなれる力を持ってるって事ですよね!」




「ああ、間違いなくその力があると俺たちは思う。」




「とにかく今度からはそれも一緒に鍛えましょう。自ずと名前が思いついたら、習得の合図ね。」






「……これはミカに似たな。」




「恥ずかしいです。今は強さだけでなくて貴方もレイも大事です。」




「……ポ」




その鋭い顔でポッとするな!!




「とう様?どうしたのですか?」




「ンンッ!なんでもないぞ。よし分かった。強くなりたいなら教えてあげよう。ただ、まだ3歳のお前には厳しいことかも知れないぞ?いっぱい泣きたくなるし、痛い思いもするぞ?」




「構いません!2人のように強くなれるなら!」




こうして修行の日々が始まった。

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