第4話
目が合った瞬間の驚きは、初めて手持ち花火に火をつけた時、唇に初めて色を載せた時と同じだった。これから楽しいことが始まる予感がした。
「あの、隣に座ってもいいですか?」
声をかけると、相手は心底驚いた、というような顔をした。
「見たら分かると思うけど、あたし他の人から避けられてるよ?初っ端声かける相手、絶対違う人がいいと思うんだけど」
「さっき、あなたが歩いてるのが見えて、素敵な髪色だな〜って、話してみたいなと思ってたところだったの」
相手はほっと胸をなでおろす仕草をした。
「入学式だからイメチェンしたくて染めたんだけど、悪目立ちしてるなって後悔してたところだったの。そんな風に言ってくれる人が1人でもいてくれてうれしい」
ここまで言い切って顎に手を当てた。
「いや、君みたいにかわいい子から言われたからうれしい、のか」
思いがけない変化球に耳の先まで真っ赤になってしまったのが分かる。
「名前、教えてよ」
「
「美彩、良い名前。あたしは
千鶴、と舌の上で転がす。似たような髪色の、似たようなスーツの人が並ぶ中で、彼女はまさに。
「掃き溜めに鶴、って感じ」
あっ、と口を押さえる。また心の中で言ったつもりが声に出てしまった。
すぐに千鶴の顔色を伺おうとしたが、そんなことをしなくても彼女が声を上げてゲラゲラ笑っているのは分かった。
「ちょっと千鶴、声大きい!」
「美彩、よく天然って言われない?」
「たまに言われるけど多分そんなことはない」
「天然の人って絶対否定するよね〜やばい、1ヶ月分笑ったわ」
さらっと天然認定を受けてしまった。とはいえ、自分の言葉で素直に笑ってくれる人がいるのは救われる。この学校で、知り合いがいないこの学部で、ひとりでやっていける気がした。
こんな会話をしているうちに式は始まった。気を抜くと居眠りを始める千鶴を度々小突いているうちに、式はいつの間にか終わっていた。
「肩凝った!話長すぎ」
「ずっと寝そうにしてた人が何言ってんの」
そんなことを言いながらスマホを開く。
待ち合わせしてるの?と軽く聞かれ、まあそんな感じと返す。
「じゃ、あたし行くわ」
荷物を持って千鶴が立ちあがり、そのままスタスタと歩いていってしまった。
その姿を見送っているタイミングで気づいた。わたしはまだ、ピンクの髪にワインレッドのスーツの子が千鶴という名前、ということしか知らない。
連絡先すら聞くのを忘れていた自分に苛立ちながら、今はとりあえず、怜の姿を探す。
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