第2話
「待たせてごめんね」
うっかりICカードを持ってくるのを忘れ、
顔の距離が近づいて、久しぶりに怜の目をまじまじと見た。右目はぱっちりした二重、左目は重めの一重。左右非対称でメイクがしづらいと本人は嫌がっているけれど、わたしは好きだ。ずっと見ていても飽きない。その目の中に、いつも、わたしの知らない怜がいないかを探してしまう。
ぼーっと顔を見ていると、少しずつ顔が赤く染まっていく幼馴染がかわいらしくてニマニマしてしまった。
「
目を逸らしたまま腕を離し、いつもの距離感にすっと戻る。面白くない奴だななんて思いながら改札を抜けて乗り場に向かう。
「もう、心臓持たないよ……」
「なんか言った?」
聞こえるか聞こえないかのちょうど中間くらい。でも、何か言われた気がして怜の顔を見上げる。5cmもヒールがある靴を履いても、フラットシューズの怜の背には届かない。
「早く行かなきゃ。電車、人でいっぱいだよ」
急かす怜の言う通り、電車は入学式やら入社式やらで着慣れないスーツを着た人々ですし詰め状態だった。
「こんなの毎日乗れないよ~」
「泣き言言わないの。わたしたちもそうだけどいずれ慣れるから。とりあえず今はわたしが守ってあげるから」
頼もしい言葉と頼もしい手に引かれてわたしは電車に乗り込んだ。
「地獄だ……」
乗り込んで1分。わたしはもうギブアップ寸前だった。
「わたしが壁になってこれなんだから、我慢して」
乗り込んだ途端に壁側に押しやられた。サラリーマンらしき人とあまり身長が変わらない怜ですら息がしにくそうだ。
「スーツ暑くて苦しいね。ボタン外そ?」
「ダメ、危ないから」
怜ってなんだかお母さんみたい、そう心の中で思ったはずだったのに口から出てしまったようだ。心なしかショックを受けたような表情になったのが意外だった。ずっとずっと隣にいて、家族みたいな存在だと思っているから、こんな風に言われてむしろ喜ぶかと思ったのに。
「……当たり前でしょ。ずっとずっと隣にいて、美彩はほんとの家族みたいだし」
口ではそう言っているのに、向かい合っているのに。全く目が合わない。
右を向いたままの怜の、一重の方の目を見つめる。多分、彼女はわたしに言いたくないことがあるのだと思う。例えば、彼氏がいるとか。いつも隣にいるのに、いつも見ている顔なのに、何を考えているのだろう。わたしはそのまましばらく、怜のブラックホールのような瞳を見つめていた。
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