リリィ・チョイス
悠未菜子
第1話
昔からずっとずっと不思議だった。画面の中でも、街中でも、気付いたらあの人もこの人も誰かとつがいになって歩いている。わたしのつがいになってくれる人なんて、この先の人生に現れるのだろうか。
夢の中にいるのかそうではないのか、あいまいな意識を打ち消すアラームの音に無理やり起こされる。眠たい目を擦りながら起き上がると、目の前には人影があった。
「
ちょっとアルト気味の声はいつ聞いても落ち着く。さっき見た夢への動揺を打ち消すように、眼鏡をかけながら文句を言う。
「ほんと怜ってママみたい」
「ちょっと、同い年なのに何言ってんの!今日から大学生なのに、一人で起きれないなんてダメなお子ちゃまですね」
怜に頭を小突かれ、急いで準備をする。今日のために買ったスーツは、きっと私が来ても七五三のようにしか見えないだろうけれど、それでもそういうものなのだから仕方ない。
「怜はパンツスタイルにしたんだね」
肩がびくっと跳ね上がるのが見えた。
「変、かな」
「ううん、すごく似合ってる」
「今日は美彩のナイトにならなきゃいけないからね。美彩ママからもよろしくって言われてるし」
怜にもママにも子ども扱いされているようだ。思わず頬をふくらませる。
「むくれた顔もかわいいぞ」
とほっぺを指でさされた。頬にめり込む指を恨みがましい目で見ると、ポップコーンが弾けるような笑い声が部屋中に響いた。
「美彩ももう大学生だよ?彼氏も作りたいしもう子どもじゃないんだから」
「じゃあ自分のこと名前呼びするのやめた方がいいよ~」
涼しげな顔で言う怜に何も言い返せなかった。
怜は隣の家に住んでいる幼馴染だ。生まれた病院から幼稚園、小学校、中学校、高校と同じだった。そして今日からは同じ大学に通うことになる。もっと上の大学も狙えただろうに、早々に推薦で私が入学を決めたのを見届けた怜は一般入試で同じ大学を受験した。とはいえ、学部は違うので少し心細い。
「怜、お昼ご飯とかは絶対一緒に食べようね。友達出来る気しない……」
「当たり前でしょ。美彩のとこまで迎えに行くから、毎日法学部棟で食べてね」
「文学部棟じゃないの?3限急いでいかなきゃじゃん!」
軽口のような会話が心地よくて、わたしはずっとこんな時間が続けばいいのに、と思った。
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