第2話 ヒロイン決定の黒い噂

「朝ドラヒロイン謎選抜の背景に、MGJの復讐計画か」


 そのような週刊誌の記事が出たという話を、ユイは早紀から聞かされた。ヒロイン発表から一週間が経ち、「ヒロインに選ばれた月野ユイって誰?」と騒ぐ人は日に日に少なくなっていた。その一方で、「なぜ無名の女優が選ばれたのか?」といった疑問の声が徐々に増えていっていた。


「そんなこと言ったって、私だってわからないんだよね」

 ユイは友達からなぜ選ばれたのか聞かれるたびにそう答えていた。ヒロインはどのようにして決まったのか疑問視する人が多いことを、あまり快くは思えなかったが、その答えはユイ自身が一番知りたかったのかもしれない。


 久しぶりのヒロインオーディション、そして珍しい一年間の放送が決まっていた朝ドラのヒロインということもあって、朝ドラ「かもめ」のヒロインはもともとすごく注目されていた。ヒロインを予想する人々がSNSには多く表れていたし、多くの芸能リポーターも事前にヒロイン予想をしていた。ユイも、まさか自分が選ばれるとは思わず、面白半分にそういった記事をもともと読んでいた。


「かもめ」のヒロインで有力視されていたのは四人の有名女優であった。

 一人目は、蕪菜かぶな さほり。日本で一番有名な女優と言っても過言ではない人であったため、勝負の朝ドラにMGJはそれくらいするのではという声があった。

 二人目は、鈴木すずき 真帆まほ。アイドル出身の鈴木は、昨年ごろから本格的に女優に転身しており、演技力もすでに評価されていた。

 三人目は、田辺たなべ 杏奈あんな。子役の頃から活動している彼女は、ここ最近民放番組の主演をつとめることも多くなっていた。

 そして四人目は、くすのき 佐奈子さなこ。四人の中で一番知名度は低いが、MGJお気に入りの女優とちまたでは呼ばれており、前回の朝ドラではヒロインの妹役をつとめていた。

 蕪菜さほりは、実際にはヒロインのオーディションを受けていないようであったが、他の三人とはユイは会っており、三人とも最終オーディションまでは残っていたのだった。

 その四人のいずれでもないユイが選ばれたことに対して、批判的な意見を言う人がいるらしいということも、ユイは何となく聞いていた。そのような中で週刊誌の記事が出たため、この記事はすぐさま全国で有名になった。


「もしもし、ユイ?」

 記事を教えてもらってから三時間後くらいに、再び早紀から連絡がきた。

「今すぐ、トネテレビつけてごらん!じゃあね、また後で」

 ユイが電話を受けるなり、早紀はそう早口で伝えるて、電話はすぐに切られてしまった。

「もう、何があったのよ・・・」

 そう思いつつもユイはテレビをつけた。すると、そこに映っていたのは楠 佐奈子であった。

「え、何これ・・・」

 ユイはすぐにテレビにくぎ付けになった。



 テレビで放送されていたのは、先ほどの週刊誌の記事についてであった。どうやら、この記事が出たきっかけは、楠 佐奈子が週刊誌の記者に手紙を送ったことであるらしい。テレビでは、楠 佐奈子の画像と共に、彼女の手紙が映し出されていた。


「私は朝ドラヒロインのオーディションで不正があったことに気づきました。

 本来選ばれるべきヒロインは私であったにもかかわらず、MGJが裏で働いて無名な女優を選びました。私はこれまでMGJのドラマにたくさん出演しており、MGJには大いに貢献していると自負しております。それでいて、今回のような仕打ちを受けるのは到底納得がいきません。」


 楠 佐奈子の手紙には不正の詳細が書かれていなかったが、かなりショッキングなものであった。この手紙をきっかけに、週刊誌がいろいろ調べた結果、背景にMGJの復讐があったのではといったことが、記事の中身らしい。


「なんで、よりによって佐奈子さんがそんなこと言うのよ・・・」

 ユイはテレビを見ながらそう呟いた。というのも、オーディションで楠 佐奈子は致命的なミスをしてしまっており、明らかに鈴木 真帆や田辺 杏奈より評価が下であると、ユイ自身感じていたからである。


「何か、オーディションのことを思い返したら、今回の原因はわかるかしら・・・」

 ユイは、オーディションの時のことを思い返していた。

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