第一章 ヒロインは撮影開始前から大忙し!?
第1話 ヒロイン決定の翌日
「うーーん。まだ眠いな・・・」
ユイは目をこすりながら、ベッドから体を起こした。昨日は朝ドラヒロインに選ばれるなど、すごく疲れる一日だったが、今日からしばらくはまた平穏な日々に戻るとユイは考えていた。
「うん・・・?」
ユイは、スマホが朝から
「え、通知が168件・・・?こんな時間からなんで・・・」
ユイは最初家族に何かあったのかと慌てた。しかし、メッセージが家族からではなく友達たちから来ていることに気づいたので、少しだけ心を落ち着かせることができた。親友の
「ちょっとユイ!!ネットニュースで見たよ!!すごい、おめでとう!!」
と書かれてあった。
「ど、どういうこと・・・?」
ユイの頭の中には、すぐに朝ドラヒロインのことが思い浮かんだ。しかし、MGJテレビ局の人には、今日の午後にヒロインを発表すると聞かされていた。混乱が続く中、スマホでニュースを調べてみると朝ドラに関する記事が次々と出ていることに気づいた。
「朝ドラヒロインに新人女優が異例の抜擢!」
「MGJ勝負の朝ドラは無名女優に託された」
「快挙!!無名新人が4000倍のヒロインオーディションに合格」
どれもユイのヒロイン選抜についての記事であった。ユイは自分がまだデビューしてから月日があまり経っておらず、無名であることは自覚していたが、「無名」とか「新人」としか書かれない記事のタイトルを眺めて、誰か別人に関する記事であるような気さえしてきていた。ただ、記事の中身を見ると「月野ユイ」としっかりと書かれており、多くの記事が「彼女の経歴などについては調査中」としていた。
しばらくしてから、MGJテレビ局から電話がかかってきた。どうやら、発表前に情報がリークしてしまったらしく、担当者からは平謝りされた。ただ、ユイにとっては、リークしてしまったことの対応から、MGJの公式発表が、ユイの記者会見ではなく、文面での発表となったことが救いのように感じられた。
お昼になりテレビをつけてみると、民放のテレビ局でもユイのことを取り上げていた。
「月野ユイさんは、まだあまり知られていない女優さんですが、実はあの大ヒットドラマ『
テレビでよく見かける芸能リポーターが、まるでユイを知っているかのように語っていた。そのリポーターとは現場で二度ほど会ったことはあったが、ユイと目を合わせようともしたことがなかったので、ユイはリポーターの口ぶりを少し不愉快に思った。
「それにしても、出演作の情報よく調べたな・・・」
ユイはポツリと呟いた。リポーターが名前を出した二作とも、確かにユイは出演していたものではあったが、どちらもユイには
友達などからのメッセージは、昼以降も届いており、中には一度も話したことのないような人からも届いていた。
「少し名前が知られると、急に友達
そうユイは思い、返信するのが
「大丈夫?」
草一からのメッセージはそれだけであったが、ユイは無性に草一に会いたくなった。すぐに草一に電話して、近くのカフェで会うこととした。
「お待たせ・・・」
「大丈夫だよ。あれ、どうしたの?サングラスなんかして」
ユイは、外で誰かに気づかれることを警戒して、サングラスをして出かけたのだ。
「あ、なんでもない・・・」
少し恥ずかしくなって、ユイは慌ててサングラスを外した。理由を察した草一は思わず笑いだした。
「まだ、心配しなくて大丈夫だよ!ユイのことめちゃくちゃテレビでもネットでも話題になっているけど、写真や動画が全然なくて、みんなユイの見た目はあまり覚えていないよ」
確かに、お昼の番組でもユイの話はたくさんしていたが、使われていた写真は事務所のホームページに掲載されているものだけであった。しかし、すぐに草一は真顔に戻った。
「とはいえ、気づかれないのも時間の問題かもね。これからどうするの?」
「え、これからって・・・?」
ユイには、これからというのが何を意味しているのかわからなかった。実際ユイは自分のこれからについて何もわかっていなかった。
「撮影始まったら大変になるでしょう?大学とか休学するの?」
「ああ、そうね。どうしようかしら」
ユイは芸能事務所に所属していたが、大学生でもあった。これまでは、仕事がほとんどなかったので、普通の大学生とほとんど変わらない生活をしていたが、確かにこれからはそうはいかなくなる。
「休学するしかないのかなあ。そうすると就職が遅れちゃうなあ」
「まだ就活するつもりなの?せっかくヒロインに選ばれたのに、女優の道には進まないの?」
草一の質問はもっともであったが、ユイにはまだその気はなかった。とはいえ、知名度があまりにもあがってしまうと、完全に他の人と同じようにするわけにもいかないような気がしていた。
「まだ、全然考えてないやあ。でも、まだ撮影開始までも時間あるし、ゆっくり考えるよ」
そうユイが言うと、草一が微笑んだ。
「そういうところユイっぽくていいね。でも・・・」
草一が再び真顔に戻った。
「俺、ユイがヒロインとして頑張っていく姿まだ想像できないな。そして、そうなっても俺たちの関係は今のままでいられるのかな・・・」
ユイはただ黙っていた。その疑問はユイも持ってはいたが、考えたくなかった。そして、朝ドラヒロインと草一のどちらかを選べと言われたら、確実に草一を選ぶだろうなと思っていた。
「じゃあまたな。くれぐれも体調に気を付けなよ」
「ありがとう。草一もね」
二人は二時間ほど話してから別れた。ユイは、家に戻るとすぐにベッドに寝転んだ。
「ああ、もう後戻りはできないのか」
現実逃避をまだしたい気分であったが、日本中に知られてしまった以上、自分がヒロインをするしかないという決意とも諦めとも言えないような感情がユイの中では渦巻いていた。
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