朝ドラヒロインは悲劇
マチュピチュ 剣之助
プロローグ
「
朝ドラの最終オーディションと聞いてMGJテレビ局の会場に入ったユイを待ち受けていたのは、大きなくす玉だった。そう、ユイは栄誉ある朝ドラのヒロインに選ばれたのだ。
「そういえば、朝ドラのヒロイン決定って、最終選考って呼び出してサプライズでするって聞いたことあったな」
周りが大騒ぎでユイのヒロイン決定を喜んでいる中、ユイ自身は少し冷めた目で今起きていることを見ていた。正直、ユイにとって朝ドラヒロインなんて望んでいたものではなく、そもそも最終オーディションと聞かされていた時から、わざとミスしてさっさと帰ろうと考えながら向かっていたところであった。
ユイがそこまで後ろ向きだったのは、朝ドラが嫌とかではなく、自分がヒロインになる存在ではないと考えていたからだ。そもそもユイが女優になったのはスカウトがきっかけで、家族の後押しもあり、結婚するまでという条件付きで決めたものだった。ユイには
「ヒロインはダメであっても、オーディションで目に留まった女優はそのあとヒロインの娘役とかで選ばれる可能性もあるんだよ」
それが、所長の口癖でもあった。
朝ドラヒロインのオーディションははじめは楽しかった。ユイは芝居をすること自体は好きであった。ここ二年、朝ドラのヒロインはオーディション無しに、有名女優が選ばれていたため、久々のヒロインオーディションと4000人もの人が受けていたそうだ。また、通常の朝ドラは半年間で終わるが、今回の朝ドラは一年間であることが事前に発表されており、それもオーディションが注目される一つの理由であった。ユイは自分が選ばれるはずがないと思っていたので、オーディションを受けに来ている有名女優を探しては喜んでいた。しかし、オーディションを重ねるごとに、人が減っていきユイは少しずつ不安を抱くようになっていた。事実上の最終オーディションでは、脚本家の
事務所に報告すると、所長は泣いて喜んだ。所長もそこまでは想定していなかったが、これを事務所再興のきっかけにしたいと熱くなりだしていた。実家に電話しても、両親はとても喜んでおり、これから近所の人に宣伝すると言っていた。草一には電話ではなく、メッセージを送ったら、すぐに
「おめでとう。良かったね」
とだけ返信が来た。一通り周りへの報告を終えるとユイは大きなため息をついた。
「はあ、私なんかで本当に良いのかな・・・」
ユイは気がかなり重くなっており、いろいろなことに不安を感じていた。
「まあ放送開始までは一年半あるから、まだ今は真剣に悩まなくてよいか」
物事を引きずらないのが長所のユイはそう思いなおして、切り替えることとした。
しかし、実際のところは、ユイが想像していた以上の重圧を翌日から受けることとなったのだった。
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