アイ キャント スピーク イングリッシュ

マチュピチュ 剣之助

プロローグ

「着いたぞ」

 頑強な男がそう声をかけてきたので、修人しゅうとは外に出た。この男にさらわれてから10時間ほど経つであろうか。修人は自分が今どこにいるのか見当もつかなかった。

「私の役割はここまでである。あとは、自分で精々頑張るがよい」

 男はそう言うと、どこかへと消えてしまった。

「あーあ。今日は本当に最悪だ・・・。家に帰って見たい番組があったのになあ」

 修人はそう呟くとスマホで現在位置を確認しようと考えた。しかしスマホは探しても見つからない。きっと男にさらわれた時にスマホは奪われたのだろう。

「うわ、マジかよ。こんなことあり得ないだろ。あとで絶対に警察に訴えてやるからな」

 そう言うと、修人はコンビニ行けば地図があるかなと思い始めた。生まれてからずっと東京暮らしの修人にとって、コンビニは5分歩けば絶対に見つかるとても便利なものであった。


「あれ、なにこれ」

 着いた時点で何かおかしいと思ってはいたが、コンビニを探そうと思ってあたりを見渡すと、改めて明らかにおかしいことに修人は気づいた。道を行き交う人々、街並み、道路標識・・・あらゆるところが、大きく違う。

「嘘、嘘だろ・・・」

 そう、ここは日本ではない。

「Hi Shuto. Welcome to the USA!」

 後ろから誰かに声をかけられた。振り返ってみると、青い目をした中年の男性が笑顔でこちらに手を振っている。英語が大の苦手な修人は、男性が何と言ったのかすらちゃんとは聞き取れなかったが、二語だけ聞き取ることができた。一つはShuto、自分の名前であるから、この男性は自分に話しかけているのだろう。そしてもう一つはUSA、USAとはアメリカのことであるくらいさすがに修人も知っている。


「え・・・ゆーえすえー??ここアメリカ??」

 修人があまりにも大声で叫んだので、男性は少しびっくりした様子だった。男性は気を取り直して話しかけてくるが、修人は今度は一語たりとも聞き取ることができなかった。修人も、現状を理解するために男性に質問しようと考えるが、言葉が出てこなかった。ここはどこって英語で何と言うのだろう。ここはhereでどこはwhereだからhere is where?かな。そう考えて、

「ヒアイズウェア?ヒアイズウェア?」

 と男性に伝えるが、男性は意味がさっぱりわからず困った様子である。



 修人はとりあえず現状を受け入れるしかなかった。自分は今何らかの理由でアメリカにいて、今日からここで生活をしなければならない。

「日本にいる限り英語なんて勉強する意味ないじゃん」

 そう笑い飛ばしていた今までの自分を初めて恨めしく思った。いや、生きなければいけないのだから、もう英語ができなくても何とかするしかない。そう修人は自分に言い聞かせた。

「よし、絶対にうまく生活をして日本にそのうち戻るぞ!」

 修人は決心して、あとは男性の案内に従うことにした。


 そもそも、なぜアメリカにさらわれたのだろうか。それについては、修人も強く気になっていたので、生活をしながらこっそり犯人捜しをしようと、少し心の中で呟いた。

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