平安貴族はいとをかし

マチュピチュ 剣之助

プロローグ

「あーあ、私平安時代に生まれたかったな。そしたら受験勉強なんてしなくてよかったし、何よりも貴族とか楽そうだし」

 ゆめは昨日自分が親友の真美まみに言った言葉を思い返していた。あれは、高校の日本史の授業後のことであった。日本史があまり好きじゃない夢は、授業中少しうたた寝をしてしまった。授業の内容がちょうど平安時代中期の話で、先生の話している内容が退屈で仕方なかった。うたた寝をしてしまった後、すぐに先生に名前を呼ばれて、そのあとしばらく説教を受けてしまった。


「あーあ、私平安時代に生まれたかったな。そしたら受験勉強なんてしなくてよかったし、何よりも貴族とか楽そうだし」

 改めて昨日の言葉を思い返す。あれは本心だったのだろうか、と夢は考え直す。いや、本心なはずがない。あの言葉は、自分が平安時代に生まれることはないとわかっていたからこそ出た言葉であったはずだ。それなのに・・・。



 朝起きてすぐに夢は異変に気付いた。ベッドに寝ていたはずなのに起きたら布団の中にいた。時間を確認しようとスマホを探すがどこにも見つからない。それどころか、部屋の様子が明らかにいつもと違う。

「あれ・・・なにこれ。寝ぼけているのかな」

 夢は試しに二度寝してみたが、起きてみるとやはり同じ世界にいた。

「うそ・・・ここどこ?」

 慌てて起きようとするが、自分の体が重いことに気づいた。よく見ると髪が異常なほど長く伸びていた。少し騒いでいると、外からドタドタと人が入ってきた。

夢少むしょう納言なごん様。やっと意識を戻されたのですね。お医者様が危ない病気だから部屋に入るなと言ったので、入れなかったですけど、は心配で心配で夜も眠れませんでした・・・」

 知らない女性が大声で泣き始めるので夢は焦った。

「ちょっと待って。あなた誰!?」

 そう言った後で、夢は自分の布団の横に和紙が落ちていることに気づいた。開いてみると、



 平安貴族はいとをかし。そちはそうお思いかもしれないが、それはまことのことかな。是非そちの目で確かめるが良い。



 と書いてあった。夢はパニック状態に陥った。そう、昨日自分が言ったことが現実になってしまったのだ。ここはなんと平安時代である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平安貴族はいとをかし マチュピチュ 剣之助 @kiio_askym

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ