第168話 復活

 やることのなくなった二人の男たちはトランプをして遊んでいた。霧月ブリュメールが持っているカードを当ててもらうことで、ヒューゴの能力を試していた。


「素晴らしいな。私にもこの能力があれば人生ももっと楽であっただろうに」


 デルマーの言葉に、ヒューゴはカラカラと笑った。


「楽なんてそんなそんな。人間の闇がすべて見えてしまうから、人間を簡単に信用できなくなってしまった。泊めてもらったところのばあさんみたいな、綺麗な心は珍しいのさ」


「そうなのか」


 霧月ブリュメールは深い海の色をした目で、じっと彼を見つめる。


「本当に私のすべてがお前に見えているのか? 私の過去も、考えも?」


「ああ、そうだよ。君の父が殺されたのも、母が事故死したのも、君のい____」


 突然ヒューゴは言葉を止める。


「どうした?」


 青年は霧月ブリュメールの後ろの窓を指差した。


「……あれ、君の部下じゃないか?」


「え?」


 デルマーが窓を覗くと、確かに肩までの長さの茶髪を持った少女がどこかへ駆け出していくのが見える。


「は? どこ行こうとしているんだあの馬鹿!」


 霧月ブリュメールとヒューゴはすぐにホテルを飛び出す。風の力を持った霧月が彼女に追いつくのは一瞬だった。少し開けた場所で闇の結界をはったデルマーは、カメリアの腕を掴み、自分に引き寄せようとする。


「落ち着け、カメリア!」


「触るな!!」


 少女は身を捩って、上司から逃れる。そこで霧月ブリュメールは彼女の表情を見た。

 カメリアなら絶対に見せないであろう激しい怒り。髪は乱れ、まつ毛からは火がのぼっている。


(カメリア……じゃない)


 デルマーの驚きをよそに、少女は呼吸を少し整え告げる。


「すまないが、霧月ブリュメール。私は全てを思い出した。すぐにニューヨークへ帰らなければならない。私には……ここでぼやぼやしている暇なんてない!」


「馬鹿か! お前は一度『神の僕』に入った! 奴らの目からは逃れられない! 地獄の果てまで追いかけてくるぞ! 脱退はできない!」


 デルマーは怒鳴り返し、もう一度彼女の腕を掴む。


「離せ!!」


 少女は爆発し、燃え上がる熱い炎が霧月ブリュメールの腕を焼いた。


「くッ!」


 デルマーは呻き、思わず彼女を手放してしまう。炎の力は「カメリア」よりもずっと強い。一体目の前の人間はどんなやつなのだ?


「邪魔をするな! なにがなんでも私は帰らなきゃいけないんだ!!」


「ならば……お前を止めるしかないな……」


 火傷を負っていないほうの手をパチンと鳴らし、暗黒の靄を生み出した。少女は怒りに満ちた黒水晶の瞳で、じっと相手を見つめる。

 ホテルから少し離れた原っぱ、そこで12神官の一員と一人の少女が衝突した。


 



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