第165話 戦跡の町
翌日、
数日かけてやっと着いた二人を迎えたのは、緑の多い町。大きな川と高層ビルがぽつぽつと並ぶ土地の奥には巨大な女性の像が剣を持ってたたずんでいる。スターリングラード攻防戦を記念して作られたものだ。
「こんなでっかい町じゃあ自分でやつを見つけるのは難しいだろうな。カメリア、頼めるか」
「はい、もちろんです」
カメリアは目を緑色に染め、鳥や虫たちを集めた。
その間、二人はかの「母なる祖国」像へ行き、第二次世界大戦の跡を見た。この大戦のことを「忘れていた」カメリアは残された資料を戦慄しながら読む。
「こんな恐ろしい戦いがあったんですね……」
「そうだ、ヨーロッパは大きな被害を受けた。だが一番戦死者が多かったのはソ連だったはずだ。もしお前にロシアの血が流れているならば、先祖はこの戦争で戦っていただろう」
「デルマーさまの先祖も戦ったのですか?」
デルマーは部下の問いに肩をすくめた。
「さあ、わからない。両親は俺がこの話ができる年齢になる前に死んだ」
「えっ……」
確かに「神の僕」に所属するほとんどのペストの家族が亡くなっているが、
「……殺されたのですか?」
「父はな。母は事故死だ」
カメリアはもっと彼の過去について尋ねたくなったが、
そのときちょうど、情報を集めたと思われるハトが飛んできて、カメリアの肩にとまる。話を聞いた彼女は、デルマーに状況を報告する。
「彼は今、ここから一キロほど離れた民家に滞在しているみたいです」
「素晴らしい。行くぞ」
柑子色の髪をした青年、ヒューゴ・ヴァンダイクは一人暮らしのおばあちゃんの家に居候をしていた。子供たちはモスクワへ行ってしまったらしく、一人でやることがなかった彼女は、ふらっと現れた居場所のない自分を泊めてくれた。
何度もお金を払おうとしたけれども、彼女はいつも断ってくる。かといってそのまま居座るのも罪悪感を感じるので、畑仕事を手伝ったり、エンターテイメントとしてよく占いをしてあげたりした。
昼間は基本やることはない。ヒューゴの仕事場は夜の酒場でだ。酔った人間は金をよく弾んでくれる。占いや読心術を少し披露しただけで大騒ぎするのだ。
今日の仕事の準備を始めようと、トランプやらなにやらを鞄に詰めていたそのときドアのチャイムが鳴る。
婆さんがよたよたと歩いて開けに行ったが、どうせ近所の人だろうと思ってあまり気にしないでいた。だが、扉のほうから若い女性の声が聞こえたとき、ゾワッと悪寒がする。
予感通り、その声の主は恐ろしいことを尋ねてきた。
「すみません、オレンジっぽい色の明るい髪をした男性はいらっしゃいますか?」
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