【第三部 the God and the Fairy】神の僕

第140話 集まる神官

 太平洋の南にある浮島、「楽園」。そこまで大きいものではなく、人口は500人程度。そのうち半分は18歳以下と若者の割合が大変高い。

 そして島の住民の最大の特徴とは____30代以上を除いたほとんどの人がペストであるということである。


 島を管理するのは「神の僕」と呼ばれる世界最大のペストのテロ組織である。彼らは島の中心部の、太く高い木が何本も集まってできた巨大樹の周りを囲うようにして立ててある、石でできた城に住んでいる。

 城壁はさまざまなつる性植物におおわれていて、そこには色とりどりの綺麗な花が咲いている。


 城の部屋のうちの一つ、太陽が良く当たるところで、霧月ブリュメールは足を組んで紅茶を飲みながら書類の一つを読んでいた。

 ペストマスクとマントは壁にかけてあり、今は彼の顔が良く見えた。


 彼の髪は丁寧に整えられていて、綺麗な漆黒の色をしていた。だが光がそれにあたると、髪は青っぽく輝いた。目は海よりも深い瑠璃色で、それが霧月ブリュメールを底知れない存在へとしている。


 突然、部屋の扉が叩かれ、外から声がした。


霧月ブリュメールさま! 会議のお時間です!」


 霧月ブリュメールは特に驚きもせず、「わかった。すぐ行く」と返事をした。

 彼が立ち上がったと同時に、霧月ブリュメールの仕事場の内部にあった別のドアから、髪を結んだ浅黒い肌の色をした青年が無言で出てきた。


「今からちょっとした緊急会議だ。時間はそんなにかからんだろう」


 霧月ブリュメールはスペイン語で彼にそう言うと、青年は頷いた。12神官である彼はぐるりと首をまわすと、壁にかけてあったマントを羽織り、部屋から出た。

 廊下を少し歩いたところで、黒髪を結び、頭のサイドに緑と青のリボンとともに編み込みをした同じ12神官の女性がいるのが見えた。彼女は霧月ブリュメールの姿に気がつき、話しかける。


「やあ、霧月ブリュメール。調子はどうだい?」


「こんにちは、牧月プレリアール。ほどほどといったところです。そちらはどうです?」


「まったくもっていい感じだぞ。君のところの部下くんはどうだね。病気から回復してきたか?」


 霧月ブリュメールはちらっと自分より身長の低い牧月プレリアールを見る。


「……ええ、そろそろ仕事に復帰できると思います」


「そうか、よかった。私の愛しい息子の世話はあの子にしかできないからね」


 牧月プレリアールは満足した笑みを浮かべた。


「しかし、緊急会議とはいったい何があったんだろうね。予想はつくかい、霧月ブリュメールよ」


 黒髪の青年は歩きながら少し顔をしかめたが、その感情は声には出さなかった。


「……いいえ、私にもまったく想像できません」


 やがて二人は広場に着く。そこは大きなホールで、小さな窓からわずかにしか火の光が差し込んでいなかったため、全体的に薄暗かった。

 真ん中には横に長い黒い机があり、椅子が12個ずつ置いてあった。すでに何人か来ていて、霧月ブリュメール牧月プレリアールは自分のいつもの席に座る。

 また扉が開いて、今度はアジア人の12神官が入ってきた。収穫月メスィドールだ。


「リック!」


 牧月プレリアールは思わず声を上げる。


「さっき帰ってきたのかい?」


「ああ、そうだ」


 収穫月メスィドール牧月プレリアールの隣に座る。それもそのはず、二人は夫婦だからである。


「中国での任務が少し早く終わってな。ぎりぎり会議に間に合ったって感じだ」


 とはいえ長い間飛んで疲労が溜まっているのか、収穫月メスィドールはぐったりとしている。

 そのとき、奥の扉がバンッと開かれたかと思うと、三人の人物が階段を降りてきた。


「神の僕」のリーダー格の人たちだ。

 右側にいるのは落ち着いた表情で、少し長い茶髪と緑色の目をした男、花月フロレアール、左側にいるのは短い黒髪に目、きりっとした顔の女、雨月プリュヴィオーズ。そして真ん中の人物は、瞳は黒いのに髪は真っ白という、珍しい容貌をした、いかにも不機嫌といった様子で眉間にしわを寄せている、背の高い男、熱月テルミドールであった。


 両脇の人たちはそのまま椅子に座ったが、真ん中の男は立ったまま、テーブルの前へ来て口を開いた。


「神に仕える9人の神官たちよ。突然呼び出してすまない。だが恐ろしいことを伝えるべく、私は君たちをここに集めた」


 熱月テルミドールはため息をつき、もう一度顔を上げ全員を見渡す。


「我々の仲間の一人、実月フリュクティドールが殺された」


 神官たちの間にどよめきが走った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る