第138話 安保隊では
フロストは事件が起こったあと、すぐに三班が住んでいたマンションの住民に対し、謝罪の手紙などを送った。それから緊急会議に追われ、疲れ果ててしまった。
民間ペストハンターに金を落としたくないと思い、マダーと契約して始まったこの企画だが、あんなに対策をしていたのにもかかわらず情報が洩れ、ペストがいることに気づかれてしまった。
「なぜだ……?」
彼は思わず疑問を口にした。依頼を受け取るときは、依頼主をちゃんと調べ上げているし、小さな事件だって今年の10月ごろにあった、自分が最近間接的に雇った三人のペストたちが病院に入院していた安保隊訓練兵を襲おうとしたくらいである。
もしあのとき怜がいなかったら、そしてあの訓練兵がペストに情を抱いていなかったら、大変なことが起きていたかもしれなかったが、結局沈静したのだしそれでいいのだ。
(そういえばあの子たちは大丈夫なのか?)
テレビでは確か、数人の訓練兵が規律を破ってペストに協力しようとしていたと言っていたが、本当のことなのだろうか。ならば彼らは罰されるのではないか?
(まあ、もし何かあったらこっちが社員として回収しよう)
フロストはそう思い、目をつぶる。
彼は生まれつきアルビノで低身長なのもあり、生まれたころから周りから色眼鏡で見られていた。だからペストに対して、抵抗感がないのだ。大事なのは周りを潰してトップに立つことと金だ。それ以外はどうでもいい。
(三班をヨーロッパにあるうちの不動産のところに送るか……?)
だが、向こうはアメリカ以上にペストに厳しい。どうしたものかと彼は途方に暮れた。
「もう一度聞く。あいつらとどこで、どう知り合った。なぜあいつらに協力した」
目の前の隊員は少女に尋ねるが、彼女は相手を睨みつけただけだった。
「私が口を割ると思ったら大間違いだよ。絶対に教えないから」
「ちっ」
兵士は脅しのためか、机を叩きつけた。
「なぜだ! なぜ訓練兵最優秀のお前が洗脳されているんだ! あいつらは敵だぞ!!」
「さあ、どうしてでしょうね」
「もういい! お前は牢屋にでも座ってろ!」
ズーハンは兵士に連れられ、地下にある牢屋に入れられた。ガラガラと格子の扉を閉められ、少女は疲労のため息をついた。
「お、やっと解放されたかー」
ズーハンは聞こえてきた呑気な声の方を向いた。彼女の予想通りメイソンがいた。
「そうだよ、メイス。まさかあんたも怜たちを守るために飛び出してくるなんて、予想してなかったけどね」
「あいつらは俺と食った仲だ。守るに決まっているだろう」
「正直牢屋に入れられると思ってなかったけどね」
メイソンの隣からドロテオの声がした。
「ドロ……。あんた大丈夫なの? 一家の大黒柱でしょ?」
「ほんとだよ、せっかく俺が今まで騒動に関わらないようにしていたのに……」
「でもあの人たちに俺を紹介したのはメイス本人じゃないか。それに友達を見殺しにするなんてことをしたら、両親は絶対に怒るよ。日向さんちのラーメン美味しかったな……。姿見かけなかったけど大丈夫なのか?」
ひゅっ、と思わずズーハンは息を呑んだ。なんとか事実を述べようとしたが、声がなかなか出なかった。
「あの人は……、あの人は……亡くなったの……」
「え……?」
「な、なんでっ___」
「神の僕の仕業よ」
二人はそれを聞いて、目を見開いた。
「あのテロ組織が……?」
そこで突然3人は誰かが降りてくる音を聞き、彼らは茶髪の眼鏡をかけた人物が兵士に捕えられ、歩いてくるのを見た。
「ブラウンさん……?」
「やあ」
同じく格子の部屋に閉じ込められながら、セシルは笑顔で返事した。
「なんでこんなところに……」
「責任を取ったのさ」
彼はどかっと堅い木の板の上に、布団をかけただけのベッドに座りながら言った。
「君たち子供が逮捕されるなんて、私の良心が耐えられないからね。それにもともとこんな状態になってしまったのは、私がズーハンに余計なことを教えたからさ。安保隊員もペストになることをしゃべっていなければ、君はルイスを助けるために奔走することもなかった」
「で、でもそしたらブラウンさんが免職されてしまうし、もしかしたら刑務所も……」
「大丈夫だよ」
セシルは軽く笑った。
「私の父親だって『模範的な人』じゃないし、母親も変人だから笑うだけで済むよ。妹にはキレられるかもしれないけど」
「え、妹いたんですか?!」
「ああ、今年21になるよ。立派な大学生だね。あ、そういえばもし君たちが除隊されちゃったら親父のコーヒー店で働きなよ。親父怖いけどいい人だよ」
「ありがとうございます……」
ズーハンはホッとして、ベッドの上に横たわった。そこで足音がまた階段から聞こえた。振り向くとシャリーが一人で立っていた。
「あら、シャリー。何も刑なかったの? よかった」
ズーハンは笑みを浮かべたが、相手はどこか悲しそうだった。
「ペストを庇ったのは……きっと……何か理由があるはずよね」
彼女は言った。ズーハンは、彼女が何か理解しようとしている態度に驚いた。
「……んまあ、そうだよ。本部にいるから今は何も話せなけど、いつかきっと教えるよ。……ごめんね、今まで隠してて」
少女は俯いて謝った。シャリーは自分が信用されていないと感じて、傷ついたに違いない。
シャリーは肩をすくめて、口角を少しだけあげた。「大丈夫よ」と彼女は優しい声で言った。
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