第135話 飛び交う銃弾

 ハヨンとアーベルは安保隊から距離を取ったあと、建物の陰で少し休んだ。


「大丈夫かい、ハヨン? 怪我はない?」


「はい、大丈夫です。……今まで安保側に気づかれたことはあるんですか?」


 ハヨンはアーベルに小さな声で尋ねた。


「いや、フロスト社とマダーは20年程度連携してフェアリー団を作ってきたが、こんなことは一度もなかったはずだ」


「じゃあなんで……。もしかしてやっぱりあの訓練兵の子なんじゃないんですか?」


「いや、紫涵ズーハンはそんなことはしない。それにもし万が一、我々ペストをかばっていたと他に知られてしまったら、彼女はおそらく除隊、もしくは最悪逮捕されてしまうだろう」


 ハヨンはアーベルの答えを聞いて、黙り込んでしまった。


「僕は行ってくるから、君はここにいなさい」


 そのまま青年は外へ飛び出した。さっそく数人の安保隊が追いかけてくる。弾が飛んできたが、アーベルはうまくかわした。


「逃すな!」


 隊員たちは変わらずアーベルを追う。そこで青年は少し狭い路地に入り、エアーバイクたちがそこに入った瞬間、植物を使って素早く彼らを拘束した。その速いスピードには兵士たちも反応できなかった。


「よし」


 アーベルは頷いたが、向こうからまた隊員らが来たのを見た。


「多いな……」


 アーベルは一人ずつ彼らを捕獲することにし、首をぐるりとまわした。






 空中ではクリシュナとリーナが率先して安保隊の注意を引こうとして、あちこちを飛びまわっていた。

 ヴィリアミはアリシアを抱きかかえたまま裏路地に逃げ込み、アリシアに羽を伸ばす時間を与えた。


「やっとまいた……体は大丈夫か?」


「う、うん。ありがとう、連れてきてくれて」


 赤毛の少女は少し顔を赤らめながら言った。こんなときになにを呑気に考えているんだという自覚はあったので、その後切り替えるために自分で頬をつねった。


「ならよかった。しかしいったいどこのどいつだ、情報を売ったのは」


「私は全然思いつかないな……」


「まあ、とりあえず今大事なのは生き残ることだ。まず俺が飛んで行って安保隊たちを挑発するから、その後に行ってくれ」


「え……でも___」


「大丈夫だ。俺は死なない。約束する」


 ヴィルは言って裏路地を後にした。飛んでいったときに、さっそく一班のエリートたちに追われていることに気がつく。


「ちっ」


 だが、彼と兵士たちの間に、速いスピードでエアーバイクたちが入ってくる。メイソンとドロテオだった。


「お前ら?! こんなところでなにをしている?!」


 困惑した少年は思わず叫んだ。


「助けに来たんだよ!」


「早く行って! ここはなんとか抑えるから!」


 そう言った二人に、ヴィリアミは驚いたがすぐにお礼を言った。


「ありがとう……」





 翔は道路ぎりぎりを飛んでいた。路地には普通に人が歩いていて、翔が飛ぶたびに悲鳴をあげていたが、人間を巻き込む危険性を考慮して、安保隊はあまり彼を狙うことができなかった。____一班きってのサイコパス、ジャック・ギャレットを除いては。


 一般人をも気にせず、いきなり撃ってきたのを見た翔は、その場で一瞬飛ぶのを止めた。その瞬間銃声が響き、翔の羽と肩が貫かれる。


「っ____!」


 地面に落ちた翔は肩を抑えたまま、敵を睨みつけた。


「やあっと止まってくれたよー」


 撃ってきた相手がヘルメットを外す。緑色の目、黒髪、左目のすぐしたの泣きぼくろが特徴の、不気味な笑みを浮かべた青年が、エアーバイクの上でまっすぐ目の前の少年に向かって銃口を向ける。周りの人々は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。一人の小さな男の子を除いてだ。彼は翔のすぐそばで動けなくなってしまった。


 翔は相手を攻撃しようとするが、銃の攻撃が子供に当たる可能性があることを見抜き、ジャックが撃った瞬間、慌てて子供を奥に突き飛ばした。翔の別の肩がやられて、血がぽたぽたと落ちた。

 子供は自分が突き飛ばされたことにびっくりしていたようだが、翔がすぐに「早くいけ!!」と怒鳴った時にハッとして、急いで立ち上がって逃げていった。


「おー、ペストなのにずいぶんとの子供に優しいねー」


 笑ったまま挑発してきたジャックに、翔は顔をしかめる。


「お前こそなんだ。市民の命を守る安保隊のくせに。他の人間を巻き込むとは思わないのか?!」


「そんなことはどうでもいい。目的は君たちペストを殺すこと。君たちは存在しちゃあいけないんだ。あ、再生してきたね」


 バンッ。隙を与えず、彼は再生しかけていた翔の右肩をふたたび撃った。翔は痛みに呻いた。


「動かないでね、脳天を狙いたいんだ。すぐに片づけられるように」


 ジャックはニヤニヤしながら、銃口を定めた。


(どうする……あいつは光で目が見えなくなっても撃ってくるような奴だ。……やっぱり殺すしかないのか?)


 翔の脳内はパニックに陥っていた。

 氷の壁を作るか? いや、二発目をやってくるのかもしれない。殺すのか? 人間を? でもそれは掟で____


 ジャックが引き金に指を置いたとき、突然、空から明るい火の球が落ちてきた。


「おっと」


 兵士が慌てて、エアーバイクから飛び降りると、その瞬間怜が翔の隣に降り立つ。


「兄に触るな!」


 目の前の小さな少年から垣間見える異常なほど強い怒りに、ジャックの心が震える。


(これは楽しい戦いになりそうだ)


 だがまた銃を構えようとしたとき、もう一つの邪魔が入った。エアーバイクに乗った紫涵ズーハンが、ペストの二人をかばうようにしてジャックの目の前に立ったのだ。


「訓練兵……?」


「攻撃はさせない! 今すぐ銃を下ろして!!」


 紫涵ズーハンは叫んだ。




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