第134話 人間対ペスト
人間を殺してはいけない。それがフェアリー団の掟だった。だが、安保隊に襲われた今、怜はそれに従うのを難しく感じた。
クリシュナの闇を散らせば、本来はすぐに無敵になるのだが、飛べなくなるというデメリットがある。それにこの大都市ニューヨーク市民の視界を一時奪ってしまったら、どんな事故が起こるかはわからない。
ならば、勝負すべきは光でだ。
「炎・煌煌!」
怜は一瞬空中で止まり、体から目がつぶれんばかりの光を放った。彼を狙っていた周りの安保隊は目を開けられなくなり、呻く。だが、そんな状況でも撃つことを躊躇しない兵士がいた。
銃声が鳴り響き、それが怜の黒と赤の綺麗な色をした羽に穴をあけた。
「え?」
落ちていく彼が見たのは、あのスナイパーの女性兵士。
「またあいつかよ!」
だがどうしようもない。怜は植物で、近くの建物に絡みつこうかと思った。そのとき、一つの影が彼の落下方向にいることに気がついた。
「怜ッ!」
それは訓練兵の少女だった。
「
落ちてきた彼の手を、彼女は握った。
「
「なんとかするためだよ、乗って!」
怜はエアーバイクによじ登った。この乗り物は二人乗りまでなら、飛ぶことができる。周りの安保隊員たちは
「私は訓練兵。だから隊員たちは私を撃つことに躊躇すると思うの。それでなんとか、皆が逃げられたら……」
「でもお前の立場が……」
「そんなこと、気にしなくていいよ。昔約束したでしょ? 何かあったときは皆を守るって!」
少女はアクセルを踏んだ。
キャサリンは一度、高いビルの屋上に降り立つ。
本当にひどい状況だ。一体なんでこんなことになったのか。誰かが情報を売ったのだろうか?
(まあ、それが誰であろうとも、そいつの息の根を止める覚悟はできている。仲間をこれ以上失ってたまるか!)
日向の死はキャサリンを大きく変えてしまった。もうあの明るいナイーヴな彼女はいないのだ。
そのとき、後ろからエアーバイクのエンジン音がした。振り向くと、安保隊員が一人だけキャサリンに近づいてくる。無謀なことをするその人を、キャサリンは怪訝に思った。
安保隊員はそのまま屋上に降り立ち、今は黒髪になってしまった少女に近づいた。話せる程度の距離まで来たとき、彼は止まる。
「……母親に見れば見るほどそっくりだ」
「は?」
彼の第一声に、キャサリンは困惑した。
「キャサリン・ウィルソン、で間違いないな?」
キャサリンは答えなかったが、男は無言を肯定と解釈した。彼がヘルメットを外すと、茶色の髪をした中年の顔がでてきた。少女はそこで彼が、シャーロットを救うときに彼女に襲いかかり、素顔を見られた兵士であることに気がつく。
「私は君の母親、エリザベス・ウィルソンと知り合いだったものだ。ヘンリー・ロイドという」
「私の……母親?」
突然のことに、少女は戸惑った。確かに目の前の彼はイギリスアクセントで話しているが、信用してもいいのだろうか。
キャサリンは何をすればいいかわからず、その場で固まってしまった。
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