第133話 約束を果たすとき

 部屋に入った兵士たちは真っ暗な闇を見た瞬間、あたり構わず撃ち始めた。班員たちの数人は胴体に少し怪我を負うが、すぐに窓から出たおかげで、特に命に別状はなく済んだ。アリシアを抱えて飛び出したのは、彼女の近くにいたヴィルであった。


 闇の力を覚醒したばかりのキャサリンは、自分が闇の中でもものが見えることに気がついた。


(それにしてもペストに仲間を殺されたばかりなのに、今度は人間が命を狙ってくるなんて。本当に腹が立つ)


 空に出た少女は思った。九人のペストたちはバラバラに散らばり、それぞれを安保隊たちが追いかけ始めた。





 安保隊本部では十二号館のガレージに向かって走る影が数人。紫涵ズーハンは今までこんなに必死になったことないくらい、急いで走った。


「ズー、待って! どういうことなの?!」


「班長!」


 同じ班員三人はまだしきりに追いかけてくる。倉庫についた彼女は、止めようとしてきた安保隊員に襲われた。


「邪魔ッ!」


 だが、彼女は得意の体術で、自分より体の大きい大人を放り投げる。


「ズー! 何をしてるの!」


 エアーバイクにたどり着き、やっとそれを起動させたところでシャリーたちは彼女に追いついた。 


「ごめん、時間がないの。私の大切な仲間が襲われた。今度は私がなんとかしなきゃいけない番なのよ! そう日向さんと約束したから!」


『もし、安保隊が日向さんたちを殺そうとしたら絶対に私が守りますからね』

 今は亡き日向にそう話したのを少女は思い出し、唇を噛み締めた。


「日向さん? どういうことだ? あの人たちが安保隊に襲われたってこと?」


 彼女を知っていたドロテオは困惑して尋ねる。メイソンはさらに声を小さくして、紫涵ズーハンに言う。


「ペストだからか? でもあの人たちは政府に許可された特別なペストって____」


「ごめん、メイス。私、嘘をついた。あの人たちは政府に許可されたペストじゃない」


「えっ」


 赤毛の少年は思わず息を呑んだ。


「どういうこと? ズー、あなたペストと仲良くしてたの?」


 紫涵ズーハンは深いため息をついて、シャリーの青い目を見た。おそらく自分は嫌われてしまうだろう。


「うん、そうだよ」


 シャリーは激しいショックを受けた。


「なんで……なんでよ!! あなた家族をペストに殺されたんじゃないの?! どうして____」


「あんたを助けてくれたのはあの人たちなんだよ!!!」


 紫涵ズーハンは叫んだ。シャーロットは彼女の返答に驚き、なにも言えなくなった。


「その借りを今返すのよ!! 私ひとりじゃなにもできないかもしれないけど、それでもいかなきゃいけない! 離れて!」


 少女はヘルメットを被り、エアーバイクのアクセルを踏んだ。訓練で操作したことは何回もある。大丈夫だ。

 紫涵ズーハンはきっと前を見つめると、青空に向かって飛び出していった。


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