すべての崩壊

第131話 激変

「いい加減にしましょうよ、班長!!」


 安保隊本部、場所は会議室。メンバーは安全保障隊最強班である一班。

 上の発言をして、机をたたいたのは紫色の髪をした人物であった。


「あいつら何度も出没してきてるんですよ?! つい先日も二日かけて連続ですよ!  絶対になにか思惑があるに決まっているんです!」


「ケイリー、落ち着いて」


 目を横にやりながら、彼女を諫めようとしたのは、最強のスナイパー上谷はるの。他には不気味な笑みを浮かべた黒髪の男、明るい表情をしたヒスパニック系の青年、大柄な背の高い黒人男性、そして少し長い髪を丁寧に梳いた性別がいまいちよくわからない兵士が座っていた。


「クイーン、気持ちはわかるが我々にはなにもできないのだ。有力な手掛かりがないのだから」


 そう言ったのは安保隊一班隊長、リチャード・ハンター。胡桃色の髪と目をした彼は、妻とかわいらしい娘を二人持った真面目な人物である。


「『炎の悪魔デビル・オブ・ザ・ファイア』をはじめとした一行を捕まえたいのは、私も同じ気持ちだ。だが何度も我々本部にやってきているのにも関わらず、どこに潜んでいるのか、何者なのかという情報は一切見つからない。なにか我々の思っているよりも大きな組織が、あれをかくまっているのに違いない……。第三者がなにか情報を伝えてくれない限り、我々は行動することさえできん」


「クソッ……」


 紫髪の人物、ケイリー・クイーンは悔しさで拳を握りしめた。だがそこで突然、彼らは安全保障隊隊長から呼び出された。

 隊長は初老の人物で、名をオーウェン・アーチャーという。彼が安保隊最高峰の地位を持つ人物であった。前線に出ることはないが、隊全体の意向を決める、国防長官からの指示を受け取るのが彼の仕事だった。


「君たちが長らく追っていたペストの組織の情報が手に入った」


 オーウェンは班長に呼びかけた。一班の間にどよめきが走る。


「誰……からですか?」


「わからない、相手は名を名乗らなかった。だが、彼は敵の特徴をすべて話してくれた。メンバーは9人らしい」


「信用するべきなのですか?」


「さあ、だが近頃証拠を送ってくると言っていた。そのときを待とう。確定したときには、ぜひ君たちに始末してもらいたい」


 次の日、安保隊本部に小包が届けられた。中に入っていたのはUSB。一号館の情報担当の人たちが確認すると、内容はビデオだった。音声はなかったが、家で行われているパーティーで若い10代の若者たちがちょっとだけ能力を使用しているものだった。数十秒という短いものだったが、変化する髪色や手から生まれる小さな雪の結晶や風、花は証拠として十分だった。






 三班たちはしばらく目立った行動は控えて、隠れ家でじっとしていた。「神の僕」対策であった。アーベルは社長のもとへ行き、地域を移動すべきか話し合うことが多かった。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 日向の葬式から二日後、移動先は決められた。その日帰ってきたアーベルは、そのことを三班に話した。


「やっと決めてきた。シカゴに移動しよう。そこなら『神の僕』が追ってくることもないだろう。今夜にでもここを発とう。いつあいつらがやってくるかわからないからな」


「神の僕」の目的が自分たちという事は、フロスト社のマンションに住んでいる者たちは自分たちのせいで傷つく可能性があるということだ。つまり、ここにはもういることができない。慣れ親しんだこの家を捨てるのは心苦しかったが、仕方がないことであった。


 三班たちは荷造りを始めた。みんなは服やタブレットなど、自分にとって大切なものを鞄に入れた。怜は日向や明、自分の姉の写った数少ない写真を持っていくことにした。キャサリンは真莉の日記を自分の服のポケットに入れた。


 午後三時を時計がちょうど指したとき、突然ノックが隠れ家内に響いた。全員が動きを一斉に止めた。


「安全保障隊だ! ドアを開けろ!!」


 扉の外にいる人物が大声で言った。








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