第123話 しのぎを削る

 実月フリュクティドールが懐から取り出したのは二本の短剣。攻撃することを察した日向は止めようと彼女に突進しようとするが、相手は一瞬で移動し、風の能力で短剣をくるくると回して吹き飛ばした。


 携帯を走りながら操作しようとしたキャサリンだったが、何かが飛んでくる音がし、慌てて避けた。その拍子に携帯を落としてしまう。二つの短剣は深く壁に刺さった。すぐに自分のスマホを拾おうとした彼女のすぐ後ろから声が聞こえる。


「なるほど、そなたも風の能力を持っているのか。そうでなければ私の攻撃から逃れることはできないからな」


 キャサリンは何が起こったのか理解できなかった。敵はさっきまで向こうにいたはずだ。この一秒でここまで来たというのか。


「でも残念。そなたは未熟だな。動きが遅い」


 そのまま実月フリュクティドールは今度は長い剣を出した。キャサリンは逃れようとするが、間に合わなかった。グロテスクな音を立てて、少女の足が切断される。血が辺りにほとばしった。


「痛ったあああああああああああああ!!!!!!」


 少女は地面に倒れこみ、悲鳴を上げた。


「キャサリン!!!」


 日向は悲痛な声で叫んで、すぐに駆け寄ろうとする。彼女が連絡する暇などなかった。


「くっ……」


 少女はなんとか携帯に手を伸ばそうとするが、それは実月フリュクティドールによって無惨に割られた。


「そ、そんな……」


 相手は希望が打ち砕かれたキャサリンの表情を前に、嘲笑の音を立てた。


「このッ……!」


 キャサリンは残された手で、技を出そうとする。


「水風・雪のSnow___」


 だが実月フリュクティドールはせせら笑い、彼女の腕に火を吹きかけた。


「あ、ああ、熱い!!!」


 燃やされた腕は再生することはできない。痛みに呻いて、少女はどうにか火を消そうとするがうまくいかない。


「ははは、これは罰だよ。我が神の計画の邪魔をしてはならないのだ。でないとこうなる。いいか?」


 そう語る敵を、キャサリンは睨みつけた。


「彼女から離れてッ!!」


 突然バチバチと音の鳴る火の玉が投げられた。敵は一瞬驚いて、少し後ろに飛ぶ。その隙を使って、日向がキャサリンのそばに駆け寄り、火を消した。


「哀れだね。弱い者が誰かを助けようともがく。無駄なのに」


「うるさい。これ以上彼女を傷つけさせないから!」


 日向は短剣を取り出した。火という同じ能力を持っている彼女は、物理攻撃でしか勝負するしかない。だが相手はそれに有利な風の能力を持っている。結果がどうなるかは日向にはわかっていた。

 それでも、彼女は戦わなければならないと感じていた。キャサリンを捨てることなど、彼女にはできなかった。


 実月フリュクティドールはまたもやマスクの裏でにたりと笑った。弱い者が強い者相手に踊らされる。この展開は彼女の好きなものだった。


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