第118話 昔を覗く

 学校が終わりぞろぞろとみんなが帰ってきたとき、ハヨンは大人しくソファの上に座っていた。クリシュナがまず第一に、彼女に話しかける。


「もしかしてなんだけど、機械とかプログラミングに興味あったりする?」


 突然尋ねられた彼女は疑わし気に、少年を見つめた。


「いや、安保隊本部侵入するときに、確かガレージのセキュリティにハッキングしたって聞いたから、得意だったりするのかなーって」


「まあ……好きなほうだけど……」


「そうか、よかった。ちょっと見てもらいたいものがあって、僕が作ったプログラムなんだけど……」


 専門用語が混じった会話をしながら、そのまま二人はパソコン部屋に消えていった。キャサリンはそんな二人を見て微笑み、彼女自身は二階へ行った。

 彼女は自分の鞄から見つけたあの日記を取り出すと、2段ベッドの下の方___つまり彼女がいつも寝ている場所に寝っ転がった。


(誰のかがわかり次第読むのをやめよう)


 キャサリンは心の中でそう約束し、ページをめくった。

 日記は2019年のだった。持ち主はかなり雑な人物なのか、空白の日が多く、書かれてあっても一、二行のみばかりだった。勉強熱心なのか勉強時間や何をやったのかが書いてあることが多く、数学への恨みがつらつらと書き込まれていることもあった。そのため日常的なことが記されている日を見つけるのに、少し時間を有した。


「翔がゲームでやっとラスボスを倒したらしい」


 2月ごろへページが移った時、やっとキャサリンの知っている人物が登場した。


「エレナ、オクサーナと勉強した。数学やっぱわからん」


 日記の主はオクサーナの良き友達だったようだ。


「アーベル、ヴィルと訓練。骨を4回折られた」


「え……」


 キャサリンはその過酷さに思わず声を出した。骨など一瞬で治る大地能力者だからこその訓練だろう。……まあ、アーベルなら大地のペストじゃなくても骨を折ってきそうだが。


「久々に明と出かける。なぜか惚気を聞かされる」


(そうか、この時代は明がまだ生きていたころなんだ……)


「怜がまた学校で喧嘩してきた」


「リーナとちょっと歌う」


「ミラベッラに着せ替え人形にされる」


 日常のくだらないことがポツポツと書かれてあったが、とある日にたどり着いた時、キャサリンは日記の主の心情に何か変化があったということがわかった。

 その日には何も書かれていなかった。いや、何かを書こうとしたみたいなのだが、その上にまたぐちゃぐちゃと黒で塗りつぶされてあったのだ。そしてその日を最後に、もう何も書かれなかった。ページをめくっても迎えるのはただの白紙。


 最後のページにたどり着いた時、何かがポロッと日記から落ちてきた。

 それは写真だった。二人の少年と一人の少女。

 少年のうち一人は、少女と顔立ちが似ていた。どちらもアーモンド型の大きな目をしていた。怜だった。少女は肩まで届く茶色の髪をしている。残りの少年は優しい垂れ目をしていた。キャサリンはそれが翔だとすぐにわかった。髪の毛は今のような長いものではなく、普通の少年のようにさっぱりと切ってある。


(じゃあこの日記はおそらく……)


 真莉のものだ。キャサリンが彼女の顔をこうはっきり見るのは、何気に初めてのことであった。気が強そうな表情をしていた。


(これは翔に渡したほうが良いかな……)


 キャサリンはどうするか迷ったが、後でそれを決めることにし、とりあえず彼女はそれをそっと自分の鞄に戻しておいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る