第119話 変化

「うっ……」


 第四班班員、セシル=ブラウンは病院の個室で目を覚ました。ひどく疲れている気分だ。体は痛いが、後は特に大丈夫そうだ。


 そばに置いてあった眼鏡を掛けて、彼はあたりを見回す。

 そこで果物の入った籠を見つけた。中には「Get Well Soon!(早く元気になってね!)」と書かれたカードが入っていた。青年は送ってきた主があの小さなアジア人少女であることを予想し、小さく微笑んだ。




 紫涵ズーハンは三班の隠れ家にいた。彼女は今、ハヨンと向き合って座っていた。きまずい沈黙が流れていた。

 これはキャサリンが考えた企画だった。安保隊を憎むペスト、ペストを殺す安保隊、お互いの話を聞いてみるというものだった。だが、実際そんなすぐにうまく話せることはない。


「何か……質問とか……ある?」


 紫涵ズーハンは恐る恐る尋ねた。ハヨンはくいっと眼鏡を上げて、紫涵ズーハンの目を直接見ることはないまま、口を開いた。


「どうやって……お知り合いに?」


 紫涵ズーハンはそれが自分と三班がどう知り合ったのかという意味だということを、すぐに理解した。


「結構長い話なのよ」


 彼女は笑顔のまま、他のメンバーの力を借りてシャリーの事件を含めて全てを話し終えた。ハヨンはいろいろ驚いたようだった。


「よく……もう一度キャサリンを見つけてまで頼ろうという気になったね……」


「まあね」


 紫涵ズーハンは苦笑いを浮かべた。


「でももう一度皆に会いたいっていう気があったから……」


「え? なんで?」


 追及されて少女は言葉に詰まった。


「嘘つけ、絶対じゃねえよ。一人だろ、一人」


 ヴィルは呆れたように肩をすくめて言った。周りはその「一人」を察して、その本人のほうを向くが、怜は全然わかっていないようで困惑していただけだった。

 一方紫涵ズーハンは顔を恥ずかしさで赤に染める。ハヨンは彼女と周りの目線や表情を見比べて、なにが起こっているのかを察して思わず「え?!」と声を上げた。


「そうそう、そういうことなのよ」


 日向はにこやかに笑った。


「だから言ったでしょ、愛は素晴らしいって。愛こそがなにかを変える力を秘めているのよ。まあ、いずれにしろ、彼女はペストを傷つける意志はもうもっていない。彼女は私たちの友達だってことは信じてもらえるかしら?」


「……そう、ですね」


 ハヨンは呟いた。


「そんな安保隊もいるなんて……全然知りませんでした……」


「人は案外変われるのよ。だからあなたもこの班で変わっていかない? あなたの居場所はここにある。私たちがあなたの家族になるよ」


 そう言って、手を差し伸べた日向を、ハヨンは見上げた。一瞬彼女の瞳が潤いで輝いた気がした。


「……はい!」


 日向の手を、彼女は握った。

 キム・ハヨン。韓国出身。年齢は15歳。能力は火。

 こうして、彼女は三班の一員となった。

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