第116話 歩み寄る

 次の日、ペストたちは何事もなかったように学校へ行った。安保隊本部がまたペストにやられたことは噂になっていた。


「でも、あんな女の子でも簡単に入れてしまうって、安保隊本部ってなんだかセキュリティが弱くない?」


 お昼ご飯中、ヴィル、クリシュナ、翔、怜、リーナといつも通り日向とアリシアが作ってくれたお弁当を食べていた時、キャサリンがそう発言した。

 ちなみに日向のお弁当は極めて日本風で、ごはん(もしくはパン)、から揚げ、野菜などが詰まっていた。彼女曰く、アメリカのお弁当はジャンキーすぎて作る気になれないとのことだった。「絶対に健康に悪い」と彼女はいつも言っていた。


「安保隊本部が弱いっていうよりは、ペストが強すぎるんだよ」


 クリシュナはから揚げにフォークを突き刺しながら言った。


「だって火の能力者が電気の技が使えるなんで想像できるかい? 相当難しそうだよね、あの術」


「少なくとも俺はそんなの使えたことないよ」


 怜は不貞腐れたようにつぶやく。彼はいつも自身が最強の火の能力者であると自負していたので、自分の知らない技があるのはなんだか気に食わなかった。


「トアンさんが自称風月ヴァントーズも使えてたっていうから、コツさえつかめれば案外すぐに学べるんじゃない?」


「あの子に聞いたらなんか教えてくれるかもよ」


 リーナが落ち込んだ怜を慰めるようにして言った。






 ハヨンは客室用のベッドで目覚めた。窓からは光が差し込んでいる。しばらく彼女は動かなかった。


(こんなに穏やかに寝られたのほんと久しぶりかも……)


 それから少女はベッドに座り、わきにあった自分の眼鏡をかけて、あたりを見回した。

 逃げよう、という計画がなかったわけではなかったが、ハヨンは今それを実行する気力がなかった。それより無性にご飯が食べたかった。

 とりあえず部屋から出ると、そこは二階だということがわかった。


(なるほど、メゾネット型か……)


 家は静かだったので、ほとんどは外へ出て行ってしまっているな、ということが推測できた。階段を降りると、誰かの歩く音がした。警戒して振り向くと、洗濯物がつまった籠を持った赤毛の少女に会った。


「あら、おはよう!」


 彼女は青い目をキラキラと輝かせながらにこやかに笑った。


「初めましてかな? 私はアリシア・リード。オーストラリア出身だよ。お腹空いたよね、きっと。おいで!」


 彼女は籠を床に置くと、ハヨンを食卓まで案内した。黒髪の少女が椅子のうちの一つにおずおずと座ると、アリシアはすぐに台所へ行った。料理はもう作ってあったため、ハヨンの朝食はすぐに完成した。

 内容はご飯、みそ汁、ベーコンエッグ。ハヨンはしばらくそれを眺めていたが、アリシアが洗濯の作業に戻ったときに、一口食べてみた。


(ああ、美味しい……)


 ハヨンは思わず目を閉じた。


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