第114話 対話

「復讐するつもりなの?」


 泣き出した少女に、クリシュナは静かに尋ねた。彼女の涙と同時に真っ黒だった空から雨が降ってきた。


「当たり前だ! ぼくの両親はあいつらに殺されたんだよ! ぼくがペストになったから! ぼくをかばったから殺されたんだ!! 許すかそんなこと! 絶対に全員殺してやる!!」


 彼女は叫んだが、黒髪の少年はどこか憐れんだような目をしただけだった。


「無駄だね。君は復讐を完遂することはできない」


「は?!」


「安保隊は人数が多すぎる。君がたとえいくら頑張ろうとも、いずれ殺される。ペストが人間に唯一勝てない理由はそれだ。僕たちの数が少なすぎる」


 クリシュナが告げたことに対し、少女はイライラして首を振った。


「それでもぼくはそれをやり遂げなきゃいけない! 少しでも殺すことできっとなにかが____」


「起こらない」


 少年は無慈悲だった。


「隊員を殺すことで生まれるのは、その家族の悲しみ、そしてペストたちに対するますますの憎悪だ。僕たちが人類をまとめて全員抹殺できるならやる価値があるけれど、80億人もいる現在の人口を殺すことなんて誰にもできやしない。それよりも今ある大切なものに集中したほうがいいんじゃないの?」


「ぼくに残っている大切なものなんてもう……!」


「あるさ」


 少女の苦痛な叫びを、クリシュナは止めた。


「君の命だ。君が死んでしまったら、なにももうできない」


「命なんていらない! ぼくに生きる意味なんてない!!」


「ダメよ、そんなこと言っちゃ!」


 キャサリンが口をはさんだ。彼女の淡い水色の目はきらきらと輝いた。


「あなたが死んだら、両親があなたのために犠牲にした命が無駄になるよ! 彼らのために生きて! そんな無駄なことで命を散らさないで!」


 少女はキャサリンをしばし見つめた。沈黙が流れた。彼女は葛藤していた。表情でそれが見てとれた。だが結局、怒りが彼女を支配した。


「うるさい。お前らはわかんないんだ! ぼくのような人生を送っていないから!! 知らないんだよ!!!」


 彼女は手を上下に平行にさせ、自分の力をためる。金色の光が集まってきて、バチバチと嫌な音を立てた。


「キャサリン、離れていな。ここは僕がなんとかする」


 キャサリンは言われた通りに後ろに下がった。

 少女の手の中の光はやがて電光の龍に姿を変えた。


「裏切り者はぼくが潰す_____火・雷の龍번개 용!!!」


 クリシュナは冷静に目線で狙いを定めてから、指をパチンと鳴らした。


「闇_____ブラックホールकृष्ण विवर




 


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