第112話 爆発

 少女は手首を拘束していた木の枝をなんとか焼き切ると、荒い息を吐きながら走り続けた。


(自分の目的はこれだけじゃない……どんな妨害が出てもぼくはやり切る!)


 次の扉を開けると、銃を持った安保隊たちがたくさん現れた。


「撃てえ!!」


 掛け声とともに大量の銃弾が発射される。少女は一瞬慌てたが、すぐに冷静さを取り戻して、扉の少し前にあった部屋に飛び込んだ。


「探せ!」


 命令の声が聞こえ、敵側が捜索を始めた。ここにいれば確実に見つかる。攻撃の準備をしていると、突然数人の走ってくる足音が聞こえた。そして突然辺りが真っ暗になる。闇の能力だ。隊士たちの焦った声が、あちこちから聞こえる。


「あ、こっちだ!」


 部屋に三人の人物が入ってきた。そのうち金髪の長い髪をした少年が、少女に近づいた。


「来るな!」


 彼女は電気の攻撃をしかけるが、少年の髪が黒く変色しただけで何も起こらなかった。


(ちっ、複数能力者か……)


 少女はふたたび逃亡しようとしたが、そこでクリシュナが闇で光を一切通さないようした。これでもうなにも見ることはできない。能力もなにも出せないまま、彼女は捕まってしまった。


「よし、もう逃さないよ。行こう、話がある」


「絶対に嫌だ! 裏切り者め!」


 少女は暴れたが、結局クリシュナの手から抜け出すことはできなかった。


「あのー」


 出ていこうとした彼を、怜が呼び止める。


「俺たちなにも見えないんだけどどうすればいい?」


「あー、ごめん」


 クリシュナはすぐに闇を解いた。安保隊がこちらに向かってくる音がした。


「さっさとずらかるぞ!」


 三人は雲に覆われた薄暗い空へと飛び立った。クリシュナは闇を散らし、隊員たちが襲ってこれないようにする。だがそこで銃声が轟き、闇の少年の羽が貫かれる。


「クリシュナッ!」


 少年と少女が落ちたのを確認していた、とあるビルの屋上の陰で待機中だった彼の仲間は思わず叫び声をあげた。風能力持ちのキャサリンはすぐに飛び上がり、二人のほうへ向かった。


「なんだ?!」


 ここまで撃ってこれたことに、翔はひどく驚いた。後ろを振り返ると、安保隊本部の屋上に女性隊員の姿が見える。


「あれ、第一班のスナイパーじゃね?! 紫涵ズーハンが前言ってた……」


「なるほど……。次の弾が来る前にさっさと行くぞ」


「おう!」


 怜と翔は、すぐにクリシュナと敵のペストが落ちたところへ飛んだ。


 クリシュナたちがビルの屋上にぶつかるか、ぶつからないかのぎりぎりのところで、キャサリンは二人を捕まえた。そのまま三人は屋上の上を転がる。

 少女が翼を開けなかったのは、おそらく服の形状のせいだろう。


「大丈夫?!」


 クリシュナはすぐに立ち上がり、キャサリンと少女に声をかける。そのとき自分の腕に激痛が走ったのを感じた。おそらく着地したときに折れてしまったのだろう。

 だがそれでも彼が雷のペストのうめき声を聞くと、すぐに駆け寄った。


「大丈夫? 意識あるかい?」


「……うるさい!!」


 少女は爆発した。それと同時に彼女の体からバチバチと電気が出た。彼女は自分より身長の高いクリシュナの胸倉をつかんだ。そのときキャサリンは彼女の顔を見、少女がロサンゼルスにいた電気の能力を使う子だということに気がついた。


「なんで……あんたらは……安保隊なんかに協力するんだ!! あいつらは敵だ! ぼくたちの仲間を殺した、クソ野郎だぞ!!」


 クリシュナはそこで少女の目に涙が溜まっていることに気がついた。それはあふれて、彼の服にぼたぼたと落ちた。

 彼は思い出した。自分にもこの燃え上がるような復讐心がかつてあったことを。彼は若くて愚かだった。復讐を追い求めた果てには、恐ろしい悲劇が待っていたのだ。






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