第111話 基地内戦闘

 トイレの中に人が入ってきた気配を感じ、紫涵ズーハンは思わずスマートフォンを落としてしまった。


『ズーちゃん? ズーちゃん?!』


 日向の声が響いて、敵は個室の扉を開けた。だが、そこに少女の姿はなかった。紫涵ズーハンは一瞬にして、個室の壁によじ登ったのである。彼女は天井近くで息を潜めた。

 相手が個室の中に入った瞬間、紫涵ズーハンは個室の外に降り立ち、全力で走り始めた。

 その途中、彼女は数人の走ってくる隊士と会った。


「大丈夫か?!」


 彼らは紫涵ズーハンを取り囲んだ。


「ええ、敵は向こうに……!あとブラウンさんが負傷して、エアーバイクの倉庫にいます!」


「わかった! 早く避難しろ!」


「了解!」


 紫涵ズーハンは隊員たちに従って、走り去った。

 そこで隊員たちは誰かが暗闇から歩いてくるのを見た。それは少女だった。短い黒髪をしていて、眼鏡を掛けていた。襲撃者が思っていたより幼かったので、一瞬撃つのを躊躇してしまった。


 少女はその隙を見逃さなかった。彼女はなにもしなかった。ただ安保隊たちの銃をじっと見つめただけだった。

 すると突然、彼らの銃が爆発し、隊員たちは負傷して倒れてしまった。

 少女はうっすらした笑いを浮かべ、とどめを刺そうとした。


 その瞬間だった。いきなり天井が崩れてきたかと思うと、黒いフードとマスクを被った少女が降ってきた。彼女はとび色の目を光らせて、それからぶつぶつと独り言を言った。


「ほら言ったじゃないの。物理が一番だって」


 ふと少女は目の前にいるペストを確認すると、戦闘態勢へ変えた。


「あなたに安保隊は殺させないわ!」


 彼女はハキハキと叫んだ。敵は彼女の羽から、目の前の少女がペストだということに気がつき、目を見開く。


「は……? なんで他のペストがここに?」


 すると今度は身長のかなり高い男が地面に降り立つ。


「ちょっとどいてくださいな」


「は?!」


 一切トーンを変えず、普通に少女を押しやったアーベルに、少女は声を荒げた。しかし青年はそのまま自分の手を短剣で切って、血液を横たわっていた隊士たちに降り注いだ。血は彼らの傷をすぐに癒す。

 ペストはそれに爆発した。


「馬鹿馬鹿しい。なんなんだお前らは! ペストのくせして安保隊に協力しやがって!」


「別に僕たちは協力しているわけじゃないよ。仲間を助けようとしているだけさ」


「仲間?!」


「あ」


 聴力のいいリーナは何かにいち早く気がつき、アーベルに伝える。


「来てるわ。それも結構」


「そうか。よし、行くぞ」


 アーベルはまず植物の魔法を使って、少女の腕を拘束、それから彼女の首根っこを掴んで持ち上げた。彼女よりずっと背の高い彼なら、それはたやすいことであった。


「な、なにやってんだ! 離せ!!」


「いやだね」


 そのまま飛ぼうとしたアーベルだったが、突然少女の瞳から電気がほとばしり、彼は負傷する。


「うっ!」


 その隙に彼女は逃げ出した。


「アーベル、大丈夫?!」


「逃した……すまない……」


「大丈夫よ! 私がすぐに……」


「いや、風は火の能力と相性が悪い。翔、怜とクリシュナをまず向かわせて。そのあと僕たちが行こう」


 アーベルはリーナに述べた。


「しかし目線のみで攻撃か……真莉以外にそれをできるペストがいるなんて知らなかった……」


 彼は小さく呟いた。




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