第107話 余韻

 重症を負ったトアンは、仲間に連れられすぐに病院に運ばれた。そこで銃弾を抜く作業をし、しばらく安静にしているように彼は言われた。

 同じく毒をくらったライアンも担当医に診察された。


「こりゃあダメだ、ライアン。一回腕切断しなきゃいけないな」


 医者は諦めて首を振りながら述べた。


「ええええ?!」


「えー、じゃないよ。今水の能力で血のめぐり操作して、毒がこれ以上回らないようにしているだろう。なら保っていられる今のうちにさっさと切っちゃおう」


「なんでそんなことしなきゃいけないんだよおおお!」


 ライアンは悲痛な声を出したが、担当医は鼻で笑った。


「別にどうせ15分で再生するだろう? 麻酔かけるし痛くないよ。まったくうらやましいよ、再生能力なんてあるなんて」


「ああ、いいだろう? 安保隊に追われる特典付きだ!」


 少年は皮肉ったが、その後は医者にきちんと従った。


 残ったペストの群衆たちは、自分たちのボスが倒されたことを知ると、散り散りになって逃げてしまった。

 二班たちは街に充満させていた闇を消すなど、片づけをちょっとしてから撤退した。

 ローザはそのちょっと後に傷ついた動物たちを癒したり、餌をあげたりするためにもう一度街に出ていった。


 キャサリンたちは戦いで疲れ果てていたので、ソファに座った者から次々と眠り込んでしまった。ミラベッラのみ、ただ椅子に座り窓から空を見た。ヘルメットはもう被っていなかった。他の班員たちはなにがあったのか彼女に尋ねたが、ミラベッラは答えなかった。


(もう、自由なのか……)


 青い空を見ながら、彼女はふと思った。今までは復讐のことしか考えていなかった。


(姉さん……満足してるかな……)


 仇は取られた。自分、ではなく、トアンの手によってではあるが。

 彼はやはり優しかった。優しすぎるくらいであった。


(だから私は____)


 ミラベッラはその次に続く言葉を呑み込んだ。トアンのことは嫌いではない。いや、むしろ幼いころから好感を持っていた。だが姉の事件のせいで、自分に好意を持った彼に不貞腐れていた。

「どうせ顔だけだろう」

 トアンがそんな男ではないことをわかっていたのに、この考えが頭を離れることはなかった。怖かった。自信がなかったのだ。


 だけれど、トアンはそんな自分を気遣い、優しくしてくれた。自分の命を懸けてまで、復讐をやってくれた。その必要はなかったのに……。


 ミラベッラはふと立ち上がった。彼女は服を着替えると、病院へ向かった。


 キスしたことで、もう彼の想いに応えていたのだが、やっぱりちゃんと言葉にしたい、とミラは思ったのであった。そして今までのことを彼女は謝りたかった。




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