第105話 激戦

 翔、キャサリン、セレドニオはひっきりなしに、建物から建物へと移動した。次々と爆発が起こり、三人はずっと火を消したり敵を倒したりしていた。


「なかなかあいつを倒せてないみたいだね……」


 キャサリンは心配そうに、トアンとミラがいるほうを向く。煙にまみれて、よく見えない。


「私たち行ったほうがいいんじゃないかな……?」


「キャサリン、トアンは俺たちが火を消すことを期待しているんだ。人を助けることに集中したほうがいい。……正直俺も心配だが」


 翔は眉を下げて呟いた。


「そんなこと言うなよ、翔。トアンは強いから大丈夫さ。ちゃんと勝つよ」


 セレドニオはにっと笑ったが、彼の心配を隠しきれてはいなかった。戦う音はこちらまで響いてくる。一体なにが起こっているのか、全員無事なのかどうか。三人にはわからなかった。




 風を伝って、青白い光が通る。雷だ。


「ミラッ!」


 トアンは慌てて、彼女をかばって電気を一身に受けた。ダメージはない。火の攻撃は火の能力を持つペストには効かないからだ。


「ぐっ……」


 ミラはなにもできない悔しさで、地面に手をついた。さっきからずっと戦っていたせいで、彼女のところどころに火傷の跡がついていてひどく痛む。自称風月ヴァントーズはにやりと笑う。


「愚かしいね。風は火と相性が悪いというのに。なぜそこまでわたくしに抵抗する? わたくしのところへ来れば、このような戦いももうしなくてすむ」


「黙れッ……」


 ミラは立ち上がろうとしたが、うまくいかない。しびれて動かないのだ。


「ミラ、やっぱり……」


 トアンは何か言おうとしたが、彼女はすぐに遮った。


「ダメ! 子供たちを巻き込むわけにはいかない……!」


 風月ヴァントーズは変わらず続ける。


「貴女のことはできるだけ殺したくないのだよ。せっかくをしているというのに」


 ミラにとってはその言葉は侮辱であった。敵はここまで来ても、いまだ自分の顔しか見ていないのだ。自分がやったことの自覚をしていない。自分が弱いせいで、あいつを目覚めさせることもできない。そもそも自分の力はマダーが消せるくらい弱かった。他の班の子たちとは違う。


(クソッ……なんでこんなことに……!)


 ミラベッラのハシバミ色の瞳から涙が出た。そのとき、トアンは立ち上がって、敵を見据えた。


「いい加減にしろ、クズ野郎」


 トアンは怒鳴った。


「お前はミラベッラを泣かした。絶対に許さない」


 トアンの髪から小さな炎が上がり、ちりちりと音を立てた。本気で怒っている証拠だ。


「だからといってどうするのだ? あなたには炎の能力しかない。そんなもんはわたくしには効かない。どうやって勝つつもりかい?」


 風月ヴァントーズは嘲笑した。だが、トアンは強気に笑っただけだった。


「勝つよ。好きな女のためならなんでもするさ。ミラベッラは渡さない。彼女はお前の人形じゃない」


 黒髪の青年はそう言いながら、短剣を取り出した。


「決闘と行こうじゃないか、風月ヴァントーズよ。好きな女のために戦う。かの偉大なるロシアの詩人、プーシキンだってやったことだ。まさか怖いとは言わないだろう?」


「トアンッ!」


 一対一の言葉を聞いたミラは、彼の服を引っ張った。自分のために戦うのをやめてほしかったからだ。

 だが、トアンはただ彼女に優しく笑いかけただけだった。


「いいだろう」


 風月ヴァントーズは応えた。彼のいつもの笑いで、感情を読み取ることができなかった。


「大丈夫だ、ミラ。絶対勝つから、巻き込まれないよう離れてくれ」


 ミラがなにもできないまま、泣きそうな顔で言うとおりにした後、トアンは一歩踏み出した。そして風月ヴァントーズも同じく。彼の身長はトアンのより高かった。二人は少しの間睨みあう。


 次の瞬間、二人はお互いに向かって突進した。

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