第103話 転換
「ライアン! このままじゃいつまでも持たないよ!」
襲ってくる敵に対し、氷の壁を作ったライアンだったが、それはもちろん早くも割れ始めている。
「……仕方がない。あんまりやりたくなかったけど、あの技を使うしかない」
ライアンは険しい表情で言った。
「ルーカス、すまない。少しの間だけ囮役を頼めるか。すぐ戻る」
ルーカスはにやりと笑った。
「任せとけ、相棒」
ライアンは頷き、空高く飛んでいった。
「あひゃひゃ、あんたの友達はあんたのこと見捨てたようね」
針をなげてくる女は残った少年を嘲笑したが、ルーカスは肩をすくめただけだった。
「そんなあほくさいこといってないで、早く来なよ。もしかして怖いのかい?」
ただの煽りに女はすぐ飛びついて、怒りで顔をしかめながら今度はナイフを投げてきた。ルーカスはぎりぎりのところで後ろへ飛んだ。
彼は上を向いて、仲間がどうしているか見た。どうやら、あともう少しのようだ。
「あんたはもう逃げられないわよ!」
「逃げようとはしてないさ」
ルーカスは強気に笑った。彼は両手で丸を作ると、輝く光が集まってくる。
「これでも食らいな!」
目がつぶれるほどのまばゆい光が、敵に向けて放てられた。
「うっ!」
女とその下っ端たちが動けなくなる。そこでライアンが雲を連れながら、敵の真上に行く。
「水風____
雨が落ちてきた。と思ったら、水は固く凍って鋭くなり、まるで本物の矢のように敵たちを襲った。風の能力も合わさって落ちていくそれらを、避けることなどできなかった。ルーカスの光の魔法から回復し、危機一髪で逃れた女以外は、全員それをもろに受けた。
「ぎゃあああああああああ!!!!!!!」
痛みによる断末魔が響いた。氷は無慈悲に相手の頭を切り裂いた。薄い服を着ていた彼らに守るすべはない。赤が周りに飛び散る。
ライアンはそれだけには収まらず、さらなる追い打ちをかける。高速移動をしながら、彼は次々とペストたちに氷の魔法をかけた。それにより彼らは凍傷をわずらい、手や足を動かせなくなる。
「お前ら……!」
仲間を失い、一人となった女は憎しみいっぱいの顔で少年たちを睨みつけた。ライアンは走ってすかさず攻撃しようとするが、女は衝撃波で強化したナイフを投げた。それはライアンの腕にまっすぐ刺さる。彼はやられた部分を持って呻いた。
「残念ね、あたしの武器には全部毒が塗ってある。あんたは長くは持たないわよ」
彼女は高らか笑い、そのまま彼に向かってふたたび針を投げながら突進する。はじき返すには時間が足りない。腕が動かない。少年は絶望_____いや、勝利を確信した笑みを浮かべた。
彼は自分を攻撃できるかできないかの微妙な距離に敵が近づいてきた瞬間、くるりとバク転した。その下から現れたのはルーカスだった。彼は高温の青い炎を一気に吹き込んだ。それは女の武器を全て溶かした。
「なッ……!」
突如現れた彼に女の理解が追い付かないうちに、ルーカスは二手目を打つ。それに合わせ、ライアンは風向きを使えなくなった片腕ではないほうで変えた。
「風は炎と相性悪いんだよな!」
二人がにやりと笑う。
「火!」
「風!」
「
「
炎が風を通して女に移る。火は激しく燃え盛った。
「いやああああああああ!!!!! 熱い!! 熱い!!!! 死にたくないいいいいい!!!!」
敵は悲鳴を上げて、転げまわった。少年二人はその姿を、ただじっと見つめた。自分のしたことを、目に焼き付けるように。罪を忘れないように。
やがて女は叫ぶのをやめ、少しずつ体が動かなくなっていった。完全に息が途絶えたとき、ルーカスは口を覆ってしゃがんでしまった。
一方ライアンはただ冷たい目をしていた。彼は死に慣れていた。目の前で母親を失ったからであった。そしてその間接的な原因であったペストを、仲間として認識することもなかった。フロスト社に所属するペスト以外、他はただの敵であった。そして母親を撃った安保隊も、彼は憎んでいた。
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