第102話 舞え、戦え!

 ビルの屋上で隠れて回復していたキャサリンと翔は、爆発音と大量に飛んできたペストの大群を見た。


「なっ……なんなの、これ!」


 少女は思わず声を上げる。


「安保隊はなにやってるのよ!」


 隊士たちはエアーバイクの上で動けずに、ふらふらと漂っている。少しでもペスト同士の攻撃の間を入ったら、死んでしまう状況だからであろう。


「本気でまずいことになってきたな……」


 翔は眉間にしわを寄せた。こんなに大規模なことが計画されているとは、全然予想がついていなかった。


「早く火を止めに行かなきゃ! 行こう、翔!」


「ああ」


 二人は飛び立った。ときたま安保隊の銃の弾が飛んできて、キャサリンはイライラした。


「あの人たち、私たちと悪いペストの見わけもつかないの?!」


「もともと期待するような人たちじゃないよ」


 翔は呟いた。そうだ、もともとニューヨークのあの訓練兵たちが柔らかい頭をしていただけだ。他があんなにすぐにこちらを理解してくれるかと言えば、絶対にそうではない。


 爆発現場に到着した二人はセレドニオに会った。三人は手分けして、素早く火を消し始めた。逃げ遅れた人がいたら、風の能力の持つセレドニオとキャサリンが率先して、彼らを下まで運んだ。ただ気を失っていなかった場合、ぎゃあぎゃあ叫ばれるのでただ死なないように周りを囲ってあげることしかできなかった。


 死者はもちろん出てしまっていた。年齢はさまざまだった。キャサリンは動かなくなった体を見るたびに、やるせない気持ちになった。


「なんだおめえら、ボスの仕事の邪魔か?!」


 二人のところに数人のペストが乗り込んできた。


「雑魚がきたぞ」


 キャサリンは警戒して後ずさったが、セレドニオは笑いながら言い放った。


「あ?! 何が雑魚だ!」


 ペストたちは怒り、そのまま戦闘が始まった。以前のキャサリンであればすぐにやられていたかもしれない。だが、今は違う。


「水火・朝霧」


「水風・雪の渦巻きsnow vortex!」


「風・竜巻tornado!」


 翔の生み出した霧に惑わされた敵が、キャサリンとセレドニオの技によってどんどん飛ばされていった。







「あ、来たわ!」


 未だ闇が充満していた道路付近では、ローザとガブリエラが周りの連中を倒していたところに、アドハムがやってきたのだ。闇の能力を消せるのは、怜、もしくは同じ能力をもつ人のみだ。彼の妹のライラは上空で、火の雨が降ってこないように、闇の結界を保つために残った。

 アドハムはすぐに闇を取り払った。氷と植物でできた敵を捕らえていた牢獄は、無惨に壊されていた。あの電気の少女は逃げたということになる。


「やっぱりいないわね……」


ローザはそれを見て呟いた。


「俺の素晴らしき闇を消すとは……お前ら芸術がわかってねえな!」


 突然声が響き、少年少女たちはあたりを見回す。男が歩いてくるのが見えた。風月ヴァントーズもそうであったが、彼のギャングは全員「神の僕」を模した黒い衣装を着ていた。マントはなかったが。


「闇の中で孤独になり、悲しみと苦しみにおぼれる人間ほど、芸術になるものはない……。それをお前らは消したのだ。許さん! 行け、お前ら!」


 彼の合図で、またかなりの数のペストたちが乗り込んできた。緊張した表情を浮かべたアドハムとガブリエラに、ローザが声をかけた。


「二人はあの闇のやつを倒して! この人たちは私がなんとかするわ」


「っ、大丈夫なのか一人で」


「ええ、心配しないで。早く行きなさい!」


「……ああ!」


 二人は駆け出した。ローザは額を両方の手で覆い、心の中で呼びかけた。


「大地・血の繋がりConnection of blood。 同じ赤い血を持つ小さな同士たちよ……、私に力を貸してください」


 そのとき排水溝やマンホールから、大量のネズミが出てきた。たくさんの鳥たちも彼女の声に反応してやってきた。それらはローザを守るようにして、彼女を囲った。


「皆、来てくれてありがとう……。お礼は絶対にするわ。戦いましょう!」


 動物たちは能力を発動したローザに合わせて、一斉に敵に襲い掛かった。

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