第101話 何者

 ルーカスは翔が行ってしまったあと、あの武器まみれの突風を回避してみようと数回突っ込んでみたが、血だらけになっただけだった。そこで、彼とライアンは戦略を練るために、少し敵から離れた。


「どうする、ライアン。どういう作戦で行くか?」


「少し時間をくれ。たった一人だけだからな、そこまで難しくないはずなんだ」


「だぁれが一人だけですって?」


 敵が素早く飛んできて、またふたたび針が飛んできた。二人は慌てて後ずさったが、針はそのままコンクリートの地面にまっすぐささった。


「あたしたちには仲間がたっくさんいるのよ!」


 彼女がそう叫んだ瞬間、数人のペストだと思われる奴らが、彼女が飛んでいる下からたくさん現れた。どれも見た目はただの不良。とはいえ、二人で片づけるにはかなりきつい。彼らは他の人間たちにも襲い掛かる。早くどうにかしないと、周りに危害が及んでしまう。


「ちっ」


 ライアンとルーカスは空中へ飛びあがった。ライアンがうんざりしたように叫ぶ。


「なんでこんなにペストがいるんだ?! 奴らのボスは一体何者だ?!」







風月ヴァント―ズ、とでもしておこう」


 トアンとミラベッラの前で、ギャングのボスである長い茶髪の男は名乗った。


風月ヴァントーズ……?! お前は『神の僕』に所属しているのか?」


「いや」


 トアンの問いを、男は肩をすくめながら否定した。


「正確に言えば『まだ』だな。わたくしは今まで様々な貢献をしてきたはずなのに、熱月テルミドールがわたくしが女好きであるから、という理由でなかなか認めてくれないのだ。せっかく風月ヴァントーズの座が今開いているというのに」


 自分に風の能力はないがな、と男は自嘲の笑みを浮かべながら付け加えた。


「だがここにいるペストたちはわたくしを、彼らのリーダーとして認めてくれた。だからこんなに味方が集まった。我々は目指すのだよ……! 『神の僕』の本拠地へ……人間が決して我々に銃を向けることがないペストの楽園へ!」


 高らかに宣言した男の語った戦う理由は、少し納得してしまいそうなものであった。だが、ミラベッラは激怒した。


「だからといって関係ない人を殺すのか?! ミラノを攻撃したのは、お前の言う熱月テルミドールへのただのアピールだったのか?! 私の姉が一体何をしたというのだ! なぜ彼女を殺した!!」


 男は不思議そうな表情で、首を傾げた。


「姉? そなたには姉がいたのか。んー、思い出せないな。美しいもの以外はすぐに忘れてしまうたちでね」


 怒りで襲い掛かろうとしたミラベッラを、トアンは必死に止めた。


「落ち着け、ミラ! 風は炎と相性が悪い! 何も考えないで突っ込んだら最悪死ぬだけだぞ!」


 ミラはトアンが正しいことを理解していた。彼女は悔しさで、唇を血がにじむほどかみしめた。


「茶番はこれくらいにしよう」


 男は何も気にしない様子で、そのまま手を出した。


「わたくしは遠隔攻撃が得意でね」


「っ、まさか!」


 パチン!

 アドハムとライラがまだ闇で囲い切れていなかったビルが、爆発を起こした。安保隊本部を襲ったものと似たような攻撃。悲鳴があちこちから聞こえた。


「くそっ」


 こいつを今すぐどうにかしなければならない。だがどうやって? トアンは拳を固く握った。




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